第3話 拾われた場所
翌朝、俺は街道脇の小さな検問所の前に立っていた。
木製の柵と簡素な詰所。
街を守るための臨時拠点らしく、人数も装備も最低限だ。
本来なら通り過ぎるだけの場所だが、
詰所の前で言い争う声が聞こえて、足が止まった。
「だから、今はそれを運ぶ余裕がないんだって!」
若い女性の声だった。
兵装は軽く、明らかに経験不足。
周囲には、焦った様子の数人がいる。
「でも、このままだと補給が――」
声を荒げる彼女の背後を見て、俺は無意識に状況を整理していた。
人手が足りていない。
物資の配置が悪い。
このままでは、夜までに持ち場が回らない。
――考えるな。
俺には関係ない。
そう思ったのに、口が先に動いた。
「……荷を三つに分けて、先に軽い方だけ運んだ方がいい」
全員の視線が、こちらに集まる。
「え?」
しまった、と思った。
余計な口出しだ。
だが、続けてしまう。
「今は人が少ない。
重い物を無理に動かすと時間を食うし、怪我の元になる。
先に配置だけ済ませて、残りは日が高いうちに回せば――」
沈黙。
俺は慌てて言い足した。
「……あ、いや。
独り言だから、気にしないでくれ」
逃げるように立ち去ろうとした、そのとき。
「待って!」
先ほどの女性が、俺を呼び止めた。
「……それ、もう少し詳しく聞かせて」
困惑しながら説明すると、彼女は何度も頷いた。
「確かに……今、全員が同じ場所に集まりすぎてた」
すぐに指示が飛ぶ。
配置が変わり、人が動き、場の空気が変わった。
結果は、驚くほどあっさり出た。
滞っていた作業が、次々と片付いていく。
「……助かった」
女性が、息をついてそう言った。
「え?」
「正直、どう回せばいいか分からなくなってた。
あなたの言った通りにしたら、全部うまく行った」
俺は首を振る。
「偶然だよ。
たまたま見えただけで――」
「でも、気づかなかった」
彼女は、まっすぐこちらを見た。
「私たち、ずっとこの拠点にいるのに」
その言葉に、胸の奥がざわついた。
――そんなはずはない。
俺が特別なわけがない。
「名前、聞いてもいい?」
「……いや、ただの通りすがりだ」
そう答えると、彼女は少し困ったように笑った。
「じゃあ、通りすがりさん。
もしよかったら、少し手伝ってくれない?」
「人手が足りなくて……」
一瞬、迷った。
だが――
役に立たないと思っていた自分を、
必要だと言われた気がして。
「……雑用なら」
そう答えた俺に、彼女はぱっと表情を明るくした。
「十分!」
その笑顔が、なぜか胸に残った。
後になって思えば、
このときすでにおかしかったのだ。
ただ合理的なことを言っただけで、
ただ手を貸しただけで。
なぜか、距離が近い。
だがこのときの俺は、
それを“勘違い”だとすら思っていなかった。
――ここが、
俺の居場所になるかもしれないなんて。
まだ、考えてもいなかったから。




