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【3章】おもしれー女

毎月第一金曜日夜八時更新予定。


諸事情で次回更新は9月1日金曜日夜八時になります。

詳しくは活動報告をご覧ください。

【3章】おもしれー女


 侵入者の上着を剥がして王宮のメイドにかける。

連れ去られていない事に安堵した。

気絶させられてはいるが、大きな傷もない。


「ん?」


 この男たちは何者なのか。

ヒントがないかと見まわしていると少年がいない事に気付いた。

近くにいる気配はない。


「……!!!」


 フと視線を感じて顔をあげればバルコニーの手すりに腰掛け、腕を組み、何か面白いものを見つけたように笑みを浮かべる男。

気配を感じなかった。

年齢は20代後半くらいだろうか。

この国では不吉な黒い髪。

黒い目。

彼女にとっては懐かしい容姿。

美形の部類だがどこか野性的な雰囲気はこの美しいだけの王宮には似合わない。

この男がここにいる事にどこか違和感を感じるほどに。

殺気がない事から男たちの仲間ではなさそうだ。

しかし、公爵令嬢が侵入者を素手で倒してしまったという情報が流れるのはまずい。


『この生活が崩れる……!』


 しかしすぐに「そんな事誰も信じないのではないか」という考えについ構えた拳を収める。

一体誰が信じるんだ。

可愛らしい体の弱い公爵令嬢が、悪漢数名を素手で制圧したなど。

倒された本人達も白昼夢とすら思うだろう。


「おもしれー女」


 懐かしく胸に響く言葉。

”マキちゃん”に嫌というほど聞かされたオシとやらのセリフ。

オシが苗字なのか名前なのか寿にはわからない。


「どうされましたエマリザベス様!」


 騒ぎを聞きつけた兵士達の足音が部屋から聞こえてきた。

遅すぎる。

期待した助けのはずなのだが、エマの眉間に皺が寄る。

”オシさん”は何か言いたげだったが、バツの悪そうな顔で兵士達から逃げるように去っていった。


「こ、これは……!」


 その場の状況に言葉を失う。

まず、王宮への侵入者があった事。

守りは万全のはず。

そして、この状況。

倒れている男たち。

その中央にボロボロの服の来賓。

この状況は誰にも説明は出来ない。

知っているのはオシさんとエマだけ。

しかし、どういうわけかオシさんは逃げた。

という事はこの場にいては不都合のある人間。

ならばそれは好都合。

この事実は流されない。

その異様な空間を誰もが察知したようで、部屋の隅に倒れていたメイドはすごい勢いで運ばれていった。


「エマリザベス様、失礼しますっ!」


 エマリザベスも軽々と担がれる。

今度はタンカのようなもので二人がかりで

それはそれは丁重に。

運ばれながらも事情聴取が始まった。


「背後を取られたと思ったら意識を失いまして……」


 それは紛れもない事実。

小さな小さなお嬢様の言葉を誰もが信じた。

これが、もしも寿だったら誰も信じてはくれないだろう。

身を守るためだったとはいえやりすぎたと反省する。

エマが何も知らないと知った兵士たちはそれ以上追求する事はなかった。

むしろ、何もなかったかのように振る舞う。

どうでもいいが、普通のお姫様は「背後を取られた」とは言わないだろう。




「お持ちいたしました」


 急遽用意されたドレスは澄んだ空の色。

なぜかエマリザベスにピタリとあうサイズ。

ふわりと裾を翻せばドレスを持ってきた老年のメイドと目が合う。

メイドは会釈をすると穏やかな表情で部屋を後にした。




「こちらです」


 王宮に侵入者がいたというのにそれがなかったかのように物事が進んでいく。

急かされて案内されたのは大きな扉の前だった。

間もなくすぐに左右の扉が同時に開けられると降り注ぐ光。光。光。

まるでスポットライトのように。

人工的に作られた魔法のまっすぐな光がエマを貫く。

襲い掛かる光を手で遮り、薄く目を開ければそこは壇上の端。


「お前達には平等に権利が与えられている」


 壇上中央に鎮座するはこの国の王、ルーク・キングダム35世。

王家が代々受け継ぐルークの名を持つ男。

その視線は熱を持たない。

何にも動かされる事のない瞳。

その目は愛おしい跡取り息子のみに注がれていたのだろう。

その目に映すものは今は何もない。


 何も映らない視線の先には2人の青年。

この場を見守るように兵士達が壁沿いにずらりと並んでいる。


 青年の一人に見覚えがあった。

第二王子のフェリクス・ルーク・キングダム。

20歳。

数少ない外出の際に馬車の中から見かけた事がある。

