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機密基地 --トッププレイグラウンド--

作者: 滝翔


 平成中期は俺達の時代。

スマホ越しのサイバー世界が当たり前じゃなかったあの頃は、森の中が俺達の依存する逃げ場だった。

令和六年。今年三十を迎えた俺はある目的の為に、昔皆と作った秘密基地に帰って来た。


「おっ?! 定晴さだはるじゃねぇか!!」


「おぉ令和のりかず!! ……よっ! この予言者!!」


 新元号がまさか自分の名前と同じ漢字になるとは思うまい。

十数年振りに嘗ての秘密基地創設メンバーの同級と再会する。

まぁ全員と合流出来るか期待はしていないが、ビニール袋の複数本の酒缶が本音だったりして。


「乾杯!!」


「かんぱぁい……!! いやぁ令和、おめぇ都会で結婚してたんだろぉ?!」


「金がねぇから身内だけで結婚式を挙げたんだよ…… 悪ぃな。

お前はどうなんだよぉ?! 四人目ってマジか?? 年賀状に書けよなぁ!?」


「さすがに四人目ってなると出産報告めんどいの…… てか写真貼ってるんだから気付け!!」


 湿った床板に座って足をブラブラしていると、

なんと奇跡的に次は高校時代のマドンナが現れたではないか。


「あれあれぇ?? 受験戦争で脱走した令和と就活終末期にここに立て籠もった定晴じゃん!!」


眞智子まちこ…… 随分疲れた顔してんなぁ!!」


 突如飛来する小石が俺を襲う。何だかんだで昔のイツメンが揃ったわけだ。


「眞智子は今何してんだよ?」


「転職活動ぅ!! こう田舎だとブラックが多くてさぁ。

質悪いのが天然の社長がほとんどなのよぉ……

良かれと思って自社の金でギャンブルして大負けしたりした人いてさぁ、

儲けても青色申告出来ない~~って問題になってたんよぉ。

他にも、陸でもない大手企業の迂回金融がバレて家宅捜査されてたりさぁ、

飲みの会でパワハラ・セクハラ・モラハラの数え役満な社長だったりさぁ、

もう行く先々で笑っちゃうくらいのダメ会社でまいっとりますぅ!!」



「俺は家庭持ってるから下手に転職出来ねぇなぁ!!」



 三人はゲラゲラ笑いながらも、その反動で噴射する溜息が大きかった。


「なぁに?? 令和も都会で上手く行ってないの??」


「まぁ新婚生活ホヤホヤで過ごしているけどさぁ……

それだけプレッシャーが酷くて、最近の仕事も失敗続きなんよ」


「ここに来たって事は……」


「そう…… 疲れてる時ほど、あの出来事が頭から離れられなくてねぇ……

ついつい戻って来ちゃったよ……」




 西暦2012年。夏の終わり。

俺達がこの秘密基地に屯って五年が過ぎたある日。いつものように創設メンバー十人が集まっていると、


「おぉい令和!!」


「あぁん何だ日鶴ひづる?! 勉強ならやらねぇぞ~~ 俺は都会に出るんだ!!」


「なんか大人のお姉さんがこっちに向かって歩いて来るぞ?」


「はぁ?!」


 暑さにやられた訳でもなく、

基地の日陰にいた俺達と、そして下の木陰にいた奴等もその女性の姿を目に捕らえていた。


「申し訳ないのだけれど君達、今すぐここから退去してくれない?」


「何でだよお姉さん!! ここは五年前から俺達のだぜぇ?!」


 定晴が反対意見を述べているが、

怪しい女性は皆の制止も聞かずに木の幹に手を置いて、


「田舎の子供の割にはちゃんと作られているわね…… 田舎だからこそかしら……」


 ただでさえ蝉の鳴き声にイラついているのに、

不意に都会マウントを取られれば、グループのカワボの特攻隊長が黙っていない。

この中で一番背が低い和花のどかだ。


「おぅおぅシティーガールの姉ちゃんよぉ!! いきなり出て来てウチら見下してんのかぁん?!!」


「勇んでる小動物ほど可愛い生き物はないわね」


 軽快に木の上の基地に登ってみせる女性は、

シャツの中を日鶴の下敷きでパタパタさせて自己紹介を始めた。


「私は環境省地球防衛統合総務局調査課統括調査官の江口えぐちです」


「長げ~~……」


 アイスを咥えながら阿呆面の上目遣いで見つめている俺に、

江口は何故かドヤ顔で見下してきた。眉間に皺を寄せているのが腹立つ。


「随分と自分は底辺ですと驕ってる顔してるわね?」


「まぁここにいる奴等のほとんどは家に帰りたくない連中だからな……

だけど夕暮れにはちゃんと全員を帰すんだよ ……おごるってどういう意味だ?」


 突如江口が俺の身体を前に押し出す。上半身は床板の外まで乗り出し、

片腕を彼女に支えられて、あとは自分の爪先で立っていなければならない状態になる。

周りの九人もこれに気付いて徐々に慌て始め、こういう時に勇敢なのは学級委員長の白羽しらはだ。


「江口さんでしたっけ?! 何をしているんですか?!」


「教育だよ教育…… 底辺はね? 落ちる場所が無いの。

落ちるだけ落ちればあとは、そこで地面を見つめるか上を見続けるかしかない。

そんな荒涼に立たされて焦燥に駆られる気持ち、まだ子供の貴方達には分からないでしょうね」



「っ……!」



 ほんの冗談と呟かれながら、女性の身体に抱き寄せられたのは今でも屈辱的な思い出。

睨んでいる俺に、反撃してみろと言わんばかりに挑発的な態度の江口。

そんな中で白羽は、彼女がここへ来た目的を憶測していた。


「もしかしてここ…… 誰かの土地ってことですか? もしくは国有地?」


「どちらかといえば国有地かな? 実は用があるのは秘密基地じゃなくて()()()()


