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1-3*警視庁刑事部捜査一課捜査専門支援係

*これはフィクションです。


警視庁刑事部捜査一課捜査専門支援係。

長すぎるので、通称"捜専"。


近年刑事部に設置されたばかりの、火流と瀬古が所属している部署だ。


捜査一課というのは、優秀な刑事で構成された警視庁のエリート集団だ。

そしてもちろん、その本命は捜査である。

日夜、事件の解決のためにあちこちを駆け回る捜査一課をサポートするため、設置されたのが"捜専"だった。


"捜専"の仕事は単純だ。

捜査一課から()()を受けると、すぐさま行動する。

例えば、書類のコピー、掃除、段ボール箱の運搬など。


訳あって上層部によるトッカン工事で作られたせいか、"捜専"は人数が少ない。

何と言っても、火流、瀬古、サポート役一人、そして上司の酒蔵(さかぐら)の四人しかいない。


しかし、いくら人手が足りなくても、四人は毎日必死に職務に取り組む。


捜査一課は平和に生きる人々のため、"捜専"は捜査一課のため、各々の仕事に励むのだった。


____と、ここまでが"捜専"の説明。表向きの。





"捜専"には、一つ大きな問題があった。


実は捜査一課から送られてくる要請の多くが……()だったのだ。

要請というものに規定は全くない。

エリート刑事たちの良心によるもの、だからか……。


イライラしたときの八つ当たり役、捜査一課以外も参加する捜査会議の準備、靴磨き、など。

その中には、火流や瀬古が頭を傾けたくなるようなものは少なくなかった。


昨日、"捜専"には一つの要請が届いた。

それは甘味を買ってこいというもので、二人はヒィヒィ言いながら(瀬古はヒィヒィ言わないが)街を回った。

そして、何とかそれを渡した時。


「なんだよ、これ、たまごプリンじゃないじゃないか」


「「……」」


火流はへにょりと眉を下げ、瀬古は黙っていた。


"捜専"は要請を断ることはできない。

捜査一課が「捜査のため」と宣言すれば、"捜専"は行動するしかなくなるからだ。


端的に言って____捜査一課は、"捜専"を雑用係としてこき下ろしていた。

捜査一課の中には、"捜専"を『落ちこぼれの集合体』と笑う人もいた。


そして、特にその負担の割を食っているのが、火流と瀬古の二人だった。

酒蔵達はデスクワークや会議で忙しく、それ以外の要請は全て二人で取り組まなければならないからだった。


毎日顎で使われ、『落ちこぼれの集合体』と揶揄され笑われる……。


火流はその度、肩を落として深い溜息をつくのだった。





先週のある日だった。


「「新入り?」」


珍しく、火流と瀬古の声が合った。


「そう」


丸メガネの奥の柔らかい目と、二人の視線が交わる。二人の驚いた顔が面白くて、酒蔵はくくっと失笑した。

よく性別を間違えられる原因の一つである、肩まで伸びた髪がぱらっと揺れた。


たまにしか開かない狐目、いつもにこにこと弧を描いている口。

酒蔵晴海(はるみ)は火流と瀬古の上司である男だった。


―今も少しツンと金物くさい、元は物置部屋だった"捜専"のオフィスで朝礼をしている途中、酒蔵が思い出したように話を切り出したのだ。


「珍しいですね。いつぶりでしょうか」


瀬古は顎に手を当て驚いていた。


「瀬古ちゃんが喜んでくれて嬉しいなぁ」


「まだ喜んでませんよ。会ってもないのに」


「あはは。まァ、昨日決まった事だから、驚いてるのはわたしもなんだけどね。なかなかかわいい子だよ、ポメラニアンみたいで」


((??))


二人とも犬に詳しくなかった。


「火流君はどう?」


「え? 俺ですか」


急に尋ねられ、火流はどちらかと言えばそっちの方に驚いた。


「えっと……その新入りの人は、俺たちと働くんですか?」


"捜専"は、酒蔵たちの班と、火流たち雑務班に分かれている。


「そうだね。何か問題でも起こさない限りそうなるよ」


だとすれば、と火流は思った。

今まで人手が少なすぎたりした分、これから仕事の重荷は軽くなるのだ。


「……俺は、嬉しいです。人手が増えるんだから」


ぎこちなく、当たり障りなくとも、本心だった。

そして、酒蔵は「そっかぁ」と口元を緩めて笑った。


酒蔵は……端的に言って、気の緩い人物だった。

よく遅刻するわ偉い人の逆鱗に触れるわ、いつも雰囲気がぽわぽわして引き締まっていない。どこか浮世離れしている節がある。

その代わり、デスクワークや会議など仕事はよくできるようだったが。


そして、酒蔵は部下大好き人間だった。


「お菓子食べるー? 買いすぎちゃったんだよねぇ」

「瀬古ちゃーん。心開いてよー」

「今日は仕事多かったねぇ。どれ、わたしが頭を撫でて……」


「結構です」「あの……大丈夫です……」


何かあるごとに「かわいい」を連呼され、褒め回され、火流と瀬古は正直酒蔵に引き気味だったが、酒蔵はそんなのお構いなしに毎日二人を愛でるのだった。


瀬古はふと訊いてみた。


「そいつは、捜査関係者だったんですか? まぁ、大体分かりますが」


この場の三人とも、"捜専"に来る前から捜査関係者だった。


「よく分かったね。____名前はハヤシカラ君っていうんだ」


「へぇー」


漢字でどう書くのだろう、変わった名前だと火流が表情を綻ばして思った時だった。

急に、瀬古が表情を一変させた。


「……酒蔵さん。そのハヤシカラって―」


「おっと、シーッ」


何故か険しい顔つきになった瀬古のセリフを、酒蔵は優しくほほえみながら遮った。

子どもにするように、口に人差し指を充てて。

悪戯する子どものように微笑んで。


「……」


酒蔵が止めたっきり、瀬古は無言になった。

何かを考える様子で。目つきはいつもより悪かった。


「あ、あの、どうしたんですか?」


火流は何一つ状況がわからずに、眉をへにょりと下げた。


「ごめんね。気にしないでいいよ火流君。それで、その子が来るのは____」


酒蔵は相変わらずにこにこしたまま話を続けた。


結局、酒蔵が忘れていた会議の予定を思い出し、オフィスを飛び出したところでその朝礼は終わった。


火流は朝礼が終わっても、新入りが来る期待に胸を弾ませていた。

だが心の片隅には、さっき感じた違和感がモヤモヤと取り残されていた。


新入りが来るのは嬉しい事____のはずだよね? と。

いまだにだんまりと何かを考える瀬古を見て思うのだった。


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