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第五話 対抗意識を持たれても

しばらくして、私は誰かに額を叩かれた。

驚いて飛び起きると、目の前にはアルフレッドと見知らぬ男が私を面白そうに見ていた。

顔が整った黒髪の青年。まるで風を受けているような前髪は、アルフレッドとそっくりだった。

驚きのあまり私は何も言えずに黙っていると、二人は笑い声を上げた。

しかし、腹を抱えてまで笑い転げるものだから、私はムッとして言った。


「そこまで笑う事は無いだろ」


「いや、ゴメン、ゴメン。反応が面白くってね。

ああ、こっちは俺の友人のフェリックス。君より年上だよ」


「初めまして、エドガー。アルフレッドが世話になってるよ」


「こちらこそ、私が世話になっているくらいだよ」


私とフェリックスは握手を交わす。

その間、アルフレッドはというと、自分の椅子に座り、足を組んで赤く染まりつつある空を眺めていた。そういえば、怪我の方は大丈夫なのだろうか。


「アルフレッド、怪我の方は……」


私がそこまで言いかけると、彼は振り返って笑った。


「俺の回復力をなめないでほしいね。二時間も寝たから、もうどこも痛くないよ。

ああ、そうだ、フェリックス。また手伝ってほしいんだけど……。あ、もちろんエドガーもね」


アルフレッドはそう言うと、自分の机の引き出しから一通の黒い封筒を取り出した。

骸骨の模様が刻まれたその封筒から、一枚の白い便箋を出し、フェリックスに手渡す。

私も横から手紙を覗く。どうやら、血液で書かれたようだ。既に若干茶色くなっていた。





『アルフレッド・グローリア


今夜の九時。ウール湖の畔に来い。


                  G・I』




「G・I? 誰だろう……」


「ギルバート・イジューイの頭文字だ」


アルフレッドの代わりにフェリックスが答えてくれた。


「果たし状か……後四時間後……行くのか?」


「もちろんだよ」とアルフレッドが手紙を受け取って引き出しへ戻す。「そろそろギルバートと決着をつけないとと思っていたからね。丁度良い機会だよ」


彼はごそごそと山のように物が置かれた所から、細長い西洋風の剣を取り出して眺めた。


「死神の決闘はこの剣を使って行われるんだ。鎌じゃないよ。

そして、相手が倒れるまで闘い続ける。案外過酷だろう?」


鞘から刃を引き抜き、音を立てて空気を切るように振り回す。

危なく私の頭に直撃するところだったが、すぐさま反応して低くしゃがんだ。

私の頭上ギリギリを鋭い刃が通過する。


「私の首は切らないでくれよ」


「たまたまだってば。別にわざとじゃないからね」


彼は剣を回転させて鞘に収めた。そして、細長い剣を机の上に置いてソファに深く座る。


「とにかく、エドガーとフェリックスも一緒に来てほしいんだ。

近くの茂みに隠れていてくれよ。もしかしたら俺が刺されるかもしれないからね。

その時は頼んだよ」


それからというものの、誰も一切口を利かず、嫌な沈黙が続いた。

刻一刻と迫る決闘の時間。一時間、二時間と過ぎ、いつの間にか残り三十分しかなくなっていた。

ソファに座ったまま考えにふけっていたアルフレッドは、未だに行動を起こそうとしない。

ただ、じっと横の机に置いた剣を見つめ、指一つ動かそうとしなかった。

微動だにしない彼の様子を遠めで見ていた私とフェリックスは、アルフレッドの心理状態があまり良くない事を悟る。


自分よりも圧倒的に強い敵と一騎打ちで勝負なんて、奇跡が起こらなければどう考えたって負ける。

そんな極限状態の中で、彼はどんな事を考えているのだろうか。

自分が勝つ事か、負ける事か、それとも死ぬ事だろうか。私には全くわからなかった。

きっと、このような状況に陥った者しか味わえない感覚だろうから。


決闘時間の五分前まで迫った時、ようやくの事でアルフレッドが動き出した。

唇をキュッと噛み、剣を持ってさっさと部屋を出て行く。私達も急いで小さな懐剣をローブの内ポケットに入れてアルフレッドの後を追った。

少々欠けた月と無数の星が輝く冥界の夜空。

私とフェリックスはアルフレッドの指示通り、彼から十メートルほど離れた茂みに身を潜めた。

アルフレッドが湖のほとりに行くと、後ろで青い髪の毛を縛り、大きなイヤリングを左耳に付けた男が彼を待ち受けていた。

五メートルほどの間隔を開けて、アルフレッドは立ち止まった。


「時間ギリギリに来るなんて珍しいな……あ? 怖気づいたか?」


確かに彼が言っていた通り、ギルバートという男の口は悪い。

とても挑戦的な感じだ。しかし、アルフレッドは動じずに答える。


「待つのが嫌だったんだよ。さあて、始めようか。これで最後だぞ。

俺が勝ったら、俺に付きまとうのを辞める事。

俺が万が一負けたら……そうだな、依頼を受ける時以外、オシリス様に近付かない。

それでいいか?」


「ああ、オーケイ。へへっ、血が騒ぐぜ! そんじゃ、本気でいかせてもらうからな!」


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