「機密基地とは?」


「機密情報だから教えられませぇん!」


 そうこうしてる内に日が暮れ始めてしまった。

白羽が全員に号令を掛けて家に帰らそうとするが、

ヘソを曲げた俺はストライキの如く秘密基地から出ようとはしなかった。


「俺はこの姉ちゃんが俺達の基地に何もしないように見張るつもりだ」


「暗くなったら令和のお父さんとお母さんが探しにくるぞ? 説教されたいのか?」


「うぐっ……!!」


 怖い存在と好奇心を天秤に掛けて、悶々としている自分の背中を叩いたのは定晴だった。


「俺も残るぜ?」


「おい定晴!!」


「皆でやれば怖くないってな!!」


 白羽は呆れ顔になる。複数人団結した相手に説得も不可能と判断した。

そして残るメンバーは他にも、毬栗頭の甚平じんぺいとクラスのマドンナ眞智子。 

ロボット大好き寺田てらだに温厚なガキ大将不死田ふじた

最後に猟友会の娘鬼灯かがちの計七名が残る選択をしたのだ。


「……どうなっても知らないぞ?」


 白羽は日鶴と和花を連れて、住宅地のある方へ帰って行ってしまった。

残された七名と江口の睨み合いが始まる。


「いやいや戦うんじゃないんだからさ……」


「そもそもアンタは不審者の類から外れてないんだ。

目的を話さず秘密基地を退去しろって話がそもそも油断ならねぇ」


「令和君は慎重だねぇ…… 良い事だと思うよ」



「「「「「 ………… 」」」」」



 明確に対立を孕んでしまったことにより、

頭をポリポリ掻きむしる江口も、いよいよ降参してしまった。


「分かった!! ……ここでこうしてても時間の無駄だし話して上げるよ!!」


 すると江口は秘密基地を支える木の幹に再び触る。

何をしているのかと七人が覗くと、触った部分の樹皮がへこみ、

なんと近くの地面が真っ二つに横にスライドして、地下へと続く階段が現れたではないか。


「ちなみにこのボタンは指紋認証♪

そしてまだ進むかい? 少年少女達よ」


「ったりめぇだい!」


 総意で階段を下り始める。

およそ田舎町らしからぬタイルが、上下左右に張り巡らされる通路を進んでいると、

いきなり点灯したかと思えば、気味の悪い剥製が両端に並べられていた。


「何ですかこれは……?」


 眞智子は思わず不死田の後ろに隠れながら質問する。

それらは植物の化け物だった。通路を進めば進むほど体躯も大きくなり、

突き当たりの扉の前に立つ頃には、ビル一個分のデカさに匹敵する化け物が飾られていた。


「これらは江戸時代の頃に発掘された化石から推測されたUMA群よ。

私達は研究の末にこれを植物型のエイリアンと断定した。

最初は種子が宇宙より飛来して来たと仮説を立てられたのから始まり、

種からモンスターになるまでそう時間は掛からなかったらしいわ」


「何でこんな物が…… 田舎町の地下に……」


「田舎町だからよ。隠しやすいから」


 鬼灯の真剣な質問にさらっと返す江口は扉の中へと入って行った。

俺達も先に進むと、ある者は目を見開き、ある者は足が竦んでその場に尻餅を着く。

超巨大な貯水タンクの水を抜いたような場所に〝それ〟はあった。


「これって……!! これってぇ?!!!」


 ロボット大好き寺田が誰よりも興奮する物。

そう、目の前にはさっきのバカデカい植物のモンスターと肩を並べる大きさのロボットが、