柔らかい金髪と甘いマスク。

誰よりも整った顔は微笑むだけで女性を虜にするともっぱらの噂。

いや、実際に虜にされてきた女達がいるのだろう。

美しい緑色の瞳は少し困惑したようにエマを見つめている。

うっかりすると見とれてしまいそうなほど。

だが、この男の悪い噂はごまんとある。

所謂”女の敵”。

エマは消して騙されない。


 そして、その隣の少年。

どこかフェリクスに似ている外見からして第三王子セシル・ルーク・キングダムだろう。

確か17歳。

フェリクスと同じく美しく輝く金髪と緑の瞳。

ふわふわ感は兄に比べるとない。

しかし、兄と違うのはその目が「どうでもいい」と言い続けている所。

何にも興味を示さない目は父親そっくりだ。

「どうでもいい」と一瞥するとすぐに視線をそらされた。

フェリクスと比べると王族のキラキラオーラはない。


「第三王子フェリクス・ルーク・キングダム様」


 王が合図を出すと、騎士団長のような風貌の男が名前を読み上げる。

立派な西洋甲冑に身を包み、その上からでも身体が出来上がっているのが見てわかる。

「是非、手合わせを願いたい」などと考えていたエマだったが何かが引っかかった。


『ん?第三王子?』


 確かに彼は第三王子と言った。

フェリクスも気にとめる素振りもなく「はいは~い」と王族にあるまじき軽い返事をする。


「第四王子セシル・ルーク・キングダム様」

「……はい」


 セシルも同じく第四が当然のように返事をする。

聞き間違いではない事は確か。


「今から一か月後にトルネオ・ディ・ボーリッジを開催いたします」


 騎士団長が二人の顔を交互に見ながら説明をしていく。

トルネオ・ディ・ボーリッジ。

聞いた事がある。

己に自身のある者が頂点を目指して戦うトーナメント方式の王家主催の闘技大会。

もう長い事行われていないと聞くが、それはそれは盛り上がる大会だと。

各地から猛者がボーリッジという名の港町に集まるのだ。

武器は一つを選択すれば何を使ってもよい。

剣でも、銃でも、ナイフでも、モーニングスターでも、

拳でも。

その大会に優勝すれば後継者として認めると。

フェリクスはニコニコしているが、セシルは興味がない様子。

本人でなくても代理でも構わないという説明にフェリクスがセシルを見るが無視。


「そして、副賞としてエマリザベス様を差し上げます」


『……差し上げます???』


 さらっと告げる騎士団長。

エマの脳内が「待て」で埋め尽くされる。

それ以外の言葉が出てこない。

まるで物のよう。

自分の事のようなのだが他人事に聞こえる。


『私が副賞?』

『この男は何を言っている?』

『正気か?』


 しかし、すぐに怒りも諦めに変わってしまった。

中世のような男尊女卑がこの国には存在している。

女は家を反映させるための道具なのだ。

特にこの王にとっては。


『解せん』




「つまり、そいつには国一つ分の価値があるってわけか」


 突然、降ってきた声。

その人物を頭上の窓に捉えた時、ハッとした。

そこには先ほどの黒髪の男、オシさん(仮称)。

エマの存在に気が付くとニタリと意地の悪い笑みを浮かべる。


「部屋への入り方も知らないのか!」


 落ち着いた物腰だった騎士団長が声を荒げる。

騎士団長らしい声の張り方にうっとりするエマ。


『やはり手合わせ願いたい』


「俺が来る事、ドアの外の奴には言ってなかったのか?」

「通達済みだ」

「じゃあ、余計に質が悪い」


 オシさんはふわりと降りてくると二人の王子たちに「よお」と声をかける。

フェリクスも「やあ」と返す。

セシルは目すら合わせない。


 ドアから入ろうとしたら兵士に止められたから窓から入ってきたとオシさんは笑う。

虐げられるのはいつもの事なのだろう。

 それにしても隣の二人と比べると王族らしからぬ男。

なぜこの男がこの煌めく二人と並んでいるのか。

隣の二人を金色と例えるなら、この男は”灰色”。


「第二王子。ロイド・キングダム」


『……この男が第二王子?』


 いや、第二王子はフェリクスのはずだ。


「第二王子! ロイド・キングダム! 返事をしろ!」


 王子に向かってありえない口の利き方。

まるで罪人相手。

オシさんは嫌そうに「へいへい」と返した。

確実にわかる事はオシさんは嫌われている。

第二王子といいつつ、彼にだけ王族として継ぐべき”ルーク”のミドルネームを呼ばれない。

つまりは第二王子といいながら王族として認められていないという事だ。


「お前にもこの権利は与えられている」

「王冠になんて興味はないが……」


