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【2章】そんな事はただの言い訳だ

毎月第一金曜日夜八時更新予定。

予定。あくまで予定。

【2章】そんな事はただの言い訳だ


 その数日後、国民に向けて第一王子の病死が伝えらえれた。

婚約は自然消滅だというのにエマの警護が減る事はなかった。

婚約者を失った悲劇のヒロインを労わっての事だろうか。

それは父親の指示か、メイド長のマリーナの指示か。


「……」


 エマは空虚だった。

どんな顔をしていればいいのか彼女にはわからない。

わかるのは愛しむべき人がその前にいなくなってしまった事だけ。

この胸の空洞の事は何もわからない。

それが空洞なのかもわからない。

ただ、通常通りに振る舞った。

それが強がっているように見えて使用人達の涙を誘う。


 更に数日後、父親と二人で王宮に呼ばれた。

憎たらしいほどの快晴の中。

ここで正式に婚約の破棄を伝えられて終わりだろう。

父親と出かけるのは久しぶりだ。

エマリザベスの父はこの国の軍事の頂点。

それでも、どんなに忙しくても必ず家に帰り、エマの顔を見てから眠りにつく。

エマも父の顔を必ず見てから眠りにつく。

それが崩れたのはあの日から。


 前世パパっ子だった寿は、今世でもパパっ子。

王を想い、国民を想う父親を心から尊敬している。

兄達が家を出てから屋敷の中の親族は二人になってしまった。

尚更にお互いを気遣っている。

久しぶりの親子の外出。

いつもなら楽しそうな声が馬車の外まで聞こえてくる。


「みんな私の心配をしすぎなのです」

「それはお前がいつも倒れているからではないのか?」

「いつもなんて倒れていません。ねぇ、スカーレット!」


 エマのお付きで外を歩くスカーレットに大きな声で話しかけてくる事も。

その度に「はしたないですよ」と声を投げかけていた。

今日は、何も聞こえない。


 城に馬車が到着すると付き添いは城の入り口で待機させられる。

城に入れるのは選ばれた人間のみ。

王宮の廊下を進めば向けられるのは憐みの目線。

結婚を目前に婚約者に死なれた可哀想な娘。


「エマリザベス様はこちらへ」


 更に父と別れて王宮側に用意されたメイドと共に別の部屋へ。

どこの世界にも男尊女卑はあるもので、まずは男だけで政治の話をする。

世継ぎの事だろう。



 王には3人の息子がいる。

 第一王子は王となるべく教育されていたスコット。

真面目で誠実。

人柄もよく、皆から愛されていた。


 第二王子のフェリクスは噂によると「顔だけ良い男」。

常に女の子を侍らせて、遊んでばかりいる。

エマの印象は「なんとも恥さらしな男」。

「いつか打ちのめしてくれる」とまで思っていた。

印象は最悪。


 第三王子のセシルは一般には公開されていない王子だが、

長男の補佐にはちょうど良いと言われる男。


 自然と跡継ぎは次男のフェリクスになり、セシルが補佐としてつく事になるだろう。

誰が王になろうとエマには関係のない事だった。

それよりも自分のこれからを考えたい。

これまでは王妃になるのだからと勉学に勤しんだ。

女に学は不要という者もいたが、父親は感動して学ぶ事を許してくれた。

「常に王を支えたいとはさすが我が娘」と。

父親も同じ気持ちなのだろう。


「緊張、されているようですね」

「…少しばかり」


 案内係のメイドがクスリと笑う。

昔からの習慣で背筋を正して座る姿はどうも”緊張”に見えるらしい。

感覚で座っているため、前世との体格の差だろうか。

年相応に照れ隠しに笑えば微笑むメイド。


「まだ時間もありますし、少し外に出ましょうか」

「よろしいのですか?」

「はい」


 さすがは王宮のメイド。

気の使い方が違う。

 バルコニーに出ると風の流れに乗ってきた虫を叩き落としエマの場所をあける。

初夏の日差しは眩しいが、バルコニー脇に背の高い木があり、

ちょうどよい影が出来ていた。

メイドの示す先には青々とした夏の山。


「あの山には恐ろしい”オニ”がいるそうですよ」

「まぁ、鬼ですか!」

「エマリザベス様もオニをご存じなのですね?」


 メイドのテンションが突然あがった。

声が少しだけ高くなる。

前世の”マキちゃん”を彷彿とさせる。

このメイドは鬼が好きなのだろうか。

あまり詳しくはないので「少しだけ」と返すと、メイドはニコニコしている。

オシの事を聞かれたマキちゃんと同じ表情。

布教したい顔。

顔から好きが溢れている。

 “オニ”は巷で大ヒットしている『上方見聞録』という架空の物語をまとめた本の登場人物らしい。

内容は全てフィクション。

しかしメイドは上手く語る。

まるで本当にいるかのように。

エマの闘志がメラメラと燃えている。


『いつかそれを退治しに行こう』


 王家から解放されればエマはある程度の自由を得られるだろう。

そう、ある程度。ある程度。

エマの中でめくるめく願望が踊りだす。


