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琥珀  作者: 蘭水晶
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銀の眼


「滅魔師と祓魔師の違いは何かって?」

 締め切られた部屋の中で彼女の声はやたらと響いた。

思ったより大きな声が出てしまったのか、彼女は少しだけ苦笑すると手に持っていた小刀に視線を落とす。



 窓すらない締め切られた部屋の中央に、こちらに背を向けて少女が立っていた。

 蛍光灯は先ほどすべて割れてしまったはずなのに、部屋の中は薄ぼんやりと青白く照らされている。



祓魔師ふつましはいわば聖職者というか、寺などで修行をして、魔を祓うための力を得た者で、厳格に定められた順序を踏むことで魔を祓う」


 先ほどまでの騒音が嘘みたいに静まり返った空間に、少し居心地が悪そうに言葉を切った。


「祓魔師は聖職者という立場上、頼ってきた者を見過ごせない。たとえ三日三晩儀式をしても払い切れないほどの魔物であろうとも」


 背を向けている彼女がどんな表情をしているのか、何故かひどく気になった。

 手にしていた小刀をペン回しのようにくるくると弄んでいる手は、どこか苛立っているようにすら感じるのに、そう呟く彼女の声は哀愁を孕んでいるように掠れた。



「そして、滅魔師は生まれつきの血や後天的な…要因によって力を持った者がなる」


 後天的な、の後に続く本当の答えは、軽く振り返った彼女の自虐的な笑顔でかき消されてしまった。


「祓魔師と違って滅魔師は単純だ。もし、滅魔を頼まれたとして、倒せるか倒せないかの二択で回答する。勝てる見込みがあれば依頼を受けてくれる。その上祓魔と違ってお祓いと呼ばれる儀式は必要ない。力で直接ぶっ潰すだけだから、倒せばその場で呪いとおさらば出来る」


 まあ滅魔師を探すことがそもそも大変なんだけど、と彼女は笑う。


「呪力自体を持たない祓魔師と違って、呪力そのものを扱う滅魔師はいわば命懸け。倒せるものは倒せるし倒せないと少しでも判断すれば依頼は受けない。断られればより強い滅魔師を探すか、寺などである程度強い祓魔師から祓いを受けて弱らせた上で再依頼に賭けるしかないな」


 彼女はそういって小さくため息をついた。


「って、こんなふわっとした説明じゃわからんか…」


 そう呟くと目線をふと自身の奥で小刻みに震えている化け物に向ける。

 小型自動車ぐらいのサイズであろうけむくじゃらのそれは、もはや唸り声すら上げなくなっていた。


 彼女はじっと、暗がりでまるまったままの毛玉を見て苦笑した。


「結局のところ滅魔師は、アレと変わらないよ。呪力そのものの化け物と呪力を利用して化け物を殺す滅魔師。使ってる力の向いてる対象が違うだけで、これが人間相手なら殺し放題だ。」




– だってそうだろ?



 彼女はまた小さく苦笑して、毛むくじゃらの化け物に向かって小刀を振り投げた。



- 呪いで死ぬなんてだーれも信じちゃいないんだからさ。











 彼女の目は不思議な色をしている。


 まるで液体を満たしたガラス玉の中に数的の血を混ぜたような様相をしていて、完全に混ざりきらない赤が、彼女の感情に合わせて揺らめくように揺れるのだ。

灰色の瞳の中で赤い液体がたゆたい揺れる様は普通に見ればかなり奇怪な瞳だが、これは滅魔の仕事をしている時だけだ。


 普段は、もしこの世が終わる日が曇天ならこんな感じなんだろうな、と思えるような綺麗な灰の瞳をしている。

 この例えをすると詠さんは決まって毛虫でも見るような顔で僕を見る。闇抱え太郎、と大変不名誉なあだ名をつけられたこともあった。


 本心なのに…、とぶつくさ言っていると詠さんは「ポエムはルーズリーフに書くだけにしとけ」と失礼な事を言って部屋を出て行ってしまった。


 でも本当にそう思ってるのだ。彼女は見た目こそ16歳ほどの若い少女だが、その瞳はまるで天寿を全うせんとする老婆じみた雰囲気をしている。

 詩人じみた例えをあえてするなら、

 月曜日に世界を作った神様が、日曜日に全てを灰にしてしまう直前の様な瞳。


 誰にもわかってもらえないけど。口の中で呟いた言葉は、咥えていた飴玉に混じって苦味を残した。




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