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灯台守の娘 二

 そう、私の名前はヴィオレッタだ。

 そして黒髪紫眼という色彩も血濡れのヴィオレッタと同じだ。

 顔立ちは? いくら幼くても面影があるから分かるんじゃ……でも私自分の顔見たことないや!


 鏡見たことないのかって? ないよ! ママはちっちゃい手鏡持ってるけど、私は絶対見ちゃダメって言ってた。

 なぜなら、子どもが鏡を見ると、中からお化けが出てきて食べられちゃうからって。

 はい、今なら分かるけどウソですねーこれ。

 どういう理由か分からないけど、王女疑惑を解くためにも、自分の顔くらい見ておかないとね。

 

 あれ? でもなんか引っかかるなぁ。黒髪紫眼って確かゲーム設定では王族だけの色彩じゃなかったっけ。


 いやいやいや! そもそも王女サマがこんなド田舎の離れ小島の、貧乏な灯台守りのムスメなわけない! 

 きっとモブだよ。ぜったいそうだよ。モブどころか、物語にまったく関係ないただの平民だと思う。

「永遠を君に」は貴族たちが通う学園が舞台のゲームだから、一般庶民の私には縁がないはず。

 ヒロインのセシリアみたいに、魔力が高ければ平民でも入学できたりするんだけど、私ってば平民でも珍しい魔力なしだし(泣)。


「ふぅーーっ、良かったあぁ。貧乏灯台守の娘で」


「悪かったわね、貧乏灯台守で」


「ひっ、……ママ、聞いてたの?」


 ドスの効いた声に振り返ると、ママがいた。

 いつも通りひらひらの乙女チックなサマードレスを着ている。190センチあるゴツイ体、襟元からのぞく厚い胸板に大粒のアメジストが眩しい。ゆるくウェーブのかかったダークブラウンの髪。大き目の口は拗ねた感じに尖らせているけど、こげ茶の目は優しい。


「えへへぇ、冗談だよ」


 笑って誤魔化す

 ママは、海の荒くれ男たちから守護「鬼神」って呼ばれて、とっても恐れられている。

 かなり強い魔物のハズのヒッポやイルカくんも、ママがくると逃げる。あ、イルカくんって言っても前世とは違って、こっちでは船を襲う恐ろしい体長十五メートルとかある魔物だよ。なぜか私とは仲良くしてくれるけど、元海軍のママとは敵同士みたい。

 今も、ママの攻撃が届かないくらい遠くの波間で「ゴシュェェェ!」とか吠えてイキってるし、牙をむき出しにして口をガブガブしたりしてアピールしてるわ。

 でもママが「シッ」って睨みつけるとガクブルして隠れちゃうんだよね……てかどんだけ強いのママ?


 けれど、私と二人きりのときは可愛いもの大好きな、優しいママなんだよね。


 ……と思っていたんだけど。なんか、ものすごく違和感が。

 今までそういうものだって思ってたけど、前世の記憶? が戻ってみるとこれは……。


「えっと、ママってパパなの?」


「……へ?」


「ごめんなんでもない」


 ああーーっ、何聞いてるんだ私! ママ、ピシッて固まってるじゃんか……バカバカ私のバカ!

 でも聞かずにいられなかったんだよ~。だって、物心ついたころからママとして受けれていたから~!

 この離島、他に誰もいないし。たまーにお客さんとか、遭難した船乗りとかが来ることはあったけど、私は隠れなきゃいけなかったし!

