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到着

 空から見た王宮は、蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。

 そりゃあそうだよね。翼蛇に乗った謎の二人組が先触れもなく空飛んでやってくるわけだから、敵襲! と思われても仕方がない。


 王都アマティスタをはじめ、グラナーダ王国の領土は全て聖結界で覆われているけれど、防げるのは魔物(含亜人)だけだからね。

 豊かな資源を奪うために戦を仕掛けてくる国もいるから、国防にはそれなりに気を遣ってお金をかけているらしいよ。特に王族が住まう王都や王宮は、王都警備隊や、近衛師団、魔術師団なんかが厳重に守っている。

 まあ戦なんて稀なんだけどね。なんせグラナーダ王国は、ヒトの居留地域から遠く離れた魔の大陸を、聖結界で無理矢理拓いた国だから。一番近い国でも船で一ヶ月はかかる場所にある。しかも魔の大陸近海は魚龍などの魔物だらけ。空からドラゴンに襲われることもある。戦をしようにも、この国にたどり着く前に全滅かよくて満身創痍になる。

 あ、商船はグラナーダ王国から付与される結界に護れられるから、難破さえしなければOKなんだって。

 

 刺激しないように翼蛇にゆっくりと降りるように頼む。

 王宮を警備しているっぽい軍服の人たち――たしか第二近衛師団――と、魔術師っぽい黒いローブの人たちがワラワラと正門付近に集まってきている。

 兵士たちは団長の元で剣を構えて陣形をとり、魔術師たちはそれぞれ魔術構築を始めている。


「これ、このまま降りて大丈夫なやつ?」


「まあ多分。ご主人様は燃え尽きても生き返るんだし、気にしなくていいんじゃないですかね。あ、私は防御魔術張りますよ」


「は? ふざけないでよ。私のことも護れ」


「はー、仕方ないですねぇ。まあ第二近衛師団長のヘラルドは冷静な男なので大丈夫でしょう。少なくとも、こちらの正体も確かめず攻撃してくることはないと思います」


「同じ団長でもあんたとは違うんだね」


 そんな軽口を叩きながらふわりと正門前に降り立つ。

 ルーカスに手を貸させてなるべく優雅に見えるように翼蛇から下りた。


 ヘラルド団長と思しき人が前に進み出る。灰茶の短髪に琥珀色の瞳、褐色の肌の鍛えあげた体が眩しい美丈夫……と言いたいところだけど衣装が酷すぎた。

 なんて言うか、ルーカスと同じ趣向っていうか……ケバケバしい緑のジャケットにはでっかい髑髏が刺繍してあって、ブルドックがしてるようなトゲトゲのついた首輪をしてる。いいのか? 近衛師団の制服がそれって……なんか言葉を失うほど酷いぞ?


「ねえ下僕、軍部の制服って誰が考えてるの? 魔術師団も同じデザイナー使ってる?」


「しぃ! その呼び方は王宮内では奇妙ですよ。他の呼び方にしてください。あと私がご主人様と呼ぶのも変です。いくら田舎者でもわかるでしょう?」


「はいはい。じゃあアンタのことは名前で呼ぶよ。私のことはヴィオレッタ殿下とでも呼んで」


 まあ確かに下僕とご主人様じゃあ変な目で見られるよね。それにしてもデザイナーが気になる。


 悪趣味すぎる制服を着たヘラルド団長の背後には、剣を構えた近衛兵たちと黒いローブを纏った魔術師団が立っている。それぞれ手に高度魔術を展開している彼らは、ルーカスよりやや地味ながらやはり厨二趣味の痛衣装だ。

 私は万が一でも悪趣味な衣装がマダム・シビラの目に入らないよう、人形の顔を胸にくっつけてギュッと抱いた。

 これ見たら発狂するんじゃない? だって王様に処刑される以前は、彼女が全ての制服を手がけていたって聞いたよ。耐えられないでしょーよ。

 フェリペ王って狂ってる上に服のセンス最悪ってわけ? マダム処刑して次に据えたデザイナーがこれとか正気じゃないわ。


 あ、服装の心配してる場合じゃないか。みんな警戒心も顕に臨戦態勢に入っちゃってる。

 そりゃそうだ。やたら豪奢な衣装を纏った仮面の男と少女という謎の二人組が、翼蛇で乗りつけたのだから。ちなみに翼蛇は激レア生物で、ルーカスの話では神獣扱いってことだけど。


 ヘラルドが誰何しようと口を開く前に、私たちはさっさと仮面とマントを外した。だって話をするよりも姿を見せた方が早い。

 

「おっ、お前はルーカス! 灯台島で王族を襲った挙句、魔物に殺されたと聞いたが? それにそちらのお方は……その髪色と、瞳の色……。まさか、まさか貴方様は……!!」


「そうだ。この方こそヴィオレッタ王女殿下だ。私が王族を襲っただと? とんでもない誤解だ。魔物に襲われかけた殿下をお助けして、ここまでお連れしたのだぞ」


 ルーカスがふんぞり返ってそう言い放つと、魔術師たちがざわざわしはじめた。


「いや、確かにルーカス団長は『火焔魔術で焼いてやる』と言っていました」


「はははっ! 痴れ者が! 『魔物を焼いてやる』と言ったのだ」


「おかしいです! 俺は確かに見たんです! 海に落とされて浮かんでたら、でかい魚龍が洞窟に突っ込んで消えたんです! 後から洞窟に戻ってったら団長も王族の方もいなくて、シンマスっていう男が1人倒れていて。その男が言うには、お姫様が団長に燃やされて、団長は魚龍に呑み込まれたって……」


 下僕……背後から部下に撃たれまくっている。人望ゼロなんだな。なかなかいたたまれないぞ?


「燃やしてなどおらぬぞ。私は殿下と共に魚龍に呑み込まれたのだ。そして内部から魚龍を破壊して殿下をお助けした。そのシンマスという男はショックのあまり錯乱しているのではないか? ここにおわすヴィオレッタ殿下のお姿が何よりの証拠」


 流れるように嘘を吐く下僕にちょっと感心する。

 どうでもいいけど、ママは無事なの? それが先だよ。

 口を開こうとする私をルーカスが目線で制する。


「殿下はお疲れだ。この場で問答してこれ以上ご負担をかけるなどもってのほか。急ぎ王宮内にお通ししてお寛ぎ頂かなければならぬのでは?」


「……了解した。副団長、至急侍従長に報告し部屋を用意しろ。それから鑑定魔術が使える者を至急呼び出せ」


 ヘラルド師団長は部下たちに指示を飛ばすと、膝を折って略式の礼を取った。


「急ぎお部屋をご用意させますので、しばしお待ちくださいませ」

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