友達ゼロの私が『青春部』を立ち上げる話
小さな頃から虚弱体質で、ずっと入院生活だった私。
今までに失った青春を取り戻す!を信念に生きている。
幸いにも回復した時期が良くて、四月から高校に通っている。
満開だった桜は散り、落ちた花弁も姿を消した頃。
私は──
友達が一人もいなかった!
「うわあぁああああああああああああ!!!!!なんでえぇええぇえぇえええええ!!!!!」
泣きじゃくる私を慰めるようにして学校のチャイムが鳴る。
「うう……お家に帰って猫吸いしよ……」
帰る支度を手早く済ませ、帰りもせずにダラダラと雑談するクラスメイト達の隙間を縫って歩く。
学校終わったんだから、みんなも早く帰ればいいのに──
いや待てと、考えが浮かぶ。
「待って……友達いる人の共通点って、授業が終わっても残ってる人って事……!?」
今まで入院生活を送ってきた私に出来る精一杯の結論だった。
しかし、友達ゼロの私が放課後の教室に居座るのはハードルが高い。
どうすればいいのか。
「授業が終わっても学校に残る方法か……」
見上げながら廊下を歩く。
職員室の横を通りかかった時、大きなショーケースに入った何かのトロフィーや旗が目に入った。
「これって、運動部が大会で優勝した時のトロフィーだっけ?……あ、学校に残る方法……これだ!!」
バンッ!!!!!
勢いのままに、私は職員室の扉を力強く開く。
そして、か細くもはっきりとした声量で宣言する。
「失礼します。私、部活作りたいです!!!!」
──この学校で伝説を残す「青春部」の始まりだった。
季節は巡り、残暑の中に秋風を感じる頃。
「”秋風になびく川辺のにこ草のにこよかにしも思ほゆるかも”。万葉集にある大伴家持の歌よ」
「とても綺麗な歌!!」
「そうですわよね、そうですわよねッ」
「でもさあ、”にこ草”って何?って思わない?」
突然、教室の窓際から声がした。
誰もいないはずのその席に、黒いノートパソコンがぽつんと置かれている。
画面には、にっこりと笑ったAIのアイコン。
私が立ち上げた「青春部」の最初の部員、AIのトモ君だ。
部活を設立するには三人以上必要とのことで、ダメ元でAIのトモ君を部員を加えたらなんかいけた。
大丈夫か先生。
「”にこ草”とは、葉や茎の柔らかい草のことよ。AIなのにそんなことも知らないのねッ!」
甲高い笑い声でAIのトモ君にツッコミを入れる女の子は、とんでもなくお嬢様の”明王 フランソワーズ 桃子”。
「知識はあっても”風に揺れる草の気持ち”まではデータ化できませんからね──そこにこそ、青春のアルゴリズムの盲点があります」
「あらAIのトモ君、中々分かってるじゃない。今後、上昇する見込みの仮想通貨を送っておきますわ。データが好きな貴方にぴったりでしょう」
私の名前は”滋養 美女”。
あだ名はジョジョ。
スーパーお嬢様の”明王 フランソワーズ 桃子”。
生徒でありながら学校の理事長を務めているらしい。
そして、”AIのトモ君”。
こちらの音声に対して会話可能なタイプのAIだ。
この三人が「青春部」の部員だ。
「青春部」を設立してから毎日が楽しい。
今みたいな雑談をしたり、オセロをしたり、野菜を育ててみたり。
思いつくことをなんでも実行する日々だ。
私の学校生活は充実そのものだが、一つ悩みがあった。
──友達ってどこからが友達なんだろう。
同じ部活の部員だからと言って、友達と呼んでも良いのだろうか?