 ママ以外の人と接したことが無かったから、疑問すら抱いてなかったけど、前世の記憶が戻った今見るとどう見てもゴツいおっさ……ゴホゴホ。

 やめよう。

 ママはママだ。きれいで強くて優しくておしゃれな、世界一のお母さんってことに変わりわないのだから。


「マ……ママっ、お家帰ろう? お腹すいたぁ」


 にこにこと笑顔を作って笑いかける。


「へ……? ええ、うん。帰りましょう。ちょうどお昼ご飯ができたから呼びに来たのよっ。うふふっ、ヴィオレッタったらお腹が空いたぁって顔しててカワイイわ」


 そう言ってママは私の手を取って歩き出す。聞き間違いよね? きっとそうよね? ってちっちゃく呟いてるのは、聞こえないフリをします。

 ママが怪訝そうに私の顔をチラ見しているのも、気がつかないフリをします。


「ね、ヴィオレッタ。何かあった? いつもとこう⋯⋯感じが違うというか」


 そのとき、視界の端に何かがキラっと光った。


 え……あれは……。


「いやだ! あの石なんであんなところに浮いてるのよ!」


 ママが顔を青くして叫んだ。

 さっきまで私の掌にあったはずの青い宝石が、三メートルほどの高さに浮いている。


「あの石、海に捨てても、土に埋めても、いつの間にかあなたの側に戻るの……赤ちゃんの時からよ! この間、無人島に捨ててきたのに」


 捨てても戻ってくるとかホラーな宝石だな。

 ママも本当に驚いているみたい。胸元のアメジストをぎゅと握るのは彼女?がショックを受けたり動揺したときのクセだ。


「くるくる回りだしたわ……なんなのかしら?」


「今度は光りだしたよ~、ひえー眩しい」


くるくる回りだした宝石から、白金の光が溢れだす。


「何よこれ……まるで『白夜』じゃない」


 あっけにとられたようにママが呟く。

 

「いやだ! ヴィオレッタ? どうしたの!」


 ママの叫び声が遠くに聞こえる。急に身体の力が抜けて、ぐんぐんと宙に浮かぶ宝石に吸い込まれていく感じがした。

 次の瞬間、ぐらりと傾いて倒れる少女とそれを抱きとめるママの姿が見えた。

 ふわりと宙に浮きあがった私は、状況が呑み込めずぼんやりとそれをを眺める。


 華奢な少女だった。儚く可憐な肢体に小麦色に日焼けした輝く肌、波打つ黒髪が顔を隠している。 


 ああ綺麗な子だな。我が身に起きた異常事態そっちのけで、私はその子に惹きつけられた。

 髪に隠れた顔もきっと美しいと想像してしまう。

 ひょっとして、いやひょっとしなくてもあの子は……私なんじゃないだろうか。


 幽体離脱? いや、前世でドローンへ私の意識を転送する実験があったけど、その時の感じによく似ている。

 その時は、ベッドに横たわる異形の少女(私だ)の周りをドローンで飛び回ったっけ。

 

『あれが私……? ママは鏡を見せてくれなかったけど「将来美人になる」って言ってたし、顔も絶対かわしぇええええええ!!』


 ママにお姫様抱っこされて上向いた顔を見て、私は声なき絶叫を上げた。


 ひっひとつ目! 顔の真ん中にでっかい紫の目がひとつだけ! しかもかっと見開いてる。KOEEEEE!

 口でかっ! 歯っていうか牙がジグザグしてる……サメだわーサメの口だわー。

 鼻は細い鼻腔が顔面に開いてるだけ。


 ……いやこれ、この世界の魚龍そっくりです。

 人外ですね。本当にありがとうございました。


 異世界転生って美少女になるものだと思ってました。

 血濡れのヴィオレッタである可能性も、実は少しだけ考えていました。最凶王女だろうとあの美貌は憧れる。

 私としてはモブのおブスちゃんだったとしても全然OKだったんですよ。ホムンクルスだった前世に比べれば文句なんてない。

 ……でもこれは、さすがにこれは……。

 見覚えがあるんだよねーこの顔。スチルに描かれていたから。

 とはいっても隅っこに小さく描かれていただけだから、ゲームのファンの掲示板で騒ぎになっていなかったら気が付かなかったレベル。単なる作画ミスなのか、裏設定なのかファンの間でも議論になっていたなー。

 まさか事の真相が転生先で分かるなんてね。しかも自分のカラダで。

 泣いても良いですか?

 あ……気が遠くなってきた。ははは積極的に気絶したい気分だぁ……。

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