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追放された俺、なぜか勘違いされながら距離感のおかしい人たちに囲まれている ~無能扱いだった評価が外の世界で逆転しただけの話~  作者: 猫又ノ猫助


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第7話 小さな奇跡

夕刻、詰所の外が騒がしくなった。

 

「戻ってこない……?」

 

巡回に出た二人が、予定の時間を過ぎても帰還していない。

空は薄曇りで、風が変わり始めている。

 

責任者が地図を広げ、眉をひそめた。

 

「想定ルートは問題ないはずだが……」

 

俺は地図を覗き込み、無意識に周囲を見回していた。

風向き。

雲の流れ。

地形の陰。

 

――嫌な感じがする。

 

「……一本、確認していいですか」

 

言葉が出た瞬間、皆の視線が集まる。

 

「巡回は南の尾根を通りましたよね。

今の風だと、音が北へ流れる。

もし足を止めていたら、こちらに気づきにくい」

 

責任者が、はっと息を呑んだ。

 

「つまり?」

 

「呼びかけるなら、位置を変えた方がいい。

あと……回収は二人で行かない方がいい」

 

沈黙が落ちる。

 

「……理由は?」

 

俺は言葉を選んだ。

 

「この時間帯、視界が一番悪い。

焦ると判断を誤る。

行くなら三人。

合流地点は、ここ」

 

指で示すと、責任者は短く頷いた。

 

「分かった。

指示通りに動く」

 

その決断は早かった。

 

しばらくして、遠くで呼び声が上がる。

反応が返る。

 

やがて、二人が戻ってきた。

一人は足を痛め、もう一人は顔色が悪い。

 

「……助かった」

 

座り込んだ彼が、震える声で言った。

 

「道を間違えて、

戻ろうとしたら足を滑らせて……

正直、夜になるところだった」

 

もし、あと少し遅れていたら。

もし、二人で行っていたら。

 

誰も口にしなかったが、

全員が同じことを思っていた。

 

責任者が、俺の方を見る。

 

「君がいなかったら、

判断が遅れていた」

 

胸の奥が、きゅっと締まる。

 

「……たまたまです」

 

そう言うと、彼は首を横に振った。

 

「違う。

これは“判断”だ」

 

その言葉が、やけに重く響いた。

 

夜。

詰所は、いつもより静かだった。

 

焚き火のそばで、ミリアが隣に座る。

 

「……さっきのこと」

 

彼女は少し間を置いて、続けた。

 

「正直、怖かったです。

でも、あなたが言った通りに動けば大丈夫だって、

思えた」

 

「俺は……」

 

否定しようとして、言葉が詰まる。

 

否定できるほど、軽い出来事ではなかった。

 

「ありがとう」

 

その一言に、胸の奥が温かくなる。

 

――小さな奇跡。

 

派手な戦闘も、劇的な勝利もない。

だが確かに、

今日、誰かの命が守られた。

 

俺は、ただ考えて、言葉にしただけだ。

 

それでも。

 

「……勘違いだとしても」

 

小さく呟く。

 

「役に立てたなら、それでいい」

 

焚き火が、静かに揺れた。

 

この夜を境に、

俺を見る周囲の目は、

ほんの少し――

確実に、変わっていた。

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