『エマではなく違う名前でも名乗ろうか』

『そういえば、マキちゃんが「ブキちんは〇〇〇ル様みたい」と言っていたっけ』

『なんだったか。かえさる? みかえる? えるさるばどる?』

『かっこいい男装の麗人』

『美しくかっこいいのならそれを名乗りたいものだ』

『名乗るくらいは許されるだろう』


「本当に鬼の背中に”天”の文字があるのか見てみたいです」

「天の文字……?」


 不意に現実に戻される。

メイドの話をまったく聞いていなかった事を反省。


「そろそろ戻りましょうか」


 名残惜しいが景色に別れを告げて、一歩足を踏み出した時だった。

背中に手をつかれた感覚。

しかし、後ろにあるのはバルコニー。

つまりは侵入者。

即座に振り向いて相手の顔を確認しようとした。

しかし、エマの体は前に傾いていく。

うまく動けない。

視界がまるで自分のものではないように遠のいていく。

これは彼女の苦手な“魔法”だ。

魔力の少ない人間は強めの魔力を流されると心臓が驚いて気絶してしまうとか。

エマの魔力が少ない事は機密事項。

ならば内部の人間。

あのたくさんいた使用人達の中にスパイがいてもおかしくはない。

何せあの人数だ。

バルコニー脇の高い木から何者かが上ってきたのだろう。

そして、室内に戻ろうと背中を向けているエマに魔力を流し込んだ。

その気配に気付けなかった事に修行不足を感じる。


『おのれ卑怯者め!』


 相手はエマと大して変わらないほど小柄だがあっけなく肩に担がれてしまった。

公爵令嬢の抱えられ方ではない。


「こいつはどうする」


 意識だけでも保たねばと奮闘していると声だけは拾えた。

目を開けているはずなのに視界には闇しか広がっていない。

容姿だけでも見ておけばよかった。


「好きにしろ。ターゲットはこのお姫様だけだ」


 痕跡を掴もうとするも足音しか拾えない。

大まかな人数だけがわかった。

今この状況でなんに役にも立たないが。

もう一つわかった事は自分を担いでいるのが

男たちのリーダーであり、少年である事。

聴覚に集中すればメイドの短い悲鳴。

すぐに口を塞がれてしまったのだろう。

しかし、このままではメイドが危ない。

しかし、今の自分ではどうすることもできない。


 可愛らしいお嬢さんならこう願うのだろうか。

「誰か助けて」と。


『なんて私は可愛げのない娘なのだろう』


「~~~~! ~~~!」

「いい加減諦めろ!」

「やっぱりこいつは殺した方がいいんじゃないか?」

「いいから黙らせろ!」


 声が遠くなる。

メイドのもがく声も遠くなる。

助けを願うも誰も来ない。

前世で助けを呼んだ事など一度もない。


『どうして助けを求めているんだ?』


いつものように自分でどうにかすればいい。


『否』


 今の自分はエマリザベスであって寿ではない。

どうにも出来ない。

それにエマリザベスでなければならない。

エマリザベスは古武術を使わない。

きらきらのふわふわのお姫様だ。


 では、このままエマリザベスが殺されてしまうかもしれない局面で祈るのか?

誰か助けて、と。

このままエマリザベスは終わるのか?


『否』


 今は幸せだが、まだきらふわひめとして”彼女”を幸せにしていない。

この状況、自分でどうにかするべきだ。


『否』


 エマリザベスは古武術を使わない。

勝てるわけがない。


『否!』




「そんな事はただの言い訳だ!」




「!?」


 突然の雄たけびのような声に驚いた少年がエマを落とす。

運搬ご苦労。

そして、さようなら。

起き上がりついでに顎に頭突きを食らわせる。

小柄な少年が後ろに転がる。



「貴様達、後悔の準備は出来ているか」




「あ?なんだ今のおと……」


「え?な、なんで……どうなって……」


「うわああ!!!」






「……」



「………」



「…………」



「……………」



「………………」




 記憶が定かではない。

気が付いた時には、意識の無い人だまりの中に座り込んでいた。

多分、殺してはいない。

正直、戦える自信はなかった。

12年ぶりに人間を相手にするのだ。

自分がどう戦っていたかよく覚えていない。

だから彼女は本能に任せてみた。

その結果がこれだ。

残念ながら感覚を探り当てるまでには至らなかった。

邪魔だからと無意識に破ったドレスの裾がローブのようにまとわりつく。

攻撃力と俊敏さをを下げるのは衣服。

それもこんなふわふわの衣服では動きづらい事この上ない。

 しかし、なぜこの男たちを倒せたのかわからない。

体格も筋力も何もかもが寿と違うが、彼女は寿の戦い方しか出来ない。

それで不具合があればその都度調整していけばよい。

どうせこの筋力では一撃で仕留めるのは無理だ。


 …と思っていたのだが、不具合がまったくない。

一撃で仕留めてしまったのが何人かいる。


『解せん』

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