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琥珀  作者: 蘭水晶
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はじまり。



 僕が彼女と出会ったのは、暑い夏の日だった。

 一面の田んぼと、終わりの見えない青空。

 よくある田舎の一軒家は、どこか世界から隔離されているような気すら感じさせられる。


 うだる様な暑さが脳味噌を溶かしてしまったんじゃないかと思うくらいやる気が起きなくて、その日は朝から家の縁側に寝転んでぼーっと空を眺めていた。


からんからん


 縁側横の小さな庭を挟んだ生垣の奥で下駄を鳴らす音がした。

 こんな時代に下駄?今日は祭りかなんかだっけ。と、働かない頭の中を弾幕の様に疑問がすぎていく。


からんからん


からん からん からん


からん



 そこまでくると、何かがおかしいと感じた。

 ふと、悪寒が走る。


 先ほどから下駄の足音が聞こえてくるのはいい。

 祭りか、何かやってるのかなと思えるし。

 でも、なぜかその音は、ずっと同じ場所から同じ大きさで聞こえてきていた。

 

 子供が遊んでいるのか? いや、それにしたってこんな規則的に音が聞こえるなんておかしいだろ。

 体を起こした僕は外履き用のスリッパを履くと、じゃり…と生垣の方へ歩き出した。



 僕の肩ほどの高さがある塀に絡みつく蔦は青々と輝いていて、所々に咲く朝顔の花が非常に風情のある塀となってくれている。

 夏休みくらいしかここに来ることはないが、見るたびに花が増えており、祖母のガーデニングは明らかに素人の域ではない優雅さに進化していた。

 ザ・おばあちゃんの家という感じの木造りの平屋をしているくせに、庭だけやたら豪勢な日本庭園風なせいで妙に現実感を感じさせない。


 じゃり、じゃりと自分が砂を踏み締める音がやけに大きく聞こえて、ふと立ち止まる。


 あれ?下駄の音どうした?


 少し急ぎ目に生垣の向こう側を覗き込むとそこには何もいなかった。きょろきょろと周りを見渡してみてもだれもいない。しかしそれもおかしな話だ。

 この家はだだっ広い畑の隅にぽつんと立っているし、見渡せばかなり向こうにお隣さんの家が見えるほど見渡しがいい。いくらゆっくり庭を歩いたにしても少し前まで聞こえていた下駄の音が突然消えて、走っていく姿もないなんて、いくらなんでもおかしい。


 その時、耳元でぱちんと何かが弾ける音がした。

 反射的に右に顔を向けると、熱気と陽炎が景色を揺らす。焼けつく様な暑さで出た汗が目に入り、余計に滲んだ視界の奥で、赤い居がぽつんと妙に目に入った。


「あんなとこに神社なんかあったかな」


 家の裏手、庭の生垣の奥には舗装されていない小道とでかい山がある。

 普段こんなふうに裏を覗くこともないから気づかなかった。


 本当になんとなくだった。

 そこへ向かおうと思ったのは。


 縁側でだらだらしているのも飽きてきていたし、暑さでぼんやりとしている頭は先ほどから起きているあきらかに変わった現象の数々を、妙に好印象に写していた。

 夏は怖い話が聞きたくなる、そんな軽い気持ちで、

僕、(ミサキ) (ユウ)は神社へと向かう為、室内へと引き返した。




 正面から出て、家の裏手へ回ると先程まで見ていた小道があった。

 Tシャツにスラックス、サンダルというまるでやる気のない格好で飛び出してきてしまった。


 ここへ来て、俺は何してるんだ?という疑問が頭を過ぎる。

 出てきてしまったものは仕方ないのだから、と心を落ちつけてゆっくりと小道をすすんでいくと、先程視界の奥で滲んでいた赤がはっきりと目に写った。



 鳥居の正面に立つと、思いのほかしっかりとした神社だったようで、狛犬が2体こちらを見つめるように建てられている。


 かなり奥に本殿があるのか、長い上りの石段の奥は、生い茂った木に邪魔されてあまりはっきりとは見えなかった。

 少し不安がよぎるが、好奇心と少年独特の冒険心がすぐにかき消す。


 思い切って階段を登り始めると、妙な気配がした。

 特に霊感があるタイプだと自覚したことは無かったのだが、今はやけに肌の表面が何かを感じ取る。



 暑くて汗が止まらないのに、背骨に沿うように、ひんやりと冷たい、


 行ってはいけない。そう体に警告されている気がした。

 触れてわかるほど鳥肌のたった腕を撫で付ける。


 いけないと、頭の隅で何かの声がするのに、足は止まらなかった。



 妙に鼓動が早い。


 

 何かに急かされるように足が早く、早く石段を駆け上がる。




 息を急くように駆け上がった石段の上で僕は、

 

 呼吸が止まるほどの 赤 を見た





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