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王宮へ 一

「ねえ、王宮にいく前に寄ってみたいところがあるんだけど」


「はあ? 王宮の門は三時には閉まるんですよ! これからすぐ向かってギリギリ……」

 

 そう言いながら広場の時計を見たルーカスは、眉間に皺を寄せた。


「ギリギリ間に合わないくらいです」


「え、間に合わないの……!? でも、門が閉まってから行ってもいいんじやないの? 事情が事情だけにさ、門番さんとかに伝えれば通してくれるんじゃない?」


「はあ? これだから田舎者は! 十年前にフェリペ王の厳命でそうなったんです。三時以降は何人たりとも出入り禁止。魔術師団総出で城壁に結界かけるんですから」


「なんでそうなったの?」


「知りません! しかし、アマリア王女が亡くなってからそうなったんですよ。推察するに王女がどっかの誰かさんとの逢瀬にこっそり城を抜け出したり、居室に呼び込んだりしたのが原因なんじゃないですