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カイ・カイ・フェル

<我が名はカイ・カイ・フェル。龍人とヒトより生まれし者。我が眷属は何処なり>


は?

 

何スかいきなり。誰スか? 意味わかんねっス。

 

状況についていけない。ナウエルとルーカスを見ると、二人とも口をぽかんと開けている。あ、私も開けてたわ。慌てて口を閉じる。


(……)


<……>


しばし無言で見つめ合う。

黒龍の頬がじわじわと赤らんでいく。もしかして恥ずかしがっている?

顔を真っ赤にした黒龍がモゴモゴと口の中で何やら呪文を唱えると、旋風がその巨体を包み次の瞬間には長身の人物に変わっていた。

長くてまっすぐな白髪に褐色の肌、紅い瞳の青年だ。凹凸の少ない滑らかな輪郭や細筆でスッスと描いたような繊細な目鼻立ちは、アマティスタ王家をはじめとするグラナード王国の人々の顔立ちと似ているかもしれない。だが驚くほど長身であり、しなやかでいて屈強な長身は黒の甲冑で覆われている。

 

しかしそんな外見に似合わず、青年は赤らんだ頬を軽く押さえて頭をふるふると振った。

そしておもむろに顎をツンと上げると、赤らんだ頬のまま居丈高に尋ねてくる。


なんだろう、この龍人。思わず生ぬるい目で眺めてしまうわ。


 <……君ら、言の葉は、分かるや?>


「あー、はい。はい、分かります」


<我が名は、カイ・カイ・フェル>


「はい、カイ・カイ・フェルさん」


<龍人と、ヒトとの間の子なり>


「ほお。珍しいですな」


<我が、眷属は、何処なり>


「は? 眷属っていうのは、えーと手下的なアレですか? 何かの間違いじゃ? そんなのここには居ませんよ」


<飛ぶ者は、我が眷属なり>

 

「待て待て、ヤツのことじゃないか? あの芋虫、繭つくってるだろ。あれは羽化したら飛ぶやつになるんじゃないか」


ナウエルの言葉にハッとする。なるほどー。

この龍人さん、聞きやすく言葉を区切ってくれたりしてけっこう良い人かもしれない。

できればもっと穏やかに登場してくれれば良かったとは思うけど。ま、あの登場の仕方は本人も後悔している様子だけどさ。

そしてヒトとの間の子っていうのが凄く気になるけど、ややこしそうだから置いておく。

あの芋虫は龍人さんにとっては眷属になるのか。確かに繭から羽化して成虫になったら、蛾とか蝶的な何かになりそうだもんね。


とりあえず龍人を繭の場所に案内してみる。さっき半透明だった繭はすっかり白くなっていて、中の様子は窺えない。


<なんと蝶人か。一度滅びし者ども。この者はどこかおかしいが、我が眷属には違いはない>


蝶人。キルケーの過去で見たことを思い出してみる。

かつてメガラニアで造られた彼らは、確かその脆弱さからすぐに滅びてしまった種族だった。

とても美しくて優しい亜人だったけれど、身体的にはとても儚かった。研究者たちはもっと強靭な蝶人を造り直そうしていたはずだ。その過程で試作されたのがあの芋虫だったのかもしれない。

アレを見る限り、美しさとも優しさとも無縁な印象は受けるが、確かに生命力は強そうだ。


龍人さんには芋虫について一応説明しておいたが、それでも眷属として受け入れるそうだ。何しろ龍人は彼が最後の一人で、眷属である飛翔系の亜人も数が減ってしまっているそうなのだ。

人魚が海の魔物を統べているように、空の魔物は龍人をトップとした亜人たちの支配下にある。ここ数百年は空の亜人の減少で、それがままならなくなっているそう。だからこの芋虫は貴重な担い手として保護するつもりらしい。


「待て龍人とやら! その化け物はご主人様に酸を吐き殺そうとしたのだぞ! そのような者をおめおめと生かしておくなど承服できるか!」


ルーカスが龍人に吠える。すごいな下僕。こんな圧倒的な魔力の持ち主に物申せるなんて大物だわ。


「ルーカス、だから私はもう」


<我が眷属の誤ち、どうか許したまえ。代わりに何か願いを叶えよう>


えっほんと? これは願ってもないチャンスかも。下僕、グッジョブ!


「龍人さん、そしたらこの陸地に空の魔物を近づけないようにできますか? ここをヒトの居住区にできたらと思うんです。」


私は王都アマティスタの滅亡と、三万人を超すヒトが路頭に迷っていることをざっと説明した。


<それは難しいぞ。これだけの魔素濃度だ。いくら我でも魔素を求める魔物を押し留めることはできぬ>


「陸地の全てではなく、そうですねー、魔素が薄めの場所をヒト用に確保できればと思うんですが」


<なるほど、それならば不可能ではない>


私たちはメガラニアの浮上した部分(=新メガラニア)をざっと見て周り、人が住めそうな場所を大まかに見積もった。

王都アマティスタと同程度の広さの居住区、そしてその5倍ほどの耕作地等の候補地だ。耕作地といっても永年海水に浸かっていたのだから、作物が育つようになるかはさっぱり分からないが。


