18:劇的
*フィクションです
『雑多な文章でごめんなさい。私は前からちょくちょく、このチャンネルの動画を見ていました。"名探偵スムーズ"シリーズとか、"ROUND"シリーズとか』
「……」
瞳の奥が、少しひりついた。
続けて読み進めていく。
『ふと昨日、アドロンクの仮面とやらの動画を見たんです。あれ?って思って…。フォントが同じだったんです、このチャンネルの動画と。テンポ感や話し方も似ているし、そこで確信しました。あなたが"仮面の化身"なんだって。お願いがあります。"仮面の化身"チャンネルを削除してください』
名取はとうとう我慢できず、空のミネラルウォーターのペットボトルを片手で握りしめた。
グシャッと音を立て、それは原型をなくし潰れてしまった。
脚が勝手に動いて、椅子から立ち上がるとキッチンへと向かっていた。
意味もなくシンクの前で俯く。
(おととい投稿して、再生回数、三十万回)
それは、アドロンクの仮面というネタがあったからだ。
一週間前、『週刊LOOP』を立ち読みしていた時目に入った、アイドルが心中したという記事。
そのページに小さく載っていた、まだ埋もれて注目を浴びていない、最高のネタ。
それを見た時、名取は鳥肌が立ち、心臓を高鳴らせたのだった。
(都市伝説なら、いける)と。
「……」
だが、それももう終わりなのかもしれない。
名取は一歩一歩、まだ頭が朦朧とする中、無意識に歩み出した。
椅子に座って、コメントの続きを読み進める。
『私は赤の他人だけど、あなたはきっとゲームをする姿の方が輝いていると思います。いつも楽しそうで、ホラーゲームでよく叫ぶ(笑)。応援してます。ささやかなファンからのお願いです。』
それを見た途端、首から下の力が、空気が出て行くように抜けていった。
名取はゆっくりマウスに手を伸ばし、削除ボタンにカーソルを合わせ、クリックした。
カチリ、と聞き慣れた音が鳴るとともに、二つあったうち一つのアイコンが消える。
名取は口をぽかんと開けた。
指は震えないし、はぁはぁと、心臓が動悸することもない。
ドラマみたいな展開はない。
削除ボタンを押してもひたすら続いていく臨場感のない現実に、名取はただ呆然として、動けなかった。
それから数分経って、首を動かし机の端に積んであるゲームパッケージのタワーを見た。
そしてやっと、まだ体に残っていた空気を吐き出せた気がした。




