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王女の間 一

 私が案内されたのは、正殿の一室ではなく、少し離れた場所にある離宮だった。

 王の居室は正殿の一階部分。王子とその生母のフェリシアナ妃は後宮住まいなのだが、私の部屋だけは離宮に用意されていた。確かゲームでは王子とフェリシアナ妃も正殿で、ヴィオレッタ王女だけ離宮で暮らしていたな。

 あからさまな待遇の差だけれど、離れている方が気楽で良いから助かる。

 

「こちらがヴィオレッタ殿下のお部屋がある真珠宮でございます」


 そうそう、真珠宮だった! ゲームの通りというか、やっぱり実物を直接見るとすごく……素敵だ。

 玉ねぎ型のドーム屋根が可愛らしい、真珠色と水色が基調の絵本に出てきそうな外観だ。

 前世の私は研究所のベッドの上で、専用の庭園に囲まれたこの瀟洒な離宮に強烈に憧れたんだっけ。

 本当なら踊り狂うくらい嬉しいと思うんだけど、今はそれどころじゃないんだなー。だってママが心配だ。

 侍従長さんは上機嫌で離宮の歴史なんかを話してくれたけど、全然頭に入らないよ。


 うんでもさすが王女の部屋。部屋って言ってもベッドルームだけとかじゃないぞ。

 まずエントランスの間というのがあって、扉が五つあるのだ。応接室、居間、寝室、浴室、衣裳部屋に分かれていて、部屋同士は内側の扉から行き来できるという。

 長らく行方不明の王女だったけれど、部屋はすぐに使えるように整えられてきたみたい。なんでだろう? 王様は私を海に投げ捨てたのにね。それに王女の存在自体公にはされてこなかったのに(市井には知れ渡っていたけれど)、首を傾げてしまう。

 

 まーやっぱり、どんな出自であってもこの国にとっては王族は貴重だってことなんだろうな。

 『白夜』がないとヒトが暮らせない魔物の領域だもん。特にアマティスタの結界はほころび始めているらしいから、不安で堪らなかったのかもしれない。

 結界がこれ以上綻びたり最悪消えてしまったら魔物たちが押し寄せてくるもんね。ミゲル王子がいるとはいえ、色彩の薄い彼の『白夜』じゃあ心許ないから……だから私の帰還はものすごく待ち望まれていたんだろうなぁ。

 偽物がたくさん来たせいで、王宮の人たちはすっかり疑心暗鬼にはなっちゃってたけどね。


 衣装部屋もすごかった。私の年齢に合わせたドレスや宝飾品までたっぷり用意してあるのだ。

 ものすごく豪華で目が眩みそうなんだけどさーデザインがね? こんなアホみたいな服やアクセサリーなんか身に着けられるかいっ、て言いたくなる品物たちなんですけどね。ハァ。

 この衣装部屋をマダム・シビラに見せたら大変なことになりそうだ。いや、衣装部屋だけじゃなくて、居間も寝室も応接室も、浴室すら見せるわけにはいかない。

 私はそそくさと彼女を手近な箱にしまった。ビロウド張りの箱なので居心地は悪くなかろう。

 なんでこんなにケバケバしくて冗談みたいなインテリアで覆い尽くされているのだ! 王女の部屋だけじゃないぞ。離宮の内部全てがおかしい。

 

 無事なのは離宮の外観と庭園だけ。

 正殿のインテリアは無事なように見えた。服飾は狂ってたけど。

 魔術師団の制服も近衛師団の制服も侍従も小姓も、みんな酷い服を着ているんだよ。ダサいなんて言葉じゃ言い表せない、アホみたいな冗談みたいなデザインなんだよなー。ほら、そこにいる侍女たちのお仕着せも本当に酷い。どんなのかって? カオ○シみたいなデザインだよ。

 かつて国民的アニメだったいう湯屋が舞台のアレに出てくるやつ。


「この者たちが殿下の身の回りのお世話をいたします」


 三人の侍女さんが目を伏せたまま跪礼をする。三人という数が、王女の侍女として少ないのか多いのかわからないけれど、みんな王宮勤めらしく洗練されていてキレイ……な筈なんだけど、例によって制服で台無しになっているぞ。


「よろしければお声をかけてくださいませ」


 侍従長さんがにこやかに言う。そうだった庶民暮らしというか、孤島暮らしをしていた私には縁がない話だったけれど、確か王族や貴族の世界では目下の者から挨拶してはいけないのだったっけ。フリオくんやシーロさんとの初見は、身分不確定だったからグダグダだったけれど。

 ええと……なんて言えばいいのかな。とりあえず王宮を出ていくまでこの人達にお世話になるんだから、良い印象は与えておいた方が良いよね?

 忘れていたけど着けたまんまの仮面も取った方がいいかな。いくら真贋確認が済んだ後とはいえ、顔を隠しているのは怪しいし。


「これからよろしくお願いしますね。それぞれ名前を教えてくださる?」


 仮面を取ってからにっこり微笑んでそう言うと、侍女さんたちは目を見開いて固まっている。

 え、何? 何かいけない事言った? と侍従長さんを振り返ると彼も一瞬固まったけれども、すぐに鉄壁の侍従長スマイルに戻った。


 んん? もしかして魚龍になってる?! 慌てて顔を触ったけど大丈夫だったのでほっとする。そうだよね……もし魚龍になってたら、固まるどころじゃなくて大騒ぎになるし。


「だから仮面は取るなと……。刺激物なんですから」


 ルーカスが失礼な事を言いながら、ひょいと私に仮面を付け直した。刺激物ってなんだ。確かにヴィオレッタ王女の美貌は刺激的(悩殺系)だったと思うけど、私はまだ子どもだよ。

 刺激物っていうのは魚龍の貌を言うんだよ。アレは本人である私ですらビックリして心臓止まりそうになる。


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