座敷童子とイッシャ
とある村の中。さんさんと照り付ける太陽の中、耕された土の上で農作業をする三人の人影。
「イッシャ、この種を向こうに植えてきてくれる?」
「うん! わかった! 」
イッシャと呼ばれた和服を着たその少女は片足でピョンピョンと跳ねながら,向こうの方へと種を植えに向かっていく。
「陸く~ん、こっちは耕し終わったよー!」
「わかったよ琳子! こっちももうすぐ終わるから待ってて」
「うん!、終わったら三人でお茶にしようね」
琳子と言う名の少女が畑の遠くの方からそう叫び、少年は汗を拭い、頷いて返事をかえす。
「ここに来てもう一ヶ月か……僕も随分たくましくなったな」
両手で鍬を持ち立ち尽くし、日差しが強い澄み切った青空を見て彼は思い浮かべていた。
―― 一ヶ月前、季節は四月。
「はぁはぁ……出口はどっちだろ?」
僕は深い山の中を三日間ぐらい彷徨っていた。。
僕は昔から不幸を呼ぶ体質だった。
関わりを持った友人達は何かしらの事故などに巻き込まれ全員僕から遠ざかっていった。
その不幸体質のせいかクラスメートや周りの人からは「疫病神」「死神」と僕の事をいつしか呼ぶようになり、とうとう三日前僕を乗せた両親の車が事故に合い、二人は大怪我を負い自分だけは無傷であり不幸体質が両親にも露呈したのだ。
居場所が無くなるのを感じた僕は自殺をしようと近くの山の奥まで来たのだが、踏ん切りがつかず帰ろうと思ったがすっかり遭難してしまっていた。いくら木々を掻き分けても延々と続く森。
日が沈み、空がオレンジ色となり、カラスの鳴き声が聞こえてくる。
「僕はこのままここで死ぬのか……」
死ぬつもりで来たのにいざ死を目の前にすると恐怖心が心の中に沸いてきはじめる。
息を切らしながら木の幹に腰を掛け座り、三日間の疲労と空腹もあってかそこで僕の意識は途絶え暗闇の中へと飲み込まれていった――。
――――――
「ん? ここはどこだ……?」
森の中で意識を失ったはずだが目を開け上半身を起こす。そこは畳の上であり、上には木の天井が広がっていた。
「あ、気がついた!」
「気がついた~!」
ピンクの着物を着た茶色い髪をした自分より二つぐらい下の少女と、黄色い着物を着た同じく茶色い髪をし背中に破れた和傘を背負った、小学生ぐらいの身長の女の子が僕の顔を覗きこんでいた。
「君、村の中に倒れていたんだよー」
「村?」
「うん! ここは私たち妖怪たちの村で逸見村って言うんだよ~」
「妖怪? どういうことだ?」
そう聞くと、少女はゆっくりと説明してくれた。
ここは環境破壊などにより行き場を失った妖怪たちがさ迷い、歩いていると自然に皆この場所へとたどり着き、家を建て、農地を耕して生活をし一つの村としたらしい。
とても信じられる話ではなく半ば半信半疑で僕はその話へと耳を傾ける。
「へぇ~そうなのかー、けど二人には悪いけど僕はこの村から出て行くね、助けてくれてありがとう」
疫病神の自分がいてはきっとこの二人も不幸にしてしまう。そう思い、僕は立ち上がり迅速にこの場を立ち去ることを決める。
「試す人もいたけど、この場所から出られないんだよー、森に入って出ようとするといつのまにか入り口に戻っちゃうの」
「そんなばかなことが……」
僕がそう思い家の外に出ると、木造建ての家々が並ぶ、村の周りは背丈の倍以上はある木々の森に囲まれており、森の中を突き進み外に出ようとすると、いつのまにか村の中へとまた戻って来てしまっていた。
何度もそれを繰り返し出られないことを悟り、僕は家の前で両手両膝をついてがっくりとうなだれ倒れこむ。
「出られないって事がわかったでしょー?」
「うん……僕は一生ここで暮らすのか……」
わかりきっていたような表情で、かがんで僕の方を見るピンクの着物を着た少女。
現世には何の未練もなかったが少しだけ両親の事が僕の脳裏に浮かぶ。
それでも出れない事には変わりがないので起き上がって立ち尽くす。
「それじゃ、君の面倒は私たちが見るっておしら様に言ってきたからこれからよろしくね!」
「おしら様?」
「うん、私たちの村で一番偉い人だよ」
「へぇ~」
「私は座敷童子の琳子だよ、よろしくね!」
「イッシャはイッシャだよ~!」
ピンクの着物を着た少女が琳子と名乗り、黄色の着物を着た少女がイッシャと名乗る。
よく見るとイッシャのお尻の部分には、トウモロコシの実のような尻尾がありうれしそうに振っていた。
「琳子にイッシャか、僕の名前は高嶺陸だよ。二人ともよろしくね」
「「うん!」」
かくして人間である僕と妖怪たちの生活がこうして始まりをむかえた。
イッシャについて、片脚だけで飛び跳ねて歩く、片脚を痛めているために、歩き方がこのように見えるともいう話があるので片足歩きです。