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幻想奇譚

【番外編】螺鈿の嫁入り

作者: 秋暁秋季

注意事項1

起承転結はありません。

短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。


注意事項2

番外の中の番外なハイファンタジー幻想奇譚です。

方向性的には幻想奇譚です。

四方八方が漆で覆われた重箱の中に、夜光貝の装飾である金色の龍と虎が左右から私の事を睨んでいる。それは真夜中に輝く星座の様に、惹き付けて止まない魅力があった。

思わず手を伸ばして、掌をぺったりと押し付けたくなる。そうして指先でなぞりたくなる。触り心地はどうか、何か新しいものが見えるのではないか。しかし、そんな私を咎める様に、その螺鈿の目が鋭く輝いた気がした。だから大人しく手を引っ込めて、その獣達から目を離す。

仕方なく、私に臀を向け続ける添乗員の様子を伺う。顔は見えなかった。狐面を被ったまま、ただの一言も私と会話をする事なく、業務に徹していたから。

その絢爛豪華でありながら、何処か不気味な空感はこの空気をいっそう重くさせる。

私は何処へ連れて行かれるのだろう。何をさせられるのだろう。気が付いたらこの箱の中に居て、ただ鶴のような白無垢を着たまま、何も出来ずに困惑する他なかった。

突如、牡丹が真っ二つに割れる。添乗員は扉を抑えたまま、私に降りる様にと促した。不安げに添乗員を見るが、仮面に覆われたその顏から表情を伺う事は難しい。ただ私に下りる様にと、腕を振る。

仕方なく一歩、また一歩。両足が完全に重箱から離れる。嫌な予感がして振り返ると、もう扉は固く閉ざされて、私が帰る道は閉ざされていた。去ることを拒む様に。

外の世界の真ん前には、七段飾りの豪奢な雛人形が迎えてくれた。能面の様な顔はまるで先ほどの添乗員の様。視線を左に逸らすと重箱と同じくらい美しい螺鈿で飾られていた。左から右へ、虹色に変化を繰り返す。まるで(さざなみ)の様に。きっと……私が行くべき道を示しているのだろう。

夜闇の虹の壁、黒の大理石の床、そして黄金の美人屏風の天井。すれ違う者はただの一人も居らず、ただただ、彷徨い歩く。この世界が導くままに。すると突き当たりの一間に繋がる事に気が付く。壁も天井も金を基調とした美人画。ただ畳だけが真新しい薄緑の一室。そこで初めて添乗員以外の生き物と出会った。

黒の羽織袴に顔を覆う黒の狐面。ピクリとも動かないその様は置物の様だった。故にただ立ち止まって立ち竦む。

――何をしている? 早う隣へ。

心に直接語りかける様に、そう言われた気がした。逆らっても、きっと逃げられない。夢なのだと思う。だったら言う通りにしよう。

草履を脱ぐ。隣に腰掛けると、声が聞こえて来た。

――今日は桃の節句故。

それがきっと号令だったのかも知れない。私達の周りに小さな世界が構築されていく。平安京に、五重塔。数多の雛人形達が祭りでも執り行う様に、神輿や番傘を担いでいる。そうされると、何だか私が雛人形の一部になった気がした。

――皆、待っていた。お前が此処に来るのを。

この間、お話していた螺鈿の話です。

故に『是が非でも幻想奇譚で出したい』という意志の元、こうなりました。

幻想奇譚の定義は『情景描写に重きを置いた綺麗な話』なので、『広義の意味では間違ってない』と意地を張ります。


螺鈿という言葉の響きも、装飾も好きなんです。

なんなら雛人形そっちのけで夢中になる位には。

また、触れたいと思います。


このまま嫁入りされるのか、元の世界へ戻れないのか、という話は野暮なので考えません。

でも人生なんて一夜の夢みたいなものなので。

この世界が壊れたら、また探せばいいんですよ。

正夢なんて言葉もあるんですから。

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