表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/104

【白夜】の消滅

昏倒したヘラルド、気絶したフェリペ王、水球に包まれたままのナウエル、レナ、カルフ。

正面玄関には満身創痍の近衛や魔術師、警備隊たち。

おそらく王宮の中にもヒトがまだ沢山いるだろう。一刻も早く森へ避難させなくてはならない。


「ルーカス。玄関にいる魔術師団とか、中にいる侍女たちとか、王宮のヒトをまとめて魔の森に避難させてくれる? 一番近い森は……ああ、ここから見えるあの辺りかな。王都が消えたらそこにいるヒトもどうなるか分からないんだ。急いで頼んだよ」


そう言って私は魔法でフェリペを持ち上げた。ナウエル、レナ、カルフも水球から出して浮かべて運ぶ。

本当ならナウエルたちも魔の森に入れてしまいたいんだけど、聖結界が残っている以上人魚は入れないだろう。

ヒトであるレナは森に入れるだろうって? カルフ至上主義と聞いているので、二人を引き離すのは面倒な予感しかしないよ。

みんな一緒に連れて行くしかない。


「ヴィオレッタ殿下はどうするのですか?」


「私はレオのところに行くよ。彼の魂はもうすぐ消滅してしまうけど、その前にやらなくちゃならないことがあってね」


「王宮のヒトを魔の森に避難させろと仰いますが、あそこは安全と言えますかな? 聖結界の外には魔物溢れていますが、森の中も同じかもしれませんぞ」


あ、確かにそうだな。ぜんぜん考えなかった。聖結界が消えるまで魔物は大丈夫だと思うけれど、消えた後はわからないな。大モモンガくんや大リスくんが助けてくれるかもしれないけれど……どうしよう。


「ルーカス、聖結界が壊れるまでになるべく森の中のヒトを集めて、安全確保することはできる? あんたなら魔物とも戦えるでしょう」


「はあ? 無理言わないでくださいよ。王都の人口は推定三万ですぞ。それにお忘れかもしれませんが、建国祭の最中でしたから他国からの来賓も数百人規模できているわけですよ。それがてんでバラバラに森に逃げているわけで。私に守れるのは王宮の者たちくらいですな。小規模な結界でしたら魔術師団でも張れますから」


あっ、他国の来賓のこと忘れてた。そういえばまだ建国祭の最中だったよ。なんて間が悪いんだろうか。王宮に泊まっているお客さんたちは一緒に連れて行けば良いけど、貴族街にある貴族たちの邸宅とか、ホテルに泊まっている人たちはもう森に逃げているよね。

 

「う……。じゃあせめてグレテルたち! あの子たちをなるべく探して守ってやることはできる?」


「はあ。まあ出来たらやりますよ、なるべく」


ぐっ。心許ない返事だが、三万の王都民+来賓を守れとか、森のどこにいるのか分からないグレテルを探して守れとか無理だよね? ああもう! 私もなるべく急いで向かうよ!


魔物である翼蛇も、森には入れないはずだ。王宮の中に一緒に入ってくれる? みんなを運んでくれると助かるよと頼むと、「シュ!」と返事をしてくれた。


私と翼蛇は急いで水牢に向かった。翼蛇の背中にはフェリペ、ナウエル、レナ、カルフが載っている。

途中ですれ違う使用人たちは、翼蛇をみてギョッとしていたけど、構わずにすぐに正面玄関に向かうように指示をする。

「マダム・シビラも一緒に連れて行って! お願い」と侍女に指示するのも忘れない。

窓から見たら森はすぐそこまで迫っていた。急がなくては!


