王女の帰還 一
ヘラルド師団長は礼をとってくれたけど、その琥珀の瞳は冷たい。
あからさまな警戒心は引っ込めたものの、疑惑の浮かんだ硬い表情だ。まあ無理もないかな。
黒髪紫眼は王家特有の色だけど、髪を黒く染めることはできるし瞳の色だって魔術で変えられる。
王家以外の者がその色彩にすることは固く禁じられていて、破ると死罪なんだけどね。それでも王家の血筋と偽って王宮に入り込もうとする者は後を絶たないらしい。特に行方不明のヴィオレッタ王女を騙る者はとても多いって聞いたことがある。
とは言っても、そうした偽装は魔術で簡単に見破られてしまうそうなんだけどね。
私が新聞などで知っている限りでは、これまでに五、六人の少女が王女を騙ったかどで処刑されていたな。幼い彼女たちは誰かに唆されたのか、それとも本当に自分は王女なのだと思い込んでいたのか……。他国の間諜だったという話もあるけど。
そんなわけで、後ほど部屋に向かわせると言っていた鑑定魔術師は、間違いなく私の黒髪紫眼の真偽を確かめる為に呼ばれるのだろう。
王女として処遇されるのは真贋が終わった後ということになりそうだ。
早くママを探したいけれど、鑑定が終わるまでは身動きが取れなさそうだな。
「ありがとう。ところでこの子のこともお願いできる? 厩舎とご飯を用意してあげて。きっとお腹が空いているわ」
そう言いながら翼蛇の鼻面を撫でる。
「う! あ……、承りました。おい、そこのお前」
団長さんは若干動揺しながらも、若手っぽい兵士さんを翼蛇の世話に指名する。兵士さんの方は明らかにビビっているけど、翼蛇は聞き分けよく兵士さんについて行った。
美味しいご飯をたっぷり食べてゆっくり休むんだよー。後で見に行くからね。
「大切な友人なの。丁重にお願いね」
ゲームの中のヴィオレッタ王女を真似してゆったりと微笑んで見せると、兵士さんは電撃を受けたみたいにワナワナしながら一礼した。周囲からも何故かどよめきがあがる。
「田舎者の猿芝居か。素の殿下よりはマシだが。田舎くささが滲み出してきてるから、もう一度マスクを着けてください」
けっ、という表情の下僕が吐き捨てる。なんなの? なんでコイツいちいち煩いの。
一応マスクは着けるけどさあ。だってさっきからみんなの視線が痛いんだよね。流石に直接凝視されるような無礼はないけど、チラチラ見られるから居心地が悪い。
「ルーカスさあ、性格悪すぎるって言われない? 部下からも人望ないみたいだしさぁ。そんなんで生きてて楽しいわけ?」
「はっ! 生きていて楽しいかですと? どっかの誰かが生まれたせいで一族処刑、私は去勢され婚約解消、誰かさんは行方不明になったものの王宮からは解放されず、優秀だからって魔術師団長とやらを押し付けられ日夜激務、周囲からは出自のせいで蔑まれておりますが?」
「あ……うん。聞いて悪かったよ。でも私のせいじゃなくない? 私の両親と、それを見逃しちゃったアンタのお兄ちゃんのせいでしょ? あと処刑とか拷問とかを指示したのって王様? だったら王様に恨みぶつければ?」
かなり雑かつ不敬な意見をズバリと言い放ってみる。我ながら痛烈と思うけど事実だし。だいたいコイツには一度燃やされてるし。
激昂されるかな?と思ったけど、ルーカスは意外にも淡々と言葉を返してきた。
「理性ではわかっていますが感情が許しません。王のことは狙っていますが近寄れないので、今のところぶつける相手は殿下しかいませんし。でも忌々しい支配魔法とやらで、殿下を害することは不可能。ですから口撃するしかないのですが?」
あーうん分かったよ。気持ちの持って行き場がないわけね、ってちょっと待て! 王様狙ってるんかい! どうなってるんだこの王宮。おーい衛兵さん、ここに王を狙っているテロリストがいますよ〜! こんな危険分子がなんで魔術師団長やってるんだ……。
しかし随分と正直だな。八つ当たりって自覚してるじゃん。
私としては、これからママを探すに当たってもコイツの協力は必要だと思うので、なるべく穏便な関係を結びたいんだよね。命令で従えることはできるんけど、あんまりそういうの好きじゃないし。
なので、私から下僕に一つ提案してみることにした。
「あのさあルーカス、ちょん切られた件なら私の血で再生できないか試してみない?」
「!」
「お部屋のじゅんびがととのいましたので、ごあんない申し上げます」
団長たちに背を向けてひそひそやっていたところに、後ろから声がかかった。
王宮の侍従さんかな? 茶色っぽい金髪にこぼれ落ちそうに大きな青い瞳の、まだ年若い少年だ。
これまた酷い衣装――これでもか!とフリルとレースとリボンが縫い付けられたフリフリすぎて着ぐるみみたいになったブラウス――に封殺されそうになっているが、女の子のような甘い美貌の持ち主だ。
あれ? この子見覚えがあるかも。まだ幼くてあどけない感じだけど、確か攻略対象じゃない? ええと、一見するとワンコ系の可愛いキャラなんだけど実は腹黒っていう、早熟な天才剣士の……。
「フリオ!」




