剛腕は死と共に降り掛かる
初のオリジナル小説です。よろしくお願いします。
クマさんとの鬼ごっこ、字面だけ見ればかなり可愛いものである。だが、リアルは違う。狩るか、狩られるか。殺るか、殺られるかの2択である。
カイリと狂気熊のスピードはほぼ互角であり、カイリの体が小さいぶん若干のアドバンテージを持っている。しかし、問題なのは持久力である。野生下で孤独に育ってきた「魔獣」と、完全な保護下にあり、群を成してきた「人間」。流石に、種の壁は越えれない。
(走れ、走れ、走れ!止まったら死ぬ…ここで死んだら、厄災の話が聞けねぇ。)
だんだんと疲れが見え始め、カイリと狂気熊の距離が縮まっていく。足に鉄を付けたように重くなっていく。
「グロォォ!」
(狂気熊、よく裏の雪山にもいたなぁ。ここが雪なら滑れたんだけどな。待てよ雪…そうか!)
また、足が重くなる。しかし、この状況から逃げ切れるイメージが湧いてきた。一呼吸置き、思考を巡らせていく。雪、冷たく柔らかい水の塊。時に足に纏わりつき、時に足を滑らせる。一年中雪が降り続ける地域にいたカイリには、すぐにイメージできた。『空間を滑る』という現象を。狂気熊のと距離がほぼ0に近しい。後ろから丸太の様な剛腕が降り掛かってくる。
「平面移動!」
魔力の粒子が全身を包み、紅い魔力が体の所々から湧き出てくる。鋭く太い爪をギリギリ躱し、一気に加速する。体に浮遊感が生まれ、空気との摩擦が減っていくのが体感できる。先程まで、触れることのできなかった空間が、長い時間触れ合ってきた雪の様に感じる。紅い魔力がスッと消え少し速度が落ちた。草原を滑り抜け、木々を避け、川を飛び越え、いつの間にか狂気熊の姿は消えていた。
「ただいま、お師匠!」
「おかえりなさい、カイリ君。なんだか上機嫌ですね。」
少し興奮気味に帰ってきたカイリを、温かい雰囲気で迎えた。
「おぉ!新しい魔法を2つも覚えてくるとは。やはり子供の成長は早いですね。」
まだ、カイリは魔法のことを何も言っていないが、雰囲気からリアクターは察した。
「2つ?俺が覚えたのは平面移動だけだよ。」
「実感したのは、それだけでしょうね。ですがカイリ君、君は常時発動魔法『重大局面』を会得しています。自身に死が近づくと、体の損傷を修復し体力を回復します。そして魔力、身体能力及び様々な能力が向上する効果を発揮します。紅い魔力が体から出ませんでしたか?」
「あっ…」
思い返してみれば、確かに魔力の粒子とは違う、別の紅い魔力が体から出ていた。いつもより体が軽かった気もする。微かに紅茶の香りが漂う草原で、カイリは少しだけ懐かしい気分になった。
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