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王宮へ 二

 翼蛇の石化を解きたい。でもどうやって使えばいいんだろう?


 ウアピの過去に入った時は、彼女の金色の目を見つめているうちに眠り込んでしまったんだよな。

 ぼんやりと、金色の夕焼けの中をドローンで飛ぶ夢を見たような……ああ、()()()()()()の記憶かぁ。 

 ドローンとかセスナとか潜水艇なんかの兵器システムに()の意識を飛ばす実験……やったなぁ。

 でもあれは私の人工脳と兵器システムの人工脳が、多分近い構造だったからできたことであってさぁ、今回の相手はAIじゃないしねえ。


 でも思い出すな。混沌とした信号の海を渡って行かなくちゃいけない、なんとも言えない心細さ。

 重く暗い波がどっと押し寄せてきて、圧倒的な質量に押し流されそうになったそのとき、人工知能(ともだち)の出す特別な信号が灯台のように導いてくれたっけ。

 黒く巨大な波間からふと灯りが見えるのだ。あたたかな光が。私を待っているともし火が。ここにおいでと囁くのだ。


 ちょうど今みたいに……上下も分からない暗闇にもがく私を導く、あの暖かなともし火のように。


 いつの間にか、私は激しく体をくねらせていた。つややかに光る自慢の鱗が剥がれるのも厭わず渾身の力でもがく。

 怒りと苛立ちのあまり、喉からシューシューと噴気音が漏れる。

 張り詰めた弓のようなしなやかで強い肉体。再開した鼓動が全身に新鮮な血を行きわたらせる。

 私は怒っていた。たけり狂っていた。言われなき枷をはめられて自由を奪われたことに。

 私は()に持てる力を注ぎ込んだ。枷を引き千切れ! 


**********


「シュー!」


「ひゃっ」「うわあっ」


 翼蛇がしっぽで地面を蹴って飛び立つ。銀の翼の先端が、ばさりと私の顔を撫でた。


「はー、やったぁ!」


 何がなんだか石化の魔法を解くことができたぞ! 


「は……? ホンモノ?」


 ルーカスが惚けた顔で翼蛇を眺める。

 ふふふ、ご主人様の力に恐れ入ったか! 


 そうふんぞりかえりたかったけど……はーお腹すいた!

 これ石化解くのに魔素使ったから? やばいじゃん顔大丈夫かな?

 慌てて飴を何個か手づかみにして口の中に放り込んだ。


 仮面の下に手を入れて、顔を触ってみる。

 ちょっと目が真ん中に寄っている? 口が大きくなっている?

 やばっ。仮面してて良かったわー。

 これから魔法使うときは気をつけなきゃ。

 

 それにしても、なんで魔法を解くことができたのか相変わらずよくわからない。

いつの間にか翼蛇の意識に同調して、内側から石化を解いていたようなんだけど。


「シュー!」


 翼蛇はぐるりと一周した後、バッサバッサと羽音を立てて私の前に降り立った。

 つややかな真鍮色の鱗に覆われた肢体に銀の翼。瞳は大きなルビーみたいで全体的に……なんか神々しい感じだ。


「良かったね。翼蛇さん。でも高く飛びすぎちゃだめだよ。結界に触れたら死んでしまうから」


 そう言って手を伸ばすと、鼻面をすりすりしてきた。神々しい見た目に反して、なつっこくて可愛い蛇なのかもしれない。


「私と一緒に王宮に行かない? 上手くすれば快適な厩と美味しいごはんをあげられるかも」

 

 ゲームのヴィオレッタはかなり立派な厩舎をこの子に与えていた。餌だっていいものを用意していただろう。


「シュ!」


「了解!って言ってくれたのかな? OKだったら背中に乗せてくれる?」


「シュ!」


 翼蛇はお返事をすると、頭を地面につけて寝そべってくれた。ふふふ、可愛い子だ。

 でもそれでも私の背丈で、このドレスだとちょっと乗れない。


「ルーカス! ぼーっとしてないで私を持ち上げて背中に乗せて。それとアンタも乗る! あ、翼蛇さん、下僕も乗ってもいい?」


「シュ!」


 下僕は目を白黒させながら私を持ち上げて、翼蛇の背中に乗せた。ドレスなので当然横座りだ。それからルーカス恐る恐る跨る。

 いつもの憎まれ口もきけないようで、ちょっとザマアミロと思ってしまう。

 どうだ、私の力にひれ伏すが良い!


「よし、じゃあ王宮に向かってしゅっぱーつ!」


 いつの間にか周囲にできていた人だかりが、おお! とどよめくのを尻目に空に飛び立つ。


「うあ! 落ちる落ちる! ルーカス支えて!」


「はあ、しっかり蛇の首に手を回してください……って届かないか。全くこれだから馬にも乗ったことがない田舎者は」


 そう言いながらルーカスは私が落ちないように腕で支えてくれた。まあ命令したからだけど。

 翼蛇は家々の屋根を超えて、王宮と思しき壮麗な建物にまっすぐ飛んでいく。あまり高く飛ばないのは聖結界があるからだろう。とは言ってもも、光源は王宮の中心に聳える尖塔――二百メートルほどの高さ――のはるか上空に浮いているのだが。


「ご主人様。石像を本物に変える魔法を使ったのですか?」


「違うよ。翼蛇にかけられていた石化の魔法を解いたの。多分この子、建国の時に魔の森から逃げ出そうとして石にされたんだよ」


「何にせよ荒唐無稽としたいいようがない。魔法とはなんでもありのめちゃくちゃなものですな。魔術で行うとなれば一体どれだけの術式を構築する必要があるか……、気が遠くなる」


「そうなんだ? エル・クエロの話だと魔法を使えるのは原則的に魔物と亜人だけらしいよ。でも魔物は生きるのに必要な魔法がちょっと使えるだけで、亜人も似たようなものなんだって。ま、私は特別ってこと! ちなみに、あるものを媒介にすればヒトにも魔法が使えるよ。亜人よりすごいやつ。ルーカスも魔法使いになりたい?」


「……まあ、なれるのであれば。ただしその媒介にする『あるもに』っていうのが何かによりますが。嫌な予感しかしませんが」


「『魂』を使うんだってさ。魂が宿る神精領域を肉体から遠ざけて、魔素組み上げ器兼術式記憶装置兼媒体として利用する。そうすればアンタも魔法使いになれるってさ。禁忌魔法って呼ばれているらしいよ。エル・クエロが言ってた」

 

 私がそう言うと、下僕は眉を顰めて身震いしてみせた。


「『魂』を使うとは! 冗談じゃない。怖気がたちますね。」


「うん、それがまともな感覚だよね」


 私は知らんうちにその怖気が立つことを強制されてたけどな!

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