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19:愚直

*フィクションです


「あ、あの、瀬古ちゃん」


火流が俯いていた頭を上げ、切り出す。


「何です」


瀬古は、昨日和菓子屋で買った羊羹を齧りながら、椅子に座って足組みし、火流と林枯を見下ろしていた。


「俺たちは、いつまでこうすれば……」


二人は正座中だった。


林枯はぷいと首をねじって顔を背けている。目も口も笑っていない。


どうしてこうなったのかと言うと。

十分前、二人がオフィスの片隅でノートパソコンを覗いている時、瀬古が出勤してきた。


瀬古が怪しがって眉間に皺を寄せ「何やってんスか」と尋ねると、火流が怯えて、つい今回の全貌を話してしまったのだ。


もちろん、林枯はじろりと火流を睨みあげたのだが。


「無論、反省するまでです。特に。火流さん」


「うぇっ?お、俺かよ」


「当たり前です。私が昨日注意したのに、なに普通にたぶらかされてんですっ」


その途端、林枯の脳裏に走るものがあった。


昨日出かける前、瀬古が火流に何かを耳打ちしていたと思ったら、やはり「林枯には気をつけろ」という事だったのか。


(それを今言うのも、どうなんだ)


気づかれないよう瀬古を睨んでいると、瀬古は圧が抜けるように息を吐いた。


「まぁ今回は、不問としましょう」


「本当ですか」林枯が言う。


しかし、細められた目で睨まれた。


「おまえらのためじゃない。バレたら絶対しばかれるんだよ、網多(あみだ)さんに」


「……。あみ、だ……」


そんな理事官、いや管理官がいたなと林枯は思い出した。

理事官と管理官では、前者の方が"偉い"。簡単に言えば。


瀬古は椅子ごと体を横にねじると、厳しい表情で羊羹を齧りながら、「あのクソババア」だのぶつぶつと呟き始めた。


「あの、よかったね、上手くいって」


火流が、こそこそと控えめに微笑みながら言った。


・・・・・・・・・・・・


挿絵(By みてみん)


・・・・・・・・・・・・


「……えぇ。もう少し、喧嘩じゃないけど、コメントで話し合うつもりだったんですが、あっさりチャンネルを消してくれましたね」


林枯の本来の予定では、投稿者に仮面についての話を根掘り葉掘り聞くつもりだった。


が、結局途中で億劫になって、やめた。


彼は仮面について本当に知っている事はなさそうで、脅されてるわけでもなさそうだったから。動機はただの承認欲求。


「人の心理は言うほど難しくないな」と独り言みたいに呟くと、「……そう、かな。だけど、これからどうするんだろう」と火流は言った。


その意味が、林枯には一瞬わからなかった。


「何が」


「結局はっきりしなかったけど、投稿者さんは、人に見てほしくてあぁしちゃったんでしょ?俺、疑うんじゃないけど、また繰り返しちゃうんじゃないかなって」


火流は俯いて、まっすぐ凛とした瞳で、床とは違う次元の場所を見つめている。


それを、林枯は冷たい瞳で見ていた。


「……。それ、疑ってますよ」


「えっ。そう、か……」


火流は目線を逸らしごにょごにょと口を動かすと、沈黙した。


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