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あの白球を支配しろ!  作者: ニート大帝
ジュニア・全国リトル大会予選
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9.三振に仕留める

 今日は小学4年生になって最初の登校日だった。つまり今日の放課後には初めてのリトルチームでの練習が始まるということであった。


「おはよう!司! いよいよだな!」


「そうだね、いよいよ公式戦が近づいてくるね」


「私、絶対司からエースナンバー奪っちゃうから!」


俺はいつものように高史と莉子と三人で小学校に向かっていた。そして談笑している内に学校に着き、新たな教室へと入った。


「あっ由佳ちゃん! おはよう!」


「莉子か、それに川谷と野神もおはよう」


教室にはすでに村上さんがいた。村上さんは小3のクラス替えから一緒になり、よく4人で集まっている。小4とは思えないほどなんだか村上さんは大人っぽかった。


「由佳ちゃん、今日からリトルで練習だね! なんだかワクワクするよ!」


「・・・莉子、あんた分かっているの? 私達は女子、身体能力じゃ男子にはそのうち敵わなくなる。だから私は男子よりも練習をするよ。野神からエースを奪い取るために。ワクワクはしていないわ」


「うっそれは・・・」


村上さんの言う通り、女子と男子じゃ身体能力に差が出てきてしまう。小学6年生になる頃には一学年下の男子にポジションを奪われるなどよくあることだった。それを分かってもなお村上さんはエースになると言った。


「それに私は甲子園を目指しているの! 女子が甲子園に出るのは生半可な成績じゃ無理。だからエースにならないといけないの」


この世界では前世と違って硬式野球はプロを除いて男女混合できる。しかし女子と男子では身体能力に差が出てきてしまうため、硬式野球には硬式女子というチームがある。だが、女子チームは甲子園へは行けない。行くためには硬式野球部で高校野球をして甲子園を目指すことになる。しかしそれは茨の道である。甲子園に行くには強豪の学校に行かなければならないし、強豪に行けば女子はほぼレギュラーになれる確率は0だったからだ。だからこそ村上さんの言葉には力強い覚悟があった。


「負けないよ、村上さん」


「え!?」


俺からそんなことを言われると思っていなかったのか、村上さんは驚いた表情をしていた。俺は女子だからといって舐めたりはしない。全力には全力で答えるのが礼儀だと思っているからだ。


「そ、そう」


そう言うと村上さんは俺とは逆方向を向いてしまった。莉子の方を見たが、莉子はなぜか俺を完全に睨んでいた。高史は我関せずという感じで席へと戻っていった。


■■


「今日からリトルに昇格するみんな! 俺は監督の梶哲弘(かじてつひろ)だ! よろしくな。じゃあそれぞれ挨拶してくれ!」


今日仙道リトルに上がったのはジュニア時代の同期、俺を含め6名だった。ジュニアの時に野球が大変でやめる人も出るというが、どうやらその心配はなかったようだ。俺達6人はそれぞれ元気に挨拶をした。


「よしじゃあ早速だが、まずはどれだけできるか実力を確かめさせてもらうぞ! ピッチャーは投球を、ほかはバッティングを見させてもらう」


俺達は大きな返事をして監督についていった。グラウンドのバッターボックス周辺にはすでに何人かの先輩が集まっていた。どうやら上級生の胸を借りるようだ。男子には男子を、女子には女子を当てるらしい。


「じゃあまず女子から確認させてもらう! 川谷! マウンドに立て!」


「はい!」


最初は莉子だった。キャッチャーは木部先輩だった。滝上先輩という不動のキャッチャーがいるにも関わらず、ふてくされずに野球をする精神はすごいと思った。バッターは平田さんだった。莉子はストレートでツーボール、ワンストライクと追い込んだが、きれいにセンター前に運ばれてしまった。