<我が手の者どもが近づかぬよう、まずは我が、のちは目覚めた蝶が監督しようぞ>


我が手の者どもっていうのは魔物たちの事だね。これで空の魔物問題は解決だ。あの芋虫もとい蝶人が監督するとか不安しか無いけど、龍人さんが任せろといってくれたので様子見かな。どのみち他の選択肢はない。

海の魔物については、人魚の助力を得て私が監督する事になった。魔の森にヒトが居座ったままでは人魚たちも困るから、協力を得やすかった。

これで新たなヒト居住区の用地確保はめどがついたわけで、大きな前進だね。

 

ヒトを治めるのはアマティスタ王家と貴族たちに引き続き任せよう。

私? 乗り掛かった船なのでいきなり投げ出したりはしないけど、ある程度国のカタチが整ったらあとは誰かに任せるよ。

隔魂術の解き方とかシンマスさんの事に注力したいからね。

 

新しい国ではの名前は、新生メガラニア王国? いや、ヒトと亜人(人魚、龍人、蝶人、その他)による共同統治という事にした方が良いな。だって亜人の助力なしでは成り立たない国なんだし。

それに、グラナード王国の政治は腐敗貴族に大分好きなようにされていたしね。彼らにわざわざ新天地でも美味い汁を吸わせる気はない。私が王宮にいた間に把握していた者たちは、奴隷にでも落とすのが良いと思う。でも全ての汚職を炙り出す時間的人的余裕は()()無い。

だから国の運営にはできれば亜人たちにも大きく関わってもらいたいな。彼らは何せヒトより高次の存在として作り出されたわけだし、おおむね公正で知能も高い。必要なのは適切な教育か?

 

共同統治国という形になるのかな。いずれにしても新しい国名が必要だよね。新生グラナード? 新生メガラニア?まあ名前を考えるのはまだ先か。

何にせよ、世界で初めての亜人とヒトの国の誕生だ。


忙しくなりそうだ。


***


「殿下! いいかげんにしやがれ下さい! 私にこんな事できるわけないでしょう? 亜人との共同統治についての草案? 都市計画? 私は魔術師団長であり、文官ではありません」


「だって人手不足なんだもん。任せられる人がいないんだよ。あんた長年王宮勤めだったでしょ? 人脈とかないの?」


「ハッ。私は蛇蝎の如く嫌われておりましたからな! 人脈? そんなものはありません!」


「胸を張っていう事じゃないと思うよ」


「ご主人様こそ、腐っても王女殿下なんですからツテくらいあるでしょう」


「あるわけないよ。水牢遊びが趣味のサイコパス王女だって遠巻きにされてたんだから」


ルーカスがかわいそうなものを見るような眼差しを向けてくる。お前にだけは言われたくないってば。


「そもそも我々でなんとかしようというのが間違いなんです! 他の王族……ミゲル王子にお任せすれば良いのですよ」


「まだ子どもでしょ? 却下。それにミゲル王子の生母のフェリシアナ妃の父親はあの宰相でしょ? フェリペ王が正気を失いがちだからってやりたい放題だったじゃない。ミゲル王子に任せるってことはまたあの宰相に力を持たせてしまうことになるよ」


「じゃあどうするのです?」


「ええ……もう止める?」


***


危うく頓挫しそうになった(私とルーカスの間で)新生メガラニア国家(仮)樹立だが、王宮医療魔術師のシーロさんや侍従長さんらのツテで、文官のトップだった人物を紹介して貰えたので、無事に?その人に丸投げすることができた。名前はトラーゴ某。確か攻略対象に文官トップの息子がいたはずだ(超優秀長髪メガネ)し大丈夫だろう。なんか会うたびにゲッソリしているけど、うん大丈夫だろう。


私がやるのは、トラーゴさんたち文官を龍人や人魚族の長と繋ぐ役割くらいかな? 文官たちは最初は特に龍人を怖がっていたので、私が同席することでなんとか会合に出席して貰っていたけれど、そのうちに慣れてくれた。グレテルの存在も大きいかな。誰よりもメガラニアに精通し、魔法遺物やその痕跡の危険性を知っている彼女は、国家樹立には欠かせない人材だ。外見は小さな女の子に過ぎない彼女が、得体のしれない亜人や、とてつもなく威圧感のある龍人と一切物怖じせず渡り合っているのを見て、文官たちもだんだんと恐れを捨てたのだろう。


亜人とヒトとの共同統治体制の骨子や、都市計画、居住地の整備やヒトや物資の輸送手段、三万人のヒトの仮住まいや食料の配給、衛生管理などなど、概ね順調にハイペースで進んでいくのを眺める。亜人や龍人の力も上手く借りていてやっぱり超優秀だね。トラーゴ某! 見かけるたびに痩せていくけど。


海の魔物は人魚たちに、空の魔物は龍人に任せているし、正直私は暇になった。これで自らの神精領域に刻まれた【白夜】を消すことと、何よりもシンマスさんのことに注力できる。

私は魔の森のあの小さな家で、眠るシンマスさんと暮らし始めた。




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