表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/104

ファイアードレイク 一

王都、燃えてる……。燃え盛ってる。

【白夜】の白金のベールなんて霞んでしまうくらい眩しい。


犯人は巨大な火竜、ファイアードレイクだ。

地響きをたてて歩き、目につく建物を尾を振り回して壊しては、炎を吐き出している。

上級貴族の邸宅が立ち並んでいた一番街は、もはや火に包まれた瓦礫の山だ。

ウアピの話だとコレ、フェリペ王だっていうじゃん? 

はー、王様くらいになると 火竜に変身もできちゃうんだね。すごーいおじいちゃん☆


「って、いいかげんにせんかーい!」


ちょうど私の頭上に落ちてきた、どっかの邸宅の屋根をファイアードレイクにぶっ飛ばす。

ここは番街とだけあって魔素が割と濃い。そのおかげで海の底から帰ってきたばかりで魔素不足気味の私でも、この程度ならできる。


屋根がゴジラの頭にゴッとでかい音をたててぶつかる。ああん? という感じで振り向いたその顔には見覚えのある紫の瞳。間違いない。

 

「ちょっと王様何やってんの!? いくら正気を失ってたって自分の国を燃やしてどうすんの!」


 叫ぶ私に、火竜の太い尻尾が鞭のように振り下ろされる。


「――っく!」


とっさに結界を張ったが、威力に押されて二十メートルほどぶっ飛んだ。


「ヴィオレッタ! こっちだ」


聞き覚えのある声に顔をあげると、崩れた壁の影から見覚えのある少年が手招きしていた。


「エル・クエロ! どうしてこんなことに。街がめちゃめちゃじゃない! 死傷者はどれくらいいるの?」


ダークブロンドの少年は、その青灰色の目を安心させるように細めた。


「大丈夫。軽い怪我人はいるけど、みんな魔の森に逃げているよ。あのファイアードレイク……フェリペ王は取りこぼしがないかああやって探してるのさ」


「とりこぼし?」


「空を見てごらん、もうじき勇者レオの【白夜】が消滅する。そうしたら王都がどうなるか誰もわからない。時空の彼方に消えるかもしれない。だからあの王様(ファイアードレイク)は、そうなる前にヒトを魔の森に逃がしているのだと思うよ」


私は空を見た。燃え盛る炎のせいで分かりにくいが、白金のベールは薄くなっている気がする。ではフェリペ王は錯乱したのではなく、王都民を逃すためにわざとやっているということ?


「こんなバカなやり方って……。王なんだから命令すればいいじゃないの」


「狂った王の言うことなんて誰も信じないよ。それに【白夜】が弱まり始めたのはたった数時間前さ。命令を出したって間に合わないと思ったんだろ。さっきの君への攻撃を見ると、今は何もかも忘れて火竜になりきってしまっているようだけど」


「そんな……」


「僕ら人魚も王都のヒトたちの誘導に協力してるんだよ。ヴィオレッタ、君も取り残されているヒトがいないか探してくれ。スラムのあたりはまだ誰も助けに行けてないんだ。あそこら辺は【白夜】の聖結界ベールに近いから、威力が弱まったとはいえ、僕ら人魚には近づきたくない場所だからね」


スラムか。グレテルたちの家は平民街の端で、むしろスラムに近い場所にあったはずだ。急いで行かなければ。ついでにスラムのあのハナタレの小僧も一応様子を見に行こう。

 

「エル・クエロ、お願いがあるの。ナウエルたちはまだ時計塔に残ってるから、様子を見てきてもらってもいい? アマリア姫とナサレナもいる」


「分かった。では後で魔の泉で会おう。【白夜】が消えれば僕たちも魔の森に入れるはずだからね」


互いに軽く頷いて走り出す。グレテルたちの家には水路を泳いで行った方が早い。躊躇なく水路に飛び込んで泳ぎ始める。


【白夜】の崩壊はもっと遅いと思っていたのに。

ゲームで聖結界が危機に陥るのはもっともっと後のはず。ヴィオレッタが魔法学園を卒業するときだから、あと八年ほど猶予があると思っていた。

聖結界の消滅=レオの魂の消散だ。なぜこんなにも早まってしまったのか。


私は唇を噛んだ。手の中の石を握りしめる。メガラニアで見つけた魔宝石の一つだ。レオに使うつもりだが、間に合うだろうか。

グレテルたちの無事を確かめたら、王宮に向かわなくてはならない。それからフェリペも心配だ。モンスターになるための膨大な魔力の消費は、彼の魂をそれだけ削り取る。


多分この辺が平民街の端で、グレテルたちの家の近くだ。水面を強く蹴って水路から飛び出す。勢い余ってくるくると空中回転し、何か柔らかいものの上に着地した。


「ゲヘッ、……なんだってんだ」


どうやらヒトの背中だったらしい。なんだか見覚えのあるおっさんが、怯えたように私の足下から這い出した。


「ああ、なんだぁ? お前! きゅ、きゅうに後ろから蹴ってきやがって」


歯が一本しかない口で怒鳴ってくる。いや蹴ったんじゃなくて着地したんだけどね。めんごめんご。

周りを見回すとどうやら平民街を抜けて、スラム街まで来てしまっていたようだ。バラックなどは全て焼き払われしまったようで、焦げた地面にボロを纏ったヒトたちが大勢座り込んでいる。