 オシさん改めロイドは静止の声も聴かずにスルッと壇上に上がるとエマの銀髪を掬う。

相手が王子でなければ「この下郎」と一喝できたがどうやらこの男は王子だ。

多分、王子だ。

下手に動いてはミアフロリアス家の今後に関わる。

まだ自制出来ている自分を誉めたい。


「こいつには興味がある」


 ロイドは顔を近付けると髪に口づけた。


「あんなに震えてかわいそうに……」


 兵士達の中から声が漏れた。

カタカタと震えだすエマ。

その震えは恐怖ではない。

怒りだ。

こんな初対面で馴れ馴れしい男は寿なら腹に一発お見舞いしてくれていただろう。


『私が寿でなくてよかったな』


 だが、エマにもこの男に用はある。

この男の返答次第では口を封じなくてはいけない。

全ては”彼女”を幸せにするため。




 あの男に近付いてはいけない、と。

周囲が止めるのも聞かずに廊下でロイドを呼び止めた。

ロイドは待ってましたとばかりにエマの肩を抱き寄せた。

王宮の侍女達の小さな悲鳴があがる。

いや、”抱き寄せた”と書くとロマンチックだが実際は悪だくみする時の肩の寄せ方だ。


「俺を選ぶとはいい判断だな」

「貴様に話がある」


 可愛らしい外見に似つかわしくない声色にロイドがきょとんとする。

言ったはいいがその先の提案がないエマもきょとんとする。

それを察してかロイドが「任せな」と胸を叩いた。

自室でもあるのだろうか。

と、思った時、体がふわりと宙に浮いた。

この感覚、どこかで。


『あぁ、四屯車にぶつかった時だ』


「エマリザベス様になんてことを!」


 彼女は今、お姫様抱っこをされている。

前世から数えて生まれて初めてだ。

自分の今の体の軽さにゆるく感動を覚える。


『お姫様だ! 今、お姫様だ!!!』


「エマリザベス様が驚きのあまり放心状態に……!」


 いや、違う。


「ちょっと話をするだけだ。すぐに返す」


 身長180cmを越す男が140cmくらいの小娘を抱いて窓から飛ぶなど造作もない事だった。

窓から、飛ぶ。

まぁ、驚く事のほどでもない。

ここは2階。

寿にとってはよくある事だ。

軽く誘拐されているという事実は置いておこう。

彼女はこの男と話がしたい。

いや、事実を確認しなくてはいけない。

それだけだ。

いざという時は……。

今、エマの中に相手が王子という事実はない。


 王宮の広い庭を抜けると小さな洋風の東屋があった。

そこでエマをおろすとロイドは息を整える。


「このような場を設けていただきましてありがとうございますロイド様」

「……」


 公爵令嬢らしく丁寧に頭を下げる。

半分忘れかけていたが自分はいたって普通の公爵令嬢なのだ。

ロイドはジッとエマを目を見たまま動かない。

真剣な眼差し。

少女漫画だとここで愛の告白の一つ二つあるのだろうが、今はそうではない。

どちらかいうと週刊少年チャン●オンの雰囲気。


「先ほどバルコニーでお会いした時に」


 ロイドはそのまままじまじとエマをを観察している。

この男が例の事を口外する意思があるか否かを確認するつもりだった。

口外を示唆し、それを弱みと脅してくるような男であれば容赦は不要。


 急激な寒気がエマを襲う。

言葉がそれ以上出ない。

その黒い瞳がなんだか恐ろしい。

見つめられているというか射貫かれている。

そんな感覚。

こんな事は初めてだ。


「あの……」


 本能的に逃げるように身を翻せば腕を掴まれた。

なぜかはわからないが変な汗が吹いて来た。


「外見と中身が違うような……こう……」


 野生の勘が働いているのだろう。

これまで彼女はエマリザベスになろうとしてきた。

少しの記憶を頼りにエマリザベスを構築してきた。

それからもう長い事たつ。

自分はエマリザベスのつもりだ。

見透かされている。

とんでもない墓穴を掘ってしまった感覚。


「こっちの方に行ったぞ!」


 兵士達の声が近付いてくる。


「来い」


 強く腕をひかれる。

が、エマの方はもう話す気がなくなってしまった。

この男が怖い。

どこの誰だかわからない王族だが王族ではない男。

今はただこの男から離れたかった。

ひかれた手を起点に自分から相手に寄ると自分の腕を捻れば相手の手が外れる。

そして軽く肘から体当たり。

どぼんと大きな音を立てて王子らしき男が池に落ちた。

「え」という表情を残して。

それを尻目に兵士達の方へ。

無事にエマは保護された。

そして、護衛の数が増えた。予想は出来たが予想外の事だ。

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