「ヴィオレッタ」


ナウエルが目を覚まして私を呼んだ。


「ここは王宮か?」


「うんそう。これから水牢に行ってレオの人造魂を作るよ。終わりが迫ってるんだ。ナウエルが起きてくれてよかった。手伝ってくれる?」


「ああ」


翼蛇から飛び降りたナウエルが、私の隣に並ぶ。彼の手のひらには、緋色の魔宝石が光っている。


「それはアマリア姫のね。その様子だと無事に人造魂にできたみたいだね」


ただの魔宝石だった頃とは色合いと輝きが段違いだ。まるで美しい夕焼け空、夕陽色に染まった雲間に輝き始める星々。

これが私の産みの母、アマリア姫の魂のカケラ。


「ああ。肉体は粉になって散ってしまったが、魂のカケラはなんとか移せた。それで……」


何か話したそうだったが水牢に着いてしまった。目で制して中に入る。こうしている間にも結界が消えてしまうかもしれない。そうしたら中にいる私たちがどうなるか、誰も分からないのだ。


「レオ? どこにいるの」


私は躊躇なく濁った水に飛び込んだ。途中で若い男の体にあたる。ああこれはウィルフレドか。まだ生きているようだが用はない。レオはどこだ?


「アマ……リ……ア? そこに……いる、のか」


絞り出すような声に振り向くと、いっそう流木に似てきたレオが浮かんでいた。見開いた紫色の目に僅かな生気が灯る。一心に見つめているのはナウエルが持っている緋色の魔宝石――アマリア姫の人造魂だ。


ナウエルから魔宝石を受け取り、枯れ果てたレオの掌にそっと載せてやる。


「いなくなっ……やっとわかっ……。アマリア、あの子、だっ……た。ウア……ピと、俺……の……子の……うまれ、かわり」


かつてウアピの過去に入って見たことを、私は思い出した。魔の泉で生まれたウアピとレオの赤子。生まれつき脆弱で、すぐに死んでしまうと長に言われていた。

その後すぐキルケーがやってきてレオの【白夜】を発動させ、あの子は行方不明になってしまっていた。そして悍ましいことに、あの赤ん坊の肉体はキルケーの新たな体のための素体とされ、魔の泉の底で千年近く眠っていたのだ。(その肉体に全く別の魂が宿って、今はグレテルとして生活してる)

そうか、あの赤ん坊の魂はアマリア姫に生まれ変わっていたのか。


私はレオにそっと触れた。彼はアマリア姫のカケラを掌に載せたまま震えている。

 

「レオ、あなたが消えてしまう前に、あなたの魂のカケラを人造魂に移すよ。そうすればきっと、遠い遠い未来でアマリア姫と会える。あなたたちの魂は摩耗して消えるのではなくて、霧のようになって散らばっているの。それは永い年月を経てまた再生する。その時に人造魂があれば、きっと再会できる」 


「おお……」


その紫の瞳に希望の光が灯るのを見た私は、ナウエルを振り返って頷いた。すぐにレオの魂のカケラを人造魂に移そう。

でもその前にやることがある。


「レオ、扉を開いて。いつでも私たちが飛び込めるように」


すると、水面が緑に揺れた。覗き込むと魔の森が見える。私は気絶したままのレナとカルフをしっかりと魔法で自分に結びつけた。

これでよし。


私とナウエルは同時にレオの上に手を突き出した。キルケーが編み出した複雑で繊細な術式を注意深く紡ぐ。

彼女(キルケー)が必要とした複雑な魔術装置はいらない。私たちは自分たちだけで魔法という奇跡を行うことができる。

 

我々はかつてメガラニアが産んだ改造人間の末裔だ。魔物とヒトとを掛け合わせて生まれた亜人であり、本性は魔物に近い。

魔物や亜人が他の生き物と決定的に違うのは、魂を持たぬ点だ(ヒトとの間の子である私を除いてだが)。

魂を持たぬが、魔術とは段違いに強力な魔法を操ることが出来、強靭な肉体を持ち、千年以上生きることができる。


不思議に思う。亜人とは、魔物とは何だろう? 何のためにこの世界に生まれるのだろう?

そして一方で、魂の役割とはなんだろう? 不滅で何度も生まれ変わり、宇宙の遠い星々の間さえ行き来する。一体何のために?


私がレオのために用意した魔宝石は水晶のように透明だ。苦しみに溢れた千年、謀られ縛り付けられ、削られ続けたこの千年、最愛の番と子を奪われたこの千年。最後には子の生まれ変わりと一時過ごせたが、その事に気づけぬまま再び亡ってしまった。

それなのに、透明な魔宝石は濁ることも曇ることもなく、薄青に染まっていく。月も星も透けそうな空の色。


そして人造魂は完成し、レオの魂とともに【白夜】は消滅したのだった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