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20:君は昔から

*フィクションです


「あ、あの、瀬古ちゃん」


火流が俯いていた頭を上げ、切り出す。


「何です」


瀬古は、昨日和菓子屋で買った羊羹を齧りながら、椅子に座って足組みし、火流と林枯を見下ろしていた。


「俺たちは、いつまでこうすれば……」


二人は正座中だった。


林枯はぷいと首をねじって顔を背けている。目も口も笑っていない。


どうしてこうなったのかと言うと。

十分前、二人がオフィスの片隅でノートパソコンを覗いている時、瀬古が出勤してきた。


瀬古が怪しがって眉間に皺を寄せ「何やってんスか」と尋ねると、火流が怯えて、つい今回の全貌を話してしまったのだ。


もちろん、林枯はじろりと火流を睨みあげたのだが。


「無論、反省するまでです。特に。火流さん」


「うぇっ?お、俺かよ」


「当たり前です。私が昨日注意したのに、なに普通にたぶらかされてんですっ」


その途端、林枯の脳裏に走るものがあった。


昨日出かける前、瀬古が火流に何かを耳打ちしていたと思ったら、やはり「林枯には気をつけろ」という事だったのか。


(それを今言うのも、どうなんだ)


気づかれないよう瀬古を睨んでいると、瀬古は圧が抜けるように息を吐いた。


「まぁ今回は、不問としましょう」


「本当ですか」林枯が言う。


しかし、細められた目で睨まれた。


「おまえらのためじゃない。バレたら絶対しばかれるんだよ、網多(あみだ)さんに」


「……。あみだ」


どこかきょとんとした林枯の様子に、瀬古は無表情のまま口を開いた。


「んだ、知んねーのか」


「……まぁ」


林枯は視線を逸らして少し思案する。


あみだ、網多。

そんな名前をどこかで聞いた事がある気がする。


「まぁ、しゃーないか。説明してやるよ。火流さんはともかくおまえは新入りで、私は先輩だからな」


少し、瀬古がドヤる。


「はぁ」


「網多っていうのは簡単に言えば……捜一の管理官のひとりで、うちらの上司だよ」


簡潔な言葉の響きに、林枯は露骨に反応して顔を上げた。


捜専(うち)ってアウトローっていうか……まぁ腫れ物みたいなもんなんだけど、そこら辺の管理はちゃんとされてるんだよ。あくまで捜査一課の一部だからな。火流さんが昨日言ってた言葉を借りればすぐ分かるわな。酒蔵さんの上司が網多さんだから、私らの上司の上司ってこと」


林枯は黙る。


(そうなのか)


そして、(そうか)とハッとした。


瀬古のいう通り。


捜専は、雑用係で、腫れ物みたいなもの。


しかし捜一の一部分である事は間違いなく、捜査一課の管理官とあっさり接する事ができる。

(そうしたら……喧嘩を売れる。まずは、そいつから)


説明が終わるや否や、瀬古は突如として無言になった林枯をほっぽって、椅子ごと体を横にねじり、厳しい表情でまた羊羹を齧り始めた。


「あームカつく、あの網多ヤロー」だの、何かをぶつぶつと呟いて。


一方、頭の片隅に残っている違和感を、林枯はまたふと思い返した。


(そういえばやっぱり……。網多。どこかで聞いた事があるような気がする。確か……"鬼の網多"とか……)


そう回想していた時。


「あの、よかったね、上手くいって」


横から、穏やかな声がして、林枯は振り返った。


横には当然ながら、火流がこそこそと控えめに微笑んでいた。


・・・・・・・・・・・・


挿絵(By みてみん)


・・・・・・・・・・・・


「……えぇ。もう少し、喧嘩じゃないけど、コメントで話し合うつもりだったんですが、あっさりチャンネルを消してくれましたね」


林枯の本来の予定では、投稿者に仮面についての話を根掘り葉掘り聞くつもりだった。


が、結局途中で億劫になって、やめた。


彼は仮面について本当に知っている事はなさそうで、脅されてるわけでもなさそうだったから。動機はただの承認欲求。


「人はみんな、自分が浅ましいと信じたくなくて人の心理は複雑で奥深いものだと主張するけれど、本当はつまらないほど単純なんですよ」


そう独り言みたいに呟くと、「……そう、かな。だけど、これからどうするんだろう」と火流は言った。


その意味が、林枯には一瞬わからなかった。


「何がですか」


「結局はっきりしなかったけど、投稿者さんは、人に見てほしくてあぁしちゃったんでしょ?俺、疑うんじゃないけど、また繰り返しちゃうんじゃないかなって」


火流は俯いて、まっすぐ凛とした瞳で、床とは違う次元の場所を見つめている。


それを、林枯は冷たい瞳で見ていた。


「……。それ、疑ってますよ」


「えっ。そう、か……」


火流は目線を逸らしごにょごにょと口を動かすと、沈黙した。


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