第2話 社交界デビュー
(2022/7/23)
プロローグと一話に少し変更を加えました。
転生してから七年が経った。
俺はいつも通り剣術と魔法の訓練を終えて、ベッドの上で瞑想をしている。
何をしようとしているか簡潔にまとめると魔力を循環させ活発化させることにより魔力容量を増やしている。
また境地を突破しようとしているともいえるな。
何故このようなことしているか?
それは転生時に魔力がリセットされたからだ。肉体も人間だし……。
これにはしっかりとした理由がある。
それは転生前に行った行為に問題がある。
俺は転生前に魔神の力を封印して、転生先の条件をテキトウにして発動した。
そのため、人間に転生してしまったのだが……不幸中の幸いか、魔神の力を封印しておいてよかった。もししていなかったら、おそらく力に耐えきれずに自壊していただろう。
だが勘違いしないで欲しい。
魔神の力を封じられたからと言って、何もできなくなるほど弱くなったわけではない。能力や権能、アイテムなども健在だ。
そこまで心配する必要は無い。
コン コン コン
「入れ」
「失礼します」
入室の許可を出すと、使用人たちは一礼して入る。
「なんだ?」
「は、はい。今日はシド様の御誕生日ということで披露会が行われます。その準備の手伝いに参りました」
「そうか。手短に済ませておいてくれ」
そう言うと、シドは身を使用人たちへと任せた。
(そういえば、今日が自分の誕生日ってこと忘れてたわ)
一時間後。
やっと着替えが終わり、時刻は夕方だ。
まあ、宴会というのは夜から始めるのが定番だし、日が暮れても問題ない。
「シド様。旦那様がお呼びです」
「わかったすぐ行く」
シドは急いで、広間へ行き巨大な階段から降りる。
「な、なんと美しいのでしょうか」
「これが未来の公爵様であるか」
「ソードマスターの子。将来が楽しみですな」
様々な喝采の言葉が聞こえる。
容姿を褒める者。未来を期待する者。媚びを売ろうとアピールする者。
それほどヘルフォード公爵家という存在は大きいのだ。
容姿を賛美する声に関しては本音交じりの者も少なくはない。
ヘルフォード家は家柄だけではなく端麗な容姿すら持ち合わせてるのだ。
そして何より、母方の出身は東方の国。
ここ中央大陸では少々珍しい、美しく漆黒に染まる髪がより存在感を高める。
「シド、どうだ?」
訪れた各貴族への顔合わせや挨拶をおおかた済ませたシドの元に、
現公爵家当主兼シドの父が顔を見に来る。
「まあ、まあかな。にしても多くの貴族がきてるね。侯爵の人や一国の皇族もきてるし……」
「それは、当たり前なことだ。何せ、私たちはこの国を担う大貴族だ。くれぐれ無失態を犯さないように」
「わかったよ、父さん」
いつもは優しい父だが、今日に限って少し厳しい面持ちだ。
それはもちろんのことである。ここに来ている貴族の大半が品定めのように、観察している。シドの家は良くも悪くも大貴族であるため敵も多い。
そのため、弱みをみせてしまうと隙あらば批判やつけ込んだりしてくる。
まあ、そこまで大胆に批判する馬鹿はいないが警戒するに越したことはない。
そしてなにより、今日はシドが主役で社交界で正式な社交界デビューである。
ここで好印象を与えることが今日の課題と思ってもいいだろう。
色々すること、数時間。
シドはテラスに屋敷から出ていく馬車を眺める。
空には光が出始め、あと三時間ぐらいで朝を迎える。
披露会も終わりに差し掛かっている。
その証拠が、屋敷から出ていく馬車たちだ。
どれも豪華で機能性も兼ね備えている。
これだけでも公爵がどれほどの影響力を持っているか一目でわかるだろう。
「はぁ~」
俺はあくびをしながら背筋を伸ばした。
疲れが出ている証拠だ。
四六時中と言っていいほど様々な謀略を持った貴族たちと話すのは正直好みではない。でも、久しぶりに兄と姉と会えたのは嬉しい。
今は自分の好きなことをして自由に生きている。
まったく、こっちの身にもなってほしいものだ。
コン コン
ふと、後ろを振り向くとそこには父さんの姿があった。
「……シド、残念だが眠っている時間はない」
「……はい!?」
俺の眠気は一気にさめた。
「今から二時間後、いかなければならない場所がある。自室に戻って準備なり色々して過ごしてくれ」
そう言い残し父さんは直ぐにこの場を去った。
人間となった今。俺には睡眠欲、食欲、性欲というものが存在する。
こんな七歳児に一日中起きてろと言うのは苦である。
でもまあ抗議するわけにもいかないし、ここは従っておこう。
郷に入っては郷に従え、というだろう?
そんなものだ。
とりあえず、久しぶりに書庫にでもいってくるか。
最近の訓練のせいで行けなかったしな。
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