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1-5*ダメージ−999

*この物語はフィクションです。


窓の外を見ると、灰色の雲の合間から明るい光が差し込んでいた。

これから晴れるのかもしれない。


「車に気をつけてと言ったのに、人の頭をかち割るのはいいんですね」


皮肉をこめて瀬古は言ったのだが、横のパイプ椅子から反応はなかった。

横目でチラッと見ると、火流は両手のひらを顔に被せ、ぶつぶつと何か呟いていた。


「俺のせいで、ハゲができちゃったらどうしよう……」


さっきから、三十分以上前からこんな感じ。

こりゃもうダメだと、はぁと溜息をついた。


これでも、瀬古は焦ったのだ。

電話向かいから死にそうな声で「どうしよぉ、人の頭かち割っちゃった」と言われた時には、そういうサスペンスが始まったのかと思った。

本能的に跳ねる心臓を落ち着かせ、それから事情を聞いて……そして、()()()はなった。


今は警視庁の医務室。

パイプ椅子に座る二人の前には、がベットの上ですぅすぅと寝息を立てる青年がいた。

火流が手を掴んで、頭を打ってしまったのだ。


一時間前は息切れして真っ赤に染まっていた顔が、今は熱が引いて、元の白い顔に戻っていた。

元の顔が人形のように整っているせいで、その右上にあるぽこっと盛り上がったたんこぶが余計目立っているのだが。


命に別状はない、と医師は言った。

頭をぶつけ一時的に気絶しているだけで、後は基本的に大丈夫。たんこぶだけで済んで良かった、とも。


二人は林枯が起きるのをじっと待っていた。

火流は罪悪感からずっと落ち込んでいて、瀬古はまた待ちぼうけする事になって苛立っていた。


「『ハヤシカラなんて知らない』と、こいつは言ったんですね」


いつのまにか"こいつ"呼びになっている。

火流は眉をひそめたがすぐ暗い声で「うん」と言った。


「よく分かりませんね、そこが」


合流してから、瀬古は躊躇なく林枯のスーツや物品を漁った。その時見つけたのが、警察手帳だった。

顔写真には倒れた青年と同じ顔があり、名前欄には林枯歩とあった。

つまり、青年はほぼ確定で林枯歩である。


「何故そんな意味不明なこと言ったんでしょう。可能性で言えば虚言とか、双子とか、記憶喪失とか」


「記憶喪失?」


吊り目を丸くした。


「……こいつがそのセリフを言ったのは頭を打つ前でしょう? ちょっと、落ち着いたらどうです」


「は、はい……。すぅ、はぁ⭐︎」


火流は手を広げて深呼吸した。


その間に、瀬古はベットの林枯を訝しげに見つめ、


「まァ、虚言でしょう」


と言い放った。

眉をひそめ口を歪めたその表情は、嫌いなものを見るそれとよく似ていた。


だが瀬古は急に、あっと気づいて火流を見やった。

____火流に、「人を決めつけるのはよくないよ」と珍しく怒られたばかりだった。

またうるさく注意されると思ったのだが……火流はまだ深呼吸していた。

さっきのセリフは聞こえなかったようで、瀬古は言わなかった事にした。


「ゴホン。これからどうしますか、火流さん」


「んー……。何だっけ、ダンボールを事件現場に届かなくちゃいけないんだよね。五時までに」


幾分か落ち着きを取り戻したようだ。

それから、考えるような顔つきになる。


「ライミと……ポップちゃんだっけ? アイドルの人が心中しちゃった事件の」


「えぇ。アイドル事務所の……フローラとかいう場所でしたか」


窓の外はやはり晴れてきていた。

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