縊鬼(イツキ)
元の妖怪の性格や設定に近づけようと努力していますがわりかし妄想です(´・ω・`)
「陸君も随分たくましくなったね~」
「そりゃ一ヶ月もこの村で生活しているからね、農作業がこんなに大変だと思わなかったよ」
澄み切った青空に暖かい春の陽気の中。昼時、朝からの農作業を追え、僕と琳子とイッシャは縁側に座りお茶をすすりながら会話をしていく。
一ヶ月前までまともに鍬一つ振れず、琳子どころかイッシャにさえ基礎体力が負けていた僕であったが、最近農作業が板につき、ここでの生活にもだいぶ馴染んでいた。
もっとも電気がなく食事を作るのに竈など、お風呂や食事に使う水汲みなど、まだまだ違和感がありまくるが……。
「それじゃ、僕は東の森の方に水を汲みに行ってくるね」
「うん、わかった」
「いってらっしゃい!」
「あ、あの子に気をつけてね!」
「うん、わかってるよ」
二人に見送られ僕はでかいツボを背中に背負い歩き出す。
風呂や食事などの水は滝があり、川が流れている東の森の方へと毎日汲みに行くのが日課であった。
それなりの距離があり水も重く、重労働であり荷が重かったので、最初は琳子が行ってくれてたが最近では恩返しの意味も含め僕が行くようにしている。
余談だが水流をたどりこの村から出ようとしたが結局森から出られず、不思議なことに入り口までやはりもどってきてしまったことがあった。
「ふぅ、やっぱり川までの道のりは長いな、体力ではまだ琳子の方が上か……」
照り付ける太陽の中、木々の間を抜け、汗を拭い茶色い地面の上を歩いてゆく。
よくよく考えれば二十度ぐらいはある気温の中、着物姿のあの二人はよく暑くないものだと感心してしまう。
「むっ?!」
不意に頭上に巨大な黒い影を感じ僕は歩みを止め、とっさに後ろへとジャンプをする。
目の前には巨大な岩がズシーンと音を立て地面へと落ちていく。
「ちっ! はずしたか!」
「危ないじゃないかイツキ!」
「当たり前だろ、殺す気なんだから」
半そで半ズボンの農民のような黒い服を着た黒髪の少女が悪びれもなく木の上からそう答えた。
(岩を持ってどうやってあそこに上ったんだろう 妖怪なだけあって意外に力持ちなのかな……)
イツキという名のその少女はこの森に住んでいる鬼であり、額には縦に伸びた一本の角がある。
人間の僕のことが嫌いらしく、僕がこの森に入るたびに色々な攻撃をしてきたのだ。
「それにそんなとこにいると危ないぞ!」
「へっ! お前に心配されるおぼえなんてあたしには――ってわわ!!」
「イツキ!」
何というお約束、イツキはそう言いかけ足をすべらせ木の下に落ちていった。
僕は慌ててイツキの元へと駆け寄るが外傷は無く気絶しているだけのようである。
「はぁ仕方ない」
僕は気絶したイツキを両手で胸元に抱え、川までの道のりを歩き出していく。
――
「イツキ、まだ目を覚まさないな……」
川の隣のジャリの上にイツキを仰向けに寝かせ、ハンカチを濡らし頭の上に乗せ、その隣で座りこみ、様子を見続けていた。
「しかし、こうして見てみるとイツキもただの少女だよな……」
再度ハンカチを冷たくしようと僕はイツキの頭上に手を伸ばす。その最中、イツキがパチリと目を開け上半身を起こす。
「ん? ここは……」
(嫌な予感……)
「て、てめー! あたしに何しようとしてんだ!」
「イツキ! 落ちつい――」
嫌な予感が的中し、イツキが我を忘れ興奮した様子で僕の首をものすごい握力で締めていく。
何とかなだめ手を離すように求めるが、その前に酸欠を起こし意識を失う。
「あ、ごめん!」
気絶するのを見てイツキが我に返り、陸の首からとっさに手を離し謝る。
「ってあたしは何謝っているんだ! 殺すなら今がチャンスなのに!」
イツキはそう言い陸の首に再度手をかけようとするが、ふと地面に落ちているハンカチに気づき、また手が止まってしまう。
「……こいつあたしの事見ていてくれたんだよな」
「ああ、もう! 今回だけだからな!」
――――
「ん? イツキ……」
夕暮れ時、気絶した僕が仰向けの状態から上半身を起こし目を覚ます。辺りを見回すとそこは村の入り口であり、水が入ったツボもちゃんと置いてあった。
「イツキが運んでくれたのかな?」
「ありがとね、イツキ」
僕は立ち上がり森を見上げ、笑顔でお礼をし、琳子たちが待つ家のほうへと歩みを進めることにする。
「乱暴だけど根はいい子なんだな」
その言葉に対し、森のどこからかイツキの「けっ!」と言う様な声が聞こえてきたような気がした。
見てくださった方に感謝です。