秋の連休は特撮ロケ地の巡礼旅へ
挿絵の画像を作成する際には、「Ainova AI」を使用させて頂きました。
ギラつく日差しや湿度を伴う夏の暑さからは解放され、カサカサと乾いた冬の寒さもまだ遠い。
そんな秋の穏やかな気候は、木漏れ日の差す並木道を自転車で走るには最適だった。
「レンタサイクルとは良い目の付け所ですね、枚方先輩。小回りも利きますし、バスや鉄道の路線から微妙に外れているエリアへのアクセスもしやすいですよ。」
「ネットの受け売りだからあんまり威張れないけどね、樟葉君。その界隈では有名なブログの巡礼旅の記事を参考にさせて貰ったんだ。」
今回の東京旅行の連れ合いでもある畿内大学映画研究会の後輩に応じながら、僕はあと数百メートル先にまで迫った目的地に思いを馳せたんだ。
何しろ、そこは僕が子供の頃から憧れ続けていた所なのだからね。
東京府多摩市連光寺、府立桜ヶ丘公園。
紅葉の色付いた園内を進み、高台に繋がる遊歩道をウォーキング気分で登った僕達二人は、思わず息を呑んでしまったんだ。
「おお…」
「こ、これは…」
何しろ、そこには子供の頃にテレビで見たのと全く同じ光景が広がっていたんだから。
クリーム色に塗られた楕円形のコンクリート製大殿堂に、古代ギリシャ・ローマ時代を思わせる梁付きの柱列とタイル式の階段。
果たして僕は、この建物をテレビの特撮ヒーロー番組や怪獣映画で果たして何度見た事だろう。
この建物が旧多摩聖蹟記念館という名前で、明治天皇の行幸を顕彰するために政治家の田中光顕の呼び掛けで建設されたという事は、勿論知っている。
だけど僕達にとっては、この建物は大好きな特撮ヒーロー番組を彩った思い出の聖地なんだ。
「この建物を見ると、初代『アルティメマン』の『恐竜研究所の謎を暴け』の回を思い出しちゃいますよ。今にも建物の後ろからタテガミ怪獣ウディラが現れそうですね、枚方先輩!」
「確かに旧多摩聖蹟記念館は、『恐竜博士』こと兼八教授の秘密研究所としても使われていたからね。あの話ではアルティメマンがタテガミをメリメリと毟り取るラフプレーを働いたから、子供心にも印象に残っているよ。止めのスライス光輪で真っ二つになるシーンでは、建物を避けるようにしてウディラの亡骸が倒れていたっけなぁ…」
童心に帰ったように巨大ヒーローの必殺技のポーズを真似る後輩の女子大生に応じながら、僕は旧多摩聖蹟記念館の建物を見つめていた。
こうして眺めていると、アルティメマンとウディラの姿が幻視出来そうだよ。
「劇場用の怪獣映画や『アルティメマン』のシリーズだとマッドサイエンティストの秘密研究所として使われる事が多かったけど、『マスカー騎士』ではサタン機関の秘密基地として使われる事が多かったね。黒タイツの戦闘員が今にも『ギーッ!』って言いながら飛び出して来そうだよ。」
「もしも私達が『マスカー騎士』の登場人物だったなら、『サタン機関の秘密基地や作戦を目撃したから』って理由で口封じに殺されちゃうんでしょうね。私はゲストヒロイン枠って事でワンチャン助かるかも知れませんが、枚方先輩の死亡フラグが折れる事はなさそうですよ。」
何ともドギツいブラックジョークを飛ばしてくる樟葉君だけど、裏を返せばそれだけ僕に心を開いてくれているって事なんだよなぁ。
「どうです、枚方先輩?明日は川崎市に出てから自転車を借りて、長沢浄水場にでも行きましょうよ。あそこで写真を撮れば、城南大学の学生に成り切れそうですよ。今回のコーディネートは『マスカー騎士』の初代ヒロインのルミ子さんを意識しましたから、先輩はマスカー騎士1号の変身ポーズを記念写真の時に取って下さいよ。」
「それは良いね、樟葉君!長沢浄水場と言えば、やっぱり初代『マスカー騎士』の城南大学だからね。」
そうして傾き始めた西日で茜色に染まり始めた旧多摩聖蹟記念館を見つめながら、僕と樟葉君は明日のロケ地巡りに思いを馳せたんだ。
大学の休講日と連休を利用した今回のロケ地巡りの旅は、僕達の所属する畿内大学映画研究会の活動の一環でもあるんだ。
だけど、園樟葉君との距離も順調に縮める事が出来たみたいで何よりだよ。