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1話 魔法陣

 窓の外を眺めると、綺麗に咲いた桜の花が風に吹かれて揺れている。

 窓際の席で机に肘をついてぼーっとそんな景色を眺めている少年。彼の名前は大宮仁(おおみや じん)という。


「おう大宮、何眺めてんだ?」

「いや、特に何か見てたってわけじゃないさ」


 身長は180センチ前後はあるだろうか、体つきのいい少年が大宮の机に手をついて語り掛ける。


「そうか、そういやお前進路って考えたか?」

「んー、どうしようか迷ってんだよなぁ……宮本は決めたのか?」

「とりあえず進学って事くらいだなあ。何大学にするかってのはまだ迷い中だ」


 彼の名前は宮本和也(みやもと かずや)、剣道部のエースであり、去年は全国大会にも出場するほどの実力者だ。

 勉強も目立つほどではないものの出来るほうで、欠点らしいところと言えば熱が入ると声がデカくてうるさい事くらいだろうか。


 大宮達は今年で高校三年生になる。


「何て言うか、高校に入れば何かしら輝く何かがあると思ったんだけどなあ」

「俺と出会えただろ?」

「やめろよ気持ち悪い。お前が美少女だったら話は変わっただろうけど」


 得意げに胸を張る宮本に苦笑いした大宮の視線が、無意識に女子の方へと向く。

 何人かは前とクラスが同じで、顔は良いし気にならないわけではないという子もいるが、だからと言って一歩を踏み出すところまでは行かないような子ばかりだ。


「しっかし美少女なあ、俺も美少女に愛されてみたいもんだけどな」

「お前スペックいいんだからモテるんじゃないのか?」

「まあな。でも長続きすると思うか? お前なら俺の事よく知ってるだろ」

「あー……」


 場合によっては振り回される側になるのもいい。しかし、宮本は気を遣っている時はいいのだが、気を遣わない時の振る舞いは傍若無人と言っていい程だ。

 よく言えば裏表が無いと取れるが、そういった受け取り方をする人は少ない。

 実際、彼はエースではあるものの、剣道部の部長は任されていないのはそういった所だろう。

 もっとも、大宮から見れば彼は良い奴ではあるのだが。


「お互いに素でいられるってヤツは案外いないもんだ。そう思わないか?」

「そうだね」


 いつも通りこうしてどうでもいい事を話して時間を潰す休み時間。

 しかし、今日はいつもとは違った。


「うおっ!? なんじゃこりゃ!?」


 突如として宮本の足元が光り始め、宮本を囲うようにして白い線が床に走る。

 宮本が反射的に飛び退くが、まるで天井から投影しているかのようにその線は宮本を逃がさずに伸びていく。

 それはまるで魔法陣を描いているように見え、線が伸びるほど光は増していく。


 教室にいた他の生徒にもそれは見えていたようで、パニックになって逃げだす生徒や、興味津々と言った様子で眺める生徒がいた。


「宮本! 掴まれ!」


 何か嫌な予感がした大宮は、宮本へと手を伸ばす。


「何のイタズラだってんだ!」


 そう叫びながら宮本は大宮の手をガッチリと握った。

 少なくとも、大宮には彼の強い握力を確かにその手に感じていた。


「なっ――」


 しかし、魔法陣の光が教室を埋め尽くしたと同時に大宮の手には握られているという感触は無くなり、光が収まった時には宮本の姿はどこにもなかった。


「なあ大宮……これ……何かのドッキリだよな?」

「葛西……それはこっちが言いたいセリフだよ」


 呆然と立ち尽くす大宮に声をかけたのは、葛西信幸(かっさい のぶゆき)という男子生徒だ。

 クラスが3年同じという事もあり、大宮や宮本とは一緒に遊ぶ事もある仲だ。


「言いたくもないし……考えたくもないけど……これってさ……」

「何だよ……」

「ファンタジーで見る……召喚……みたいな……」

「何ふざけてんの!? 冗談はやめてよね!」

「ご、ごめん……」


 葛西の言葉に女子生徒が声を荒げる。

 しかし、大宮は葛西の言葉が真実なのではないかと思っていた。


「クソッ……一体何がどうなって……」

「ちょっ……大宮!」

「何だよ?」

「足元!!」


 パニックになりかけている葛西が大宮の足元を指さす。

 宮本の時よりも光が弱いように感じるが、大宮の足元にも宮本に出たものと同じような線が伸び始めていた。


「何だってんだよ――!」


 宮本がしたように飛び退いても、やはりピッタリと追尾してくる。

 得体の知れないどこかに飛ばされるかもしれない。その恐怖が頭の中を染めていく。


「キャアァツ!」

「俺もかよ――!」


 他のクラスメイトの足元にも線が現れ始め、廊下や他の教室からも悲鳴が聞こえてくる。


「お、俺まで……」


 葛西の足元にもそれは出ていた。

 阿鼻叫喚の中、大宮の魔法陣の光が強くなっていく。


「出来るだけ冷静に……落ち着け……」


 そう自分に言い聞かせつつ、大宮の視界は光で埋め尽くされた。

 

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