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理想的恋愛主義者減量中  作者: 夜霧ランプ
6/10

守護天使の思し召し

 食事の大改革を始めてから、一週間目。冷蔵庫は空に成った。週末が近づくにつれて、やはり「魔の箱」になってしまったカップ麺の箱が、無性に気になっていた。

 護符として、冷蔵庫や箱にみみりんのお姿を貼っておいたのは、絶大な効果があった。みみりんに見つめられていると思うと「そうだ。私は、この天使に逢いに行くのだ。そのための苦難など、恐れるに足りぬ」と、覚悟を決めなおせた。

 そのおかげか、次の買い出しの日である日曜日には、カップ麺のストックがある状態で買い物に行けた。

 もちろん、買い物に行く前に、最後のスポーツドリンクを「やや濃いめ」で作って、2リットルきっちり飲んでから出かけた。空腹で買い物に行くと、必要ないものまで買ってしまうと言う情報を得ていたからだ。

 今回は、食べるものの種類の他に、金額を設定した。四千円以内で、一週間分の食料を買うのだ。つまり、使えるのは三千円台まで。

 栄養素的に必須のもので、値段の安い物から買い物籠に入れて行った。しかし、此処で私は奇跡的な出会いをする。それは、袋ゆでうどん。一食分ずつ別になっていて、しかもその値段は…26円。

 うどんは、炭水化物の中でも、燃焼率が良い。基礎代謝を上げてくれて、脂肪の燃焼の助けにもなる。そして、麺つゆを1リットル買って、薄めながらレンジでかけうどんを作って毎日食べても…恐らく、一食の実費は30円くらいだと予想した。

 唯、この理想的な食べ物は、生麵なので長期保存に適さない。解凍したらどうなるかは分からないが、次の日曜日まで持たせるなら、冷凍しなければならない。それだけを案じながら、私は茹でうどんを7つ買い物籠に入れた。


 恐ろしい現象を体験した。食事制限を初め、微々たるものだが運動をするようになってから、二週間目。眠っている間に極度の空腹で目が覚めたのだ。私は、冷蔵庫に貼ってある、みみりんのお姿に気づくこともなく、その扉を開けた。

 そして、見た所、一番簡単に食べれそうだったチーズの箱に手を伸ばした。チーズの箱はまだ新しく、テープで止まっている。

 なんだよ、早く食べて眠りなおしたいのに。そう思って、昨晩切ったばかりの爪で、チーズの箱を止めているテープを剥そうとした。しかし、テープはぴったりくっついている。イライラして、グイッと指に力を入れた。テープがちょっとだけ捲れて、「お」と期待の感嘆を漏らした。

 そこで我に返って、ゾッとした。ちょっとだけ封印がめくれたチーズの箱を取り落とし、床を転がった箱を拾って冷蔵庫の中に放り込んで、冷蔵庫を閉める。

 そこには、いつも私を見守ってくれている、みみりんのブロマイド…別名、お姿が、部屋が暗いせいか、表情が見て取れないくらい暗く見えた。

 私は、なんと言う、恐ろしい欲に染まってしまっていたのか。みみりんは、きっとお姿の中から、必死に私を止めようとしてくれただろう。だが、夜の闇と言う恐ろしい存在が、私を盲目にして、唯飢えを満足させるためだけに、チーズの箱の封印を開こうとしてしまった。

 昨日、風呂上がりに爪を切った事、簡単に食べれそうなものがチーズしかなかった事、チーズの箱のテープが中々取れなかった事、それ等が、私の理性を呼び覚ましてくれる時間をくれた。

 これらは、私達「みみり教」の守護天使、みみりんのご加護に他ならない。

 食と言う業を当たり前とする事の恐ろしさと、それから逃れられたことの感謝から、私は声を殺して泣き崩れ、一頻り泣いて空腹を忘れた頃に、ベッドに戻って眠りなおした。


 165cmで、100kgを越えていた私の体重は、最初は緩やかに、そして次第にスムーズに、減少して行った。だが、ある時から、ぱったりと体重が減らなくなった。90kgと言う、まだデブと言うには十分な重さと輪郭の異常さを兼ね備えた時期に、ぱったりと。

 これが停滞期。そして、次に来るのはリバウンドだ…と、私は構えた。人間の体にはホメオスタシス―恒常性―と言う、減量したい人には厄介な機能がある。急激に痩せると、特にその恒常性に左右されて、少量しか食べてなくても減量を始める前より太ってしまう場合もある。

 ダイエット番組のレギュラーとも言えるでっぷり系芸能人が、何度もダイエットに挑戦して、目標体重まで減量する事には成功するが、その後で必ずリバウンドをしてしまっている姿を、ウェブ広告でも何度も目にしている。

 その芸能人は、幸いな事に外見に恵まれている。何度もリバウンドを繰り返した体は、全体的に巨大化しているが、綺麗めデブと言うジャンルに属せている。

 私は、自分の顔には自信はない。顔まで浸食している脂肪を脱ぎ去った自分の顔面を見たことが無いからだ。

 脂肪に支配されていた時の顔面を思い出すと、頬に圧迫された目は細く、肥大した唇は分厚く、顔の何処かには常にふきでものがあった。

 買った時より、私の全体像が多少収まるようになった姿見を覗き込むと、やはり目が細くて唇が分厚くてほっぺたがでかい、ふきでもののある生き物が映る。

 髪の毛は、最悪カツラでごまかせるとしても、顔面は誤魔化せない。私は二日も待たずに保湿クリームを買い、顔面の筋肉を引き締めるマッサージ方法を動画で調べた。

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