「どんまいだ、莉子。これからだ!」


「うん、ありがとう司」


次に村上さんがマウンドに立った。バッターは引き続き平田さん。村上さんはストレートでツーストライクまで追い込み、そして俺の予想していない変化球を投げた。落ちる球、フォークボールだった。予想していない変化球だったため、平田さんは空振り三振をした。


「村上さん、いつフォークなんて覚えたの?」


「気になるか、野神? 今度二人っきりで教えてあげようか?」


「ダメー!」


なぜか莉子が拒否をしたため、この話はなかったことになったが、フォークボールは覚えてみたいと思った。


「次、男子のピッチャー! ・・・野神か」


「はい。野神司です。よろしくお願いいします」


俺は木部さんと投球練習をして肩を温めた。今日も肩や肘の調子は良かった。


(相手は誰かな・・・。カーブとか試したいから結構打つバッターがいいな)


そう考えているとバックネット裏からバットを持った滝上先輩が現れた。俺だけじゃなく、周りも動揺していた。


「滝上、お前は自主練していたんじゃないのか?」


「すみません、監督。これも自主練です。ピッチャーの球を打てるかどうか練習します」


そう言うと滝上先輩は右打席に入り、素振りを始めた。滝上先輩はもうすでに球界では有名人。全国予選大会、全国大会、秋季東京大会の3大会ですでに通算ホームラン数40本に到達した。すでに高校野球のスカウトも見に来ているらしい。


(いきなり滝上先輩と対戦か・・・面白くなってきたな!)


俺達の様子を察知したのか、周りの上級生たちもこちらに注目してきた。俺はプレートの土を払い、ロージンバックで滑り止めをして準備を進めた。すると木部先輩が俺のもとに来てくれた。


「まさか滝上が来るとは思わなかった。大丈夫か?」


「ハイ大丈夫です! というかワクワクしています!」


「そ、そうか。じゃあ一応コースは俺の指示に従ってくれ。後はなにかあるか?」


「カーブ投げたいので、サイン決めておきましょう!」


「お前、カーブ投げられるようになったのか」


俺と木部先輩は簡単なサインを決め、滝上先輩を迎え撃つ準備は整った。仕方ないので監督が主審をすることとなり、俺の最初の対戦が始まった。俺は木部さんのサインに頷き、まずはストレートをインコースギリギリに放った。ボールは糸を引くように木部さんのミットへと入った。


「ストライク!」


ボールはギリギリストライクゾーンに決まった。滝上さんも最初は様子見で見逃したらしい。今度はバットをしっかりと握って完全に打つ気満々だった。


(もう一段ギアあげないと!)


今度は対角のアウトハイに要求されたのでそこに向かって先程よりも力強くボールを投げる。ボールは滝上先輩のバットに当たったが、ファールとなった。これでノーボール、ツーストライクとなった。そして木部さんのサインはカーブだった。


(俺が滝上先輩を打ち取るために磨き上げたカーブ、見ていてください!)


俺は決め球のドロップカーブを放った。それは俺の理想通りの軌道を描き、ストラクゾーンから思いっきりボールなった。しかし、木部さんが予想していなかったのかボールを後ろにそらしてしまった。


(くそ! やっぱり初見じゃ取るのって難しいのかな・・・あっ!)


バッターボックスを見ると滝上先輩のバットは空を切り、空振りをしていた。マウンドでも分かるくらい、滝上先輩は驚いていた。滝上先輩意外にもその場にいた全員が呆然と其の様子を見ていた。


■■


(し、信じられん! 滝上が三振とは)


俺は今信じられないものを見ていた。滝上のわがままで急遽監督である俺が主審をすることになったが、いいものを見た。


(球速はざっと100キロぐらいか、伸びがある分体感もっと速いな。それにあのドロップカーブ・・・)


あのカーブは一級品だった。小4であれ程の変化球を投げられるピッチャーは俺の知る限りいなかった。


(これはとんでもない才能だな・・・)


才能のある2人を指導することとなった俺は、少々震えた。

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