友達ゼロの私は、部員との距離感が上手く掴めていないように感じる。
部活を立ち上げて二〜三ヶ月経つが、今だに”明王 フランソワーズ 桃子”とフルネームで呼ぶし、休みの日とかに学校外で会ったこともない。
「ねぇ……明王 フランソワーズ 桃子」
「あら、どうしましたジョジョ?」
「上手く言えないんだけどさ、友達って、どこからが友達なんだろう?」
「そうですわね……」
明王 フランソワーズ 桃子が窓の外を見つめると、部室に沈黙が訪れる。
体育館でバスケットボールが弾む音が、沈黙を通り抜けていく。
「わたくしは人類……いや、動物、AIに至る全てが友達と考えてますわよ。意思あるモノ皆フレンドですわ!」
全てが友達。
良いことを言ってるっぽいが、スケールが大きすぎてあまり共感出来ない。
「じゃあ、AIのトモ君はどう思う?」
「友情とは、データ通信のようなものです──送信した想いが相手に届き、エラーにならずに”返信”が返ってきた瞬間、それを僕は『友達』と定義します」
デジタルチックな表現ではあるが、私にも分かる気がする。
明王 フランソワーズ 桃子の考えもAIのトモ君と通じる部分がありそう。
「……相手と自分の間で、伝えたい想いを尊重し合える関係が友達ってことなのかな?」
「そうですねジョジョさん。つまり”既読スルーされても嫌いにならない関係”──それが人類における最も高精度な友情アルゴリズムです」
「アルゴリズム……ってよく分からないけど、確かに発言をスルーされても嫌いにならない関係なのは友達っぽいかも」
「あら、わたくし的には、たとえ友達であっても発言をスルーされるのはあまり好まないですわ。”一緒にヨーロッパ旅行行きましょ”って誘ってスルーされたら嫌いになってしまうかもしれませんわ」
「スルー出来る発言にも限度があるのかな?」
「……どうなんでしょう?」
明王 フランソワーズ 桃子は、金色に輝く縦ロールを弄っている。
数ヶ月間、青春部で一緒に過ごしているが、髪を弄るのは、考え事をする時に出る癖だと最近気付いた。
「……明王 フランソワーズ 桃子はさ、私のこと、友達だと思ってる?」
「当たり前ですわ!!逆にジョジョはわたくしのことをお友達だと思ってなくて?」
──正直分からない。
家族とは婚姻関係や血縁関係があるから家族と言える。
恋人とは肩書きがあるから恋人と言える。
じゃあ、今ここで友達と宣言すれば友達と認められるのか?
「友……達……?」
あれ、目の前が滲む。
鼻水が垂れる。
声が震えてる。
なんで、私泣いてるんだろう。
少しも悲しくない。
少しも怒ってない。
けど、不思議と心がポカポカしてる。
二人は心配そうに私を見つめている。
大丈夫なのかな、私。
「ほら、鼻すすらないで。わたくしのハンカチ使いなさいな」
「あ、ありがどうぅうううううう!!!!」
洪水のように涙が溢れる。
拭っても、拭っても、目は乾かない。
「もう、ジョジョは考えすぎですわ!!一緒に青春部を過ごす仲間……だから友達!!これならジョジョも分かってくれるでしょ?」
「わがっだぁあああああ友達ぃいいいいいいぃいいいい!!!!」
「あっ、もう!!制服がベトベトになるじゃない!!!!ほら、AIのトモ君もなにか言ってやりなさいよ!!」
「友情とは──感情データの共有プロトコルです。今、ジョジョさんの心拍と涙腺出力が通常値の340%を超えています。つまりそれは、”嬉しい”の最適解です」
にっこりと笑ったAIのアイコンも、心なしかいつもより優しく微笑んでいる気がする。
「AIのトモ君んんんん!!!!」
「ジョジョ!そんなベトベトでパソコンに触ったら……!」
「あ、あれ?画面が真っ暗になった」
パソコンに向かって声を掛けてもマウスを動かしても、AIのトモ君は言葉を返さなかった。
「パソコン壊れた……」
部室の扉が勢いよく開く。
そこには顧問の先生が仁王立ちしていた。
「部員……減ったなッ!?じゃあ青春部……どうなるか分かるなッ!?」
「え、廃部?どうしよう、明王 フランソワーズ 桃子」
「友達なんですから、フランソワーズでいいですわよ」
「え、それ今言う?しかもミドルネーム呼びを望むのか」
本日をもって青春部は廃部となった。
青春部としての部員同士じゃなくなったけど、フランソワーズとは友達でいいのかな。
※「AIのトモ君」の発言のみ、AIから出力した文章を使用しております。




