表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

氷帝の軍師2

──そのとき、司令部は完全に静まり返っていた。


誰一人として言葉を発せず、ただ巨大スクリーンに映るその男を見つめていた。

氷見 尊。

軍の頂点に立つ存在であり、決して前線には出ないと信じられていた人間。

その彼が、魑魅魍魎に囲まれ、孤立し、しかしなぜか……笑っていた。


俺は、端末オペレーターの端っこにいる新人で、階級もクソもないただの情報兵。

“あの人”の存在なんて、スクリーン越しに何回か見るだけの、遠い雲の上の人だった。


でも、今。


この目で見てる。


「……え?」


わけがわからなかった。

だって、彼の周囲に黒い羽根が咲いて、着物が裂けて、背中から何か……金属みたいな、刃みたいなものが伸びて、額に刻印、目は黒く光って……。


しかも、「変身」って言ったぞ!?

あれは聞き間違いじゃないよな?

口の動きも完璧に「へ・ん・し・ん」だった。


その瞬間、何かが俺の中で弾けた。


「……魔法……青年?」


俺、口に出してた。


完全に無意識。

脳が処理を拒否して、アニメ脳が勝手に言葉をひねり出した。


でも、その場にいた誰かが振り返る。

目が合った。

やばい。


「いや違う、ちが……ちがうんですよ!? アニメとか見すぎたせいで一瞬現実感がバグってですね!?」


「違うんです違うんです違うんです違──」


言い訳の早口が止まらない。

完全にテンパってる。

周囲の視線が刺さる。

恥ずかしい。死にたい。


でも──でもさ、言わずにはいられなかったんだよ。


だって、どう見てもそれは現実の“軍師”じゃなかった。

アニメのラストバトルとかで、「実は俺も戦えるんだよね」って正体を明かすキャラの、それだった。

変身して、圧倒的な力で世界を救って、でも明日は普通に学校通うみたいな、そんな“魔法青年”の姿だった。


──なのに。


その姿はスクリーンの向こう、確かに現実にあった。


魑魅魍魎は一瞬で消滅し、あたり一帯は真空のような静けさに包まれていた。

戦闘後の彼の姿もまた、圧倒的だった。

羽織はなびき、煙の中から現れた彼は、まるで神話の神……いや、悪魔。いや、やっぱ魔法青年……。


頭の中がぐるぐるする。


「ねぇ、今の見た? ほんとに“変身”って言ったよね?」


横にいた別の隊員も、青ざめた顔で俺に耳打ちしてくる。

「え、何? 何? あの人、何者? 軍師じゃなかったの??」


知らんよ! 俺も知りたいよ!


でも一つだけ分かったことがある。

俺たちが今まで信じてた“軍師・氷見 尊”は、ほんの一部でしかなかった。

あの人、絶対ずっと黙ってたけど……最初から、化け物だったんだ。


スクリーンの向こう、彼は羽織を拾いながら、こちらを一瞥した。

見えた気がした。──こっちを見て、笑ったような。


「やっぱり、あれ魔法青年じゃね……」


言いかけて、口を噤んだ。


オタクは、黙ることを覚えた。


……いや、でも帰ったら絶対SNSに書く。

絶対タグつけてバズらせる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