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第九話 破滅の原因


アルフレッドと私は叫び合いながら走り続け、たまたまあった小さな建物の中へ逃げ込んだ。

読者のみなさんは、もう安心だろうと思ったかもしれないが、全くそんな事はない。

なんと、逃げ込んだ建物の中にも更に二対のガーゴイルがおり、完全に私達は包囲されてしまった。

中央に追い詰められ、絶体絶命の状況。武器といえば果物ナイフがそれぞれ一本ずつあるだけだ。

自分達の縄張りに入った侵入者を威嚇するように唸り声を上げるガーゴイル。私はためらった。


「どうしよう……こんな小さなナイフじゃ歯が立たないよ」


「こうなるってわかってれば、鎌くらい持ってくればよかったかな。……もう遅いけどね」


アルフレッドが苦笑して一歩後ろへ下がったその時。

突然私達の足場が崩れ、私達は瓦礫と共に下へ落ちた。私は一瞬、何が起こったのかわからなかった。落下していく私達を三体のガーゴイルが見下している。

途中、小さな瓦礫が私の頭に当たり、私はそのまま気を失ってしまった。









――どれくらいの時間が経ったのだろうか。




ふと目覚めた時、最初に視界に入ってきたのは遥か遠くに見える大穴だった。

ぼやけていた視界が徐々にハッキリし、ゆっくりと起き上がる。

多少、瓦礫がぶつかった頭が痛んだが、それほどの痛みではなく、とにかく私は辺りを見回してみた。


「アルフレッド!」


私の左側で瓦礫に埋もれたアルフレッドを発見した。

私が近付いて瓦礫をどかそうとするが、やはりアルフレッドはただ者じゃなかった。

自分で大きな瓦礫を殴り飛ばしてどかし、頭をポリポリとかきながら何事も無かったかのように私の元に歩いてくる。


「大丈夫かい、エドガー? それにしても床が抜けるなんて思いもよらなかった。

でも、おかげで調査がはかどりそうだよ。ほら、見てみなよ。

そこの入り口からどこかへ繋がっている通路がある。たかが調査だが、面白くなってきたぞ」


アルフレッドと私は落ちた空間から続いている少々狭い通路を歩き出した。

暗いのでランタンの光を頼りに、一歩ずつ前へと進む。


五分くらい歩いた頃だろうか。私は顔に風が吹く感覚を味わった。

アルフレッドも感じたらしく、私達は驚いて顔を見合わせる。先程の地上では無縁とも言える風。

それに出口と思える光が前方に見えてきたので、早歩きで通路を抜けた。


「おい、見ろよ、エドガー! 地下の巨大空間だ! まるで本の中みたいだな……興奮してきたよ!」


彼は目を輝かせ、この不思議な空間を見回す。

自ら光を放っているように見える青色の天窓。

階段、円盤状の大きな足場が交互に続き、それが螺旋階段のようになって下へと向かっている。

簡単に言えば、この空間は大きな筒のような感じだろうか。

天井は私達のすぐ上にあるので、きっとここが最上階だと思われる。

壁に刻まれた不思議な模様に視線を奪われながら、少しずつ下へと向かって行くアルフレッドと私。

下に行くにつれて天窓からの光が届かなくなってきたので、再びランプに火を入れ、足元を照らしながら歩き続ける。

二時間ほどが経過したところで、ようやく一番下に到着。

上を見上げると、既に天窓は豆粒のように見える。


「それにしても、まさかこんな空間があるなんてね……でも、化け物いっぱいの地上よりはマシか。ん? なんだろう、これ。二枚開きの扉ねえ……」


彼は丁度、私達の正面にあった扉の取っ手を掴み、開けようとする。

しかし、ガチャガチャと音が鳴っただけで、開く気配は無い。


「鍵がかかっているのか? うーん……わからん……」


アルフレッドが顎に手を当てて考えている中、私も扉に近寄って細かく調べる。

先程の壁の模様とは違う、きっちりと刻まれた二つの紋章。

少し暗い青色の壁に彫られ、黒い取っ手の下には何かになぞられたような所々曲がった一本の線。

私は何気なくその線を右手の人差し指でなぞってみた。

最後までなぞって手を離すと、ガチャン! と大きな音がして扉が勝手に開く。


「ひ、開いた……」


私は驚きを隠せずただ突っ立っていた。

アルフレッドも簡単に開いてしまった事に驚き、目をぱちくりさせている。

目を丸くしながらアルフレッドは持っていたランプをかかげる。

扉が開いたその部屋の中央から、今度は上に行くための螺旋階段が伸びていた。

更に、その階段だけを照らしている青い光がとても不気味に感じる。私は何故か鳥肌が立った。


「今度は上に行けって言ってるみたいだね。手間がかかるなあ……」


溜め息を吐き、文句を言い合いながらもアルフレッドと私は階段を上り始めた。

カツン、カツンと二人分の足音が響き渡り、そして私達の話し声も同時に響く。

若干息が上がり、ようやくの事で階段の最後を向かえた。

もうこの時に既に私は嫌な予感がしてたまらなかった。

あの青い光の正体。それは、階段の出口を囲んでいた六本のたいまつだ。

外とは違う更に重苦しい空気が漂うこの巨大な空間。

きっと地上に戻ってきたはずだが、どこだかはわからない。


「……この仕事……断ればよかったかもしれないね……」


突然、珍しくアルフレッドが弱音を吐いた。

どうして、と私が聞くと、彼はぎこちない苦笑いを浮かべて言った。


「わからないのかい? この最悪な空気……どうやらここには最悪な奴が住み着いているみたいだ」


「最悪な奴? ガーゴイルの事かい?」


「違う。……亡霊だよ、エドガー。見ろよ、この床一面に描かれた魔法陣。

ダメだ、もう最悪としかいいようがない。ほら! 奴のおでましだ!

くそぅ、ドアが無いなんてついてないなあ! ……こりゃ、今度こそ絶体絶命かもね……」


私達は魔方陣の上からとっさに出る。

すると、私達が避けた瞬間に魔方陣が光りだし、たいまつに灯っていた青い火が消えた。

そして、次の光景を目にした瞬間、私は本当に身の危険を感じた。

光った魔方陣からゆっくりと現われた巨大な化け物。

赤い瞳がぎらつき、竜のような口元から覗く鋭い歯。

身長が百七十センチメートルほどのアルフレッド三人分の高さを持ち、宙に浮き、白骨化しかけている右手に黒くて巨大なロッドを握っている。

それから六本の角と六枚の翼を生やし、とてつもない威圧感を放っていた。

私は後ずさり、壁にぴったりと背中をくっつけた。

見た事が無い怪物に、すっかり私は怖気づいてしまっていた。


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