プロローグ
神族と竜族、古エルフ族や魔族が地上を支配していた神話の時代。
各地で戦火が絶えず、激化する一途をたどっていた。
熾烈な領土争いや殺し合いが繰り広げられる中。
ある絶対者が世界を覗き込む。
『ふむ……どうしたものか』
彼の者は始まりにして終わり。
大いなる深淵の支配者にして、生命体の頂点に立つ者にのみ与えられる
『魔王』、四柱が一人。
数々の時代にて、英雄、暗殺者、旅人、様々な形で地上を放浪しては強者と戦う。
その者の名は■□。
大いなる深淵。
不滅領域クリスタル・パラスにて。
彼の者は世界を傍観していた。
『暇だな』
玉座に鎮座し放ったその言葉は、玉座の間に待機する配下、使用人を大きく震わせた。
水晶に映っていたのはただ殺し合う映像だった。
敵の本拠点以外の街や建造物は見る影もなく破壊されていた。
別に策略張り巡らされる戦争や、高レベルの戦闘を見るのは詰まらないものではない。ただし、それを千年以上見続けるとなると話は違ってくる。
『クック』
不敵な笑みを浮かべる。
その直後、彼の者は自身の足元にある魔法陣を構築していた。
―――それは〈転生〉の魔法であった。
『暇だし、この争いが終わるまで未来へと転生するのも一興というもの。
丁度、この魔法も試したかったし、少し時間が進めば文明も発展し、余を楽しませるものができるやもしれん。その日まで眠っているとしよう』
そう言うと、魔法を発動した。
深淵たる空間に一閃の光が煌めき、深淵の魔王は輝かしい光子に包まれ、この世から音沙汰なく、その存在を消した――。
◆ ◆ ◆
〈人魔暦〉――843年
空が赤い雲に覆われた。
それは世界中にも同じ現象が起きており、各国はこれを緊急事態と踏んだ。
異常な程までの忌々しい魔力がルイスター帝国の上空から発せられる。
その異質な魔力は世界を恐怖に陥れた。
不穏な気配。鳥肌が立つような悪寒が世界を包み、
魔物が活性化し、一部の国ではスタンピードが起きた。
これが数時間も続き、人々はこれを"刹那の悪夢"と呼んだ。
その悪夢が神話時代の来訪者を告げる福音だというこを世界は知らない――。
"刹那の悪夢"の只中。
ヘルフォード公爵家が所有する本邸。
そこに、一人の少年が生まれた。
「うぎゃゃ」
赤子が第一声を上げる。
使用人が誕生した赤子を抱いて、母親への方へと託す。
「……あなた。名前何にする?」
齢20歳の黒髪の女性は、自身の隣に立つ夫に目を向ける。
「そうだな。シドはどうだ? 確か、どこかの伝説に語り継がれていた名だったような気がする……」
「いいね。じゃ、今日からシド。あなたの名前はシド・フォン・ヘルフォードよ」
歓喜に包まれた笑顔で、涙を流しながら母親は赤子を抱きしめるのだった。
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