第2話 自分はいらなかったのか
街道を外れ、夜の風に吹かれながら歩く。
背負った荷袋は軽い。
雑用係だった俺の私物など、もともと大した量はなかった。
「……静かだな」
そう呟いてから、
今までどれほど“誰かのそば”にいたかを思い知らされる。
焚き火の音。
剣を研ぐ音。
無駄話。
それらが一気に消えて、
世界はひどく広く、冷たく感じられた。
――俺は、本当に役に立っていなかったのだろうか。
何度目か分からない自問を、また繰り返す。
作戦前に地形を見て言ったこと。
物資を多めに用意したこと。
無理をしそうな仲間に、声をかけたこと。
「……全部、当たり前か」
口に出すと、少しだけ納得できる。
誰だって考える。
誰だって気づく。
俺が言わなくても、いずれ分かったはずだ。
だから――
俺がいなくなっても、問題はない。
そう考えれば、追放は妥当だった。
「戦えないのは事実だしな」
自嘲気味に笑う。
魔力も剣才もない。
危険な場面では、足を引っ張るだけ。
カイルの言葉が、頭の奥で繰り返される。
――足手まといだ。
否定できなかった。
感情的に反発することもできなかった。
それが、余計に胸に刺さる。
野営の準備をし、火を起こす。
慣れた手つきだった。
「……癖って、抜けないな」
誰かに言われたわけでもないのに、
風向きを確認し、周囲を見回し、荷の配置を整える。
安全な場所。
退路。
万が一のときの動線。
考えてしまう自分に、苦笑した。
「もう必要ないのに」
役に立つ場面など、ここにはない。
それでも、
何も考えずにいられなかった。
火を見つめながら、
過去の光景が浮かぶ。
「助かったよ」
「気づかなかった」
「言われてみれば、確かに」
そんな言葉をかけられたことも、確かにあった。
だが、それは――
記録にも、成果にも、評価にも残らない。
残るのは、失敗したときの記憶だけだ。
「……都合がいいよな」
誰かの判断が当たれば、その人の手柄。
外れたときは、口を出した奴のせい。
俺は、そういう立場にいただけだ。
火が、ぱちりと弾けた。
「……いいんだ」
そう言い聞かせる。
戦えない俺が、
冒険者パーティに居続ける方が無理があった。
これからは、一人でやれることを探せばいい。
危険の少ない仕事。
誰にも迷惑をかけない場所。
「静かに生きよう」
それが、今の俺にできる最善だ。
夜空を見上げると、雲の切れ間から星が覗いていた。
――明日は、どこへ行こうか。
その問いに、答えはまだない。
だがこのときの俺は、
自分が“選ばれなかった人間”だと、完全に信じ込んでいた。
まさかこの先、
「いなくなると困る」
と言われる日が来るなど、想像もしていなかったのだから。




