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【ヒューマンドラマ】

僕の人生を変えた言葉

作者: 小雨川蛙

 

 そのヒーローは僕の憧れだった。

 どんな怪人や怪獣がやってきても必ずやっつけてしまう。

 最強無敵のヒーロー。


 僕はそんなヒーローになりたかった。

 僕自身はチビで気が小さくておまけに学校で虐められていたけれど、それでもいつかあんなヒーローになりたくて虐めにも負けずに学校に通っていた。

 だって、ヒーローがテレビで言っていたから。


『どんな時でも勇気を持って生きていくんだ。そうすれば君もヒーローになれる』


 そう。

 だから僕は虐めに負けない勇気を持ち続けることを誓ったんだ。

 そのおかげで僕はどんなに辛くとも頑張って毎日を生きていた。


 そんなある日。

 僕の通う学校に怪人が現れて校舎の中を滅茶苦茶にした。

 壁が壊れ、窓が割れる中でようやくヒーローがやって来た。


「遅くなってごめん! 今、皆を助けるから!!」


 そう言ってヒーローはあっという間に怪人を打ち負かした。

 皆が歓声をあげてヒーローに感謝をする中、ふと彼は僕が怪我をしていることに気が付いた。


「っと! 君! 大丈夫かい? 怪我をしているようだけど……」


 そう言って近づいて来ようとするヒーローを見て僕の心が喜びに満たされた刹那。


「大丈夫だよな!?」

「そうそう! 大丈夫!」


 虐めっ子たちがヒーローの行く手を遮った。


「と言うか、いつもアイツはああやって大袈裟に振る舞って皆の気を引こうとするんだ!」

「そうそう! だからそんなに気にしなくていいよ!」


 嘘だ。

 そう思ったのも束の間、虐めっ子たちの声に阻まれてヒーローは苦笑いをして僕に言った。


「君。そうなのかい?」


 僕の否定の言葉は虐めっ子達の数の暴力に虚しく負けてしまった。

 そしてヒーローは彼らの言葉を信じてしまった。


「いいかい。間違いは悪いことではない。誰だって間違いはするのだから。だけど、反省して前に進む勇気を持ちなさい。そうすれば君はもっと立派な人になれる」


 そう言うとヒーローは虐めっ子たちの方へと歩いて行ってしまった。

 独りぽつんと残された僕は俯くばかりだった。


 すると。


「馬鹿かお前は」


 虫の羽音のような声が聞こえて振り返ると、確かにヒーローに倒されたはずの怪人が僕を見ていた。

 思わず悲鳴をあげようとした僕を無視して彼は言った。


「ヒーローに弱者の境遇や気持ちなんて理解出来るはずないだろう? あいつにとっちゃ、お前もあの虐めっ子たちも皆ひっくるめて『良い子』なんだ。そして『良い子』が嘘をつくなんて欠片も信じちゃいねえよ」


 怪人はそう言うと意地の悪い顔で笑う。


「まぁ、諦めて受け入れるこった」

「……あなたも」

「あ?」

「あなたも受け入れていたんですか?」


 思わず尋ねた言葉に怪人はきょとんとした後に笑った。


「馬鹿か。俺は元々悪だ。お前みたいな『良い子』じゃねえよ」


 そうして大きく息を吸い込み。


「まぁ、負けんなよ。自分に」


 そう言ったきり、動かなくなった。

 やはり僕を残して。


 虐めっ子に負けるなではなく、自分に負けるなとだけ言い残して。


 振り返りヒーローに群がる虐めっ子とそんな彼らに穏やかな表情を向けるヒーローを見て。

 僕は自分の意図も分からないまま首を振ると花を探しに行った。

 怪人に破壊された学校を歩むのは怖かったけれどきっと花を探せると思ったから。


 彼の言葉を意図せず反芻する。

 反芻してしまう。


 根気強く探せば花は見つかるだろうと思った。

 きっと、諦めなければ。

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― 新着の感想 ―
 皮肉の重なりに見せるリアリズム。  その実が現実でもあると感じる人の存在が沢山あるように思えるこの話の皮肉さは、小雨川蛙様の描く皮肉ではなく、現代の闇が創作している皮肉なのでしょうね。
なんというか、ヒーローがデリカシーのない学校の先生に重なって見えました。こういうの、よくありましたよねぇ。 ヒーローを土台に、怪人が最後ええとこ全部を持っていくのが、まさにヒールですね。 最後の余韻が…
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