「みんな、またファイアードレイクが来るよ! ここにいちゃいけない。逃げなさい!」


声を張り上げる私に、どんよりとした眼差しが寄せられる。


「どこに逃げろって言うんだ。聖結界の外は魔物のナワバリだろ、見ろ! 出てったやつは食われちまってるぞ」


一本歯のおっさんが指差した方を見ると、無惨な光景が広がっていた。

聖結界の外側ギリギリまで押し寄せてきたスライムたちに、何人ものヒトが捕食され溶かされている。皆ファイアードレイクを恐れて結界の外に逃げ出したヒトたちなのだろう。


「なぜ聖結界のこんなに近くまで魔物たちが……」

 

これまで魔物たちは、聖結界を恐れるあまり近寄ることさえ避けてきた。

これほど沢山の魔物たちが押し寄せて来たのも、レオの【白夜】が弱っているからなのだろうか。


「じゃあ結界の外じゃなくて、まぼろし森に逃げなさい! ほらあそこに入口がある」


平民街の端にゆらめいている幻影じみた森を指さして叫ぶ。


「ふざけるな! あの森には魔物がいて迷い込んだモンを喰っちまうってウワサだろうが! そんなところに入れるかっ」


そう血ばしった目で叫ぶと、一本歯の男は私をジロジロと見てニタァ……と嫌な感じの笑いを浮かべた。


「それよりよぉ、どうせ死ぬならよう、お前さんみたいな金持ちそうなガキをいたぶってからがいいねぇ」


「ちげぇねえ! お前さん貴族だろう? 肌も髪もツヤツヤでよう、いいもん食っていい服着て生きてきたんだろうがよぅ。羨ましいぜぇ。オリたちはよぅ、お前らの腐った食い残しで生きてきたって言うのによぅ」


「待て! そいつの髪色と目の色……、王族じゃないかい? こりゃたまげたねえ! 散々いい思いしたきたガキだよ」


「結界の外にぶん投げてスライムの餌にしちまおうぜ! 俺はそれ見てから死にてぇ!」


男も女も、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを貼り付けてゾロゾロと寄ってくる。


「み……民度が低すぎないか?」


前にも思ったけどひどい場所だな! 世界一富裕な王国の恥部といったところか。いや統治がポンコツだからこうなったんだろうな。そもそも外国人たちが勝手にやってきて作ったスラムだけれど、長年放置してしまったのは国の責任だしね。

上下水道もない、教育もない、不潔で不衛生で危険なこの場所で生まれて地獄を見てきたならこんなものだろうかね。

だとしたらニワカ王族の私にも責任の一端はあると考えてみよう。

うん、ちょうどお腹空いてたしね。魔素が足りないし、この姿になった方が私もラクだし。


「キシャアァアアアア!!!」


「ひいぃっ! なんだコイツッ」


「きゃーー! ばけものっ、ばけものーーっ!!」


はーい☆ みんな私のこと覚えてるかなー?


「やっぱり噂は本当だったんだな! 王女は一つ目の化け物だったんだ!」


「キッシャアァアアアア!!!」


耳をつんざくような奇声。大きく裂けた口にずらりとならんだキバ。

ランランと輝く、紫色のひとつ目。

私は四つん這いになってスラムの住民たちを睨め付けた。おっ、ハナタレ小僧発見! よっしゃ探す手間が省けたじゃないの。


シャカシャカシャカシャカッ。


スラムのヒトたちを追いかける。みんなギャーギャー騒いだり、ガタガタ震えながら逃げる。

そうそう! まぼろし森に逃げ込むんだよ、そうしないと私がお尻を齧っちゃうぞ⭐︎

ハナタレが腰を抜かして座り込んでいるので、仕方なく服を咥えて持ち上げる。


「なっ、なんでだよう! なんで俺ばっかりっ。ヒィぃぃぃ!」

 

まぼろし森の中に放り投げる。私って本当にしんせつだなぁ。


王様、王様。さっきは「こんなバカなやり方」とかdisってごめんね。言っても聞かない相手にはこうするしかないよね!


さて、全員追い込んだところでグレテルたちの様子を見に行こう。もともとこっち(スラム)はついでだったしね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