自分達が生きてきた十八年の間もこの地下深くに眠っていたのだった。


「こんなこと…… 有り得るのかよ……」


「夢だと思うならホッペをつねれば?」


 なんと江口はいつの間にか作業着に着替えており、

ペンと紙を持って橋を移動させ、ロボットの中に入って行ったではないか。

勿論俺達も後に続く。中は特撮戦隊モノのイメージ通りの内部。

ボタンが沢山あって、でも生活可能な設備が整ってるから、どちらかと言えば宇宙船の気分だった。


「動かしてみる寺田君?」


「良いんですか?!!!」


「えぇ勿論!! 私はここにロボットの点検しに来たんですもの」


 代わりばんこで操縦する俺達。

一番上手かったのは意外にも、常にボーっとしている毬栗頭の甚平だった。


 ここのエリアはそこそこ広かったので歩かせたり腕を振ったり、

だけどさすがに超電磁砲やミサイルなどはぶっ放せて貰えなかったな。

一生の思い出になったのは、壁に向かって火炎放射器やロケットパンチが使えたことだ。


 一通り点検が済めば、楽しい時間があっという間に終わってしまった。

夏休みの自由研究の題材に出来ない貴重な体験だった。


「このロボットはいつ活躍するんですか?」


「活躍しないってことは平和ってことなのよ?」


「えぇ…… 植物型のエイリアンは襲ってこないんですか~~??」


「今はいないねぇ~~ でもいたらとんでもない事態になるのよ?」


 寺田の期待を悉く砕いていく江口への質問タイム。

すると眞智子が手を挙げて核心を突く。


「じゃあ何でこんなロボットが作られたんですか?」


「実はこのロボットがいつから存在するか分かっていないのよ。

さすがに歴史上のどの人間も造れるとも思えないから、

仮説として挙げられているのは古代核戦争説だね。

有史よりも遙か昔の文明で造られたぁなんてのが有力。

近代で可能ならガン○ムなんて創作で留めておかないでちゃちゃっと実物を造れちゃうでしょ?」


「今も動くのは何でですか?」


「私はそこまで詳しくないんだよなぁ……

近付いても人体に害が無いから整備士として私がいるだけで、

噂だと未知のレアメタルだとか、反物質による何かとか、細かいことは勉強不足でごめんねぇ!」


 ある程度のロボットの質問が終われば、帰りのトラウマ通路を通って帰ることになる。

その時点でも寺田の質問は止まらない。


「この植物型エイリアン達は動かないんですよね?」


「大丈夫大丈夫!! これレプリカだから」


「あっ…… そうなんすね」


「実物はNASAだなぁ~~

しかも未だ復元されていない化石のままだから、このレプリカも創作なんだよねぇ」


「化石は全世界で見つかってるの?」


「そうだよぉ~~ さすがに宇宙から飛来してきた物は江戸の町だけに収まらないってぇ!!」


 地上に出るとすっかり真っ暗だった。

江口は幹に手を置いて再度押すと、樹皮は元の形に戻り、

地下へと続く階段は、何もなかった雑草の生える地面へと還ってしまった。


「あの江口さん!」


「何だい寺田君?」


「僕もあのロボットの整備士になれますか??」


「そうだなぁ…… じゃぁ大人になったら取り敢えず環境省においでよ!」


 寺田がぴょんぴょん跳ねているそばで、腕を伸ばして仕事を完遂した感を出す江口。

俺は最後にこんな質問を投げ掛けてみる。


「ロボットがかなり昔の物だってんなら、エイリアンも結構昔からいるってことだよな?」


「そうだねぇ~~ あぁ酒飲みたい~~」


「っ…… 明日にでもエイリアンが人間を襲う可能性もあるんだよな?」


「……まぁ0%ではないよねぇ 地下もしくは宇宙からひょっこり現れたりねぇ~~」



「どうしたの令和?」



 眞智子が気に掛けてくれたが、それに俺は応えられなかった。

俺の夢もここで定まった気がして高揚していたから。


「あのロボットを操縦するには何が必要なんだ?」


「あぁどうなんだろう…… そこら辺も詳しくないなぁ……

取り敢えず大特? あとは逃げちゃダメだって気構えかなぁ……」


「なんかフワッとしてんなぁ……

あとその元ネタはロボットじゃなくて人造人間だからな」


「……えっ?! エヴァ○ゲリ○ンってロボットじゃないの?!!!」


「ロボじゃねーよ!!!! フワっとしてんなぁ!!」


「アハハ!!

でもだからって私を舐めない方がいいよ? 誰しも地味でも役割ってのがあるんだから、

そんなことも知らないで相手を勝手な評価で見てたらさ…… いつか痛い目見るんだからね!」


「ふんっ…… どうだか……」


「君達は幸運なことにこの怪しいお姉さんと出逢い、そして興味を持った。

その結果もたらされたのは、この何もないただの秘密基地から、

国家機密のロボットの存在を認識出来たんだ。

この経験はこれからの人生を歩んでいく君達にとって、とてつもない財産だと私は思うな!!」


「…………」


 俺は何も言い返せなかった。

ロボットなんて所詮、創作物の枠を出ない無意味なものだと思っていたんだから。

だけどなんだろうな。翌日に質問攻めしてくる白羽を見てると、ちょっと優越感が半端なかった。




 令和六年。現在。


「んで? 令和は操縦士になれたの?」


「逃げない心だけは育んだ…… おっ!?」


 ひぐらしが鳴き始めて酒が尽きかけていた丁度良いタイミングで、残りの七人も続々と合流した。

真っ暗になれば為す術なかったこの場所も、誰かが灯りを用意出来るくらいには大人になっていたのだ。


「久し振りだなぁ不死田!! また一段とデカくなりやがってガキ大将!!」


「も~~! 図体だけなんだからそのあだ名やめてよ~~!」


「白羽も久し振りだな!! どうだ公務員は?」



「その公務員から言わせて貰うけど…… 君達はまだロボットなんて信じてるのかい?」



 彼のその発言は七人を中心に笑いの渦を巻き起こした。


「そうだよなぁ!! 白羽と日鶴と和花はいなかったんだもんなぁ!!

……じゃぁ早速だけどよぉ、頼めるかな? 整備士の寺田さん!!」


「モチのロンですよ令和君!!」


 あの日、江口と同じように寺田が秘密基地を支える木の前に立つ。

そして例の樹皮のボタンを押せば、俺達はまた子供の頃に戻るのであった。



ご愛読ありがとうございました

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― 新着の感想 ―
[良い点] おー、不思議な雰囲気ですね。そなえてあるけど使わないロボット。ずっと使わずに済むといいなと思わされます(税金の無駄づかいな気もするけどw) あと、句読点ありがとう!読みやすい! [気に…
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