7:濡れたハンカチ
*フィクションです
藍木が泣いていたのは、ファンをしていた人が過去に人を貶めていたから。
(そして次は、人を巻き込んで心中を……ん?)
「えっと?あ、あの、いいですか」
火流が手を挙げると、視線がそこに集まった。
「俺はあの、アレなので、間違ってるかもしれませんが。ライミさんが心中を企てたんですよね?遺書の内容的に」
「はい」藍木が答える。
「なんでポップさんは、それに乗ったんでしょう?罪を"償われる側"なのに」
「……それは……」
藍木は言葉に詰まった。
ポップはライミと違い、何か後ろめたい過去があるわけではなかった。
表舞台ではクールキャラを演じているが、裏では人並みに明るい、普通のアイドル。
「えーっと、あの、忘れてください……」
「いえ、すいません。私にはわからないけど、確かにそうですよね……」
「うーん。それは捜査一課の仕事ですね。それで、大丈夫そうですか?他に悩み事は」
林枯が微笑みながら訊くと、藍木はかぶりを振った。
「はい。多分、もう涙は出ないと思います。あなた達と話せて、頭がスッキリしました。あの、ありがとうございました」
藍木は丁寧に頭を下げた。
比べれば、号泣していた姿とはまるで違う。
三人は藍木をスタジオへと送った。
「そういえば、どうして私が泣いている理由が分かったんですか」
「あは……少し痛いとこ突かれたな。半分賭けだったんですよね。まず、あなたはポップちゃんを音田さんと呼んだでしょう。ファンをしているアイドルの相方に対し、よそよそしいなと思ったんです」
「あぁ、確かに」
「ポップちゃんが苦手なのかと思ったけど、そういうトーンじゃなかった。それで、モデルの賞の話になって、露骨に反応し始めたから____何かあると思って。遺書だな、と。ズバリ」
「へぇー刑事さんって、やっぱり頭がいいんですね」
褒められると、林枯はえへへと照れた。
ふっくらした頬に赤みが差す。
「……ライミちゃん、ほんとに明るい子だったんですけどね。最近はちょっと、炎上でピリピリしてたけど。私、激レアグッズのカバンとか、ハンカチも十個くらい持ってて____」
エレベーターに乗り込む前、ふと藍木が言った。
未練があるような言い方でも、その表情はどこか清々しかった。
その時。
「……ハンカチ?」
急に林枯が、低い声で呟いた。
火流と瀬古が、目線を向ける。
「えっ、は、はい」
「ライミちゃんのグッズってやっぱりオレンジ色が強いんですよね。なら、そのハンカチもですか」
林枯の勢いに、藍木は「は、はい」と答えた。
瀬古は眉をひそめて「おい」と声を掛けた。
「でも、あなたが今持ってるのは、それとは別じゃないですか?」
それは、藍木が持っている、黒い高級そうなハンカチの事だった。
「えっと、私、今朝からずっと泣いてるから、持ってたグッズハンカチ、三枚とも全部ぐちょぐちょになっちゃって。その時、ハンカチ貸してあげるよって、プロデューサーの山滝さんが____」
その瞬間、林枯は元々大きい瞳を更に大きくした。




