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まぼろし森 三

 小屋の周りに集まった不思議などうぶつ達。みんな大モモンガくんと同じように、通常の個体よりも遥かに大きい体をしている。

 大リスや大うさぎくん達は可愛いけど、虫達はちょっと……気持ち悪こわい。ごめんよ、前世から虫は苦手だ。

 

 小屋を出ていった大モモンガくんは「ヅヅィ、ヅヅィ」などと言いながらどうぶつ達と話している様子。

 それから皆を行儀よく縦一列に並ばせた。そして自分は急いでテーブルに戻り、残ったスープを平らげる。


「ヅヅィ!」


 ご馳走様! と言いたげに一声鳴くと、じっと私を見つめながら可愛い手でお椀を差し出した。


「ん? お粗末さまでした。お友達にもスープを飲ませてあげたいの?」


「ヅヅィ!」


 水魔法でお椀を濯いでから、新しいスープを盛り付けてテーブルに置く。すると大モモンガくんに手を引かれて、一番前に並んでいた大リスくんがテーブルについた。


――モフモフとモフモフがおてて繋いでぐっはあ!


「キュッキュッ」


「くっ……どうぞ」


 いただきますって言ったのか! 大リスくんいただきますって言ったのか! 

 

「ヅヅィ?」


「心配しないで。この震えはなんでもないの」


 おかしな震えが止まらないが、怪しまれたくないので耐える一択だ。


 最初はお椀がひとつしかなかったので、ひとりずつ順番に食べてもらっていたが、途中から皆がお椀や古いお鍋を持ってきてくれたのでそこに注ぐ。

 どこから持って来たのかなー? 他にもこんな小屋があるってことか。


 途中でお鍋が空っぽになってしまったけれど、食べ終えたどうぶつ達がどこからか材料を採ってきてくれた。

 イモや硬い人参だけでなく、キャベツのような葉野菜や、カブやキノコ、はては貝や小さな蟹まであったので、追加のスープはかなり豪華になった!

 大モモンガくんが促すので、ところどころで「美味しくなーれ」と魔力を注ぐのも忘れない。特に味が変わるとは思えなかったが、どうぶつ達にとっては重要な手順みたい。私が魔力を注ぐたびに、みんな小躍りして喜ぶんだ。


 やがてとっぷりと日が暮れて、少しだけ欠けた月がのぼる。

 月か……。不思議だなぁ、なんで見えるんだろう? だって魔の森は《白夜》で異空間の中に封印されたんでしょう? 異空間の中に月が昇るわけないよね。そういえば日が暮れる前に夕焼け空も見えた気がする。それからなんか大きな箒星みたいなものも見えたような? スープを配るのに忙しくてスルーしてしまったけれど。

 夜空を探したけれど、《白夜》のベールはカケラも見当たらない。ウアピの過去で見たあの禍々しい光はどこに行ったのだろう?


「すごい星影……」


 しばらく空を見上げていたら、月だけでなく星もたくさん見えてきた。明るい星々の奥に見える暗い星、そのさらに奥にもほのかな星々が、まるで闇を埋め尽くすようにみっしりと光っている。

 こんなに沢山の星を見たのはいつぶりだろう。初めてかもしれない。灯台島の夜はいつも明るかったし、王都を覆う《白夜》がいつも夜空を汚していた。


 ――ああでも、前世では見たことがあったかもしれない。()()()()()()()()には何度か行ったことがあるから。

 放射性物質を多量に含んだ滅びの風が吹き荒れる地表。ムカデ型のドローンとして広大な廃墟を這いずり回りながら、私は遥か天空の星々の光を「感じて」いたかもしれない。(レンズ)は無かったし、背景として処理した情報だったけれど。

 そうだ……前の世界では、ヒトは地下都市に住んでいたのだ。人工の太陽と月が昇り、ニセモノの四季に彩られた閉鎖空間。思い出すだけで息苦しくなる。


 夜風がさあっと髪を乱して、肌を心地よく撫でていく。ここが前世と同じような閉鎖空間とはとても思えない。空は無限に広がり、森の闇にも果てが無いように見える。月も星も本物だ……と感じる。

 異空間内にあるのは魔の森ではなく、王都や耕作地などの方ではないのだろうか。建国史では《白夜》は聖結界であると習ったけれども、むしろ異空間魔法の要素の方が強いのではないか。ウアピの過去に入り込んだ私は、光のベールが魔の森を覆いつくし、瞬く間に結界内に街が築かれるのを見た。

 光のベールは王都がある異空間の入口で、触れるとそこに転送される仕組みってことかな(魔物や亜人は死んでしまうオマケ付き)

 なので、(私を除く)何人たりとも魔の森に外側から入り込むことはできなかった。けれど魔の森の内側から外に出ることは可能なのかな?


「ブッブツブツ……」


 物思いに耽っていたら、耳元でなにやら妙な音がした。ん? なんだ?


「ギッ」


 眼前に迫っていたのは大カマキリの顔。思わず出したことのない声が出る。ちかいっつの! やめてよー。思わず火球が背中からぽぽぽって出ちゃうじゃん。


「キュッキュッ」


 大リスくんが間に入ってきてくれたので、ひとまず落ち着いて火球を消す。ふう、危なかった。


「ご、ごめんね。ちょっとぼうっとしてたから驚いちゃって」


 謝りながらさっさとスープをよそって手渡す。うう……カマキリのカマ怖い。でも怖がっている素振りを見せたら申し訳ないので、無理矢理笑顔を作る。

 外見で対応を変えられるのはつらいものだ。大カマキリくんも大バッタくんも、ちゃんと列に並んで大人しく待っていてくれたのだ。理性あるどうぶつ達だ。

 怯んでしまうのは仕方ないにしても、それを表に出すべきではない。やられて嫌だった事はやらない主義。

 その後も私はスープ配りに奮闘し、ようやく全員食べ終わった頃には月が高く昇っていた。


「もうクタクタ……でも楽しかったな」


「ヅヅィ!」「キュッキュッ」


 思わず、小屋の前の草原にゴロンと寝転がってしまう。そんな私の横で、大モモンガくんと大リスくんが同じように寝転んで、相槌をうってくれるのが嬉しい、かわいい。

 他のどうぶつ達は皆どこかに行ってしまったようだけど。みんなお腹いっぱいになったから寝に行ったのかな?

 暑くも寒くもないし風は気持ちいいし、私もこのまま寝てしまおうかな、とうつらうつらしていたら、遠くからざわめきが聴こえてきた。だが眠すぎるので放っておこう。


「はっ離せ! この下賤の蟲どもめ。があっ傷口に触るなあっ」


 うるさい。だが眠いので放っておく。


「おろせー! 私を喰う気だな化け物め! はははっ塵芥に帰すがよい。我が火球をくらえっ、ぐうっ! もう魔力切れだ!」


「ルーカスうるさいっ!」


 眠すぎて半眼のまま怒鳴る私の前に現れたのは、なんとカマキリ君とバッタ君に担がれた下僕だった! だが眠いので(以下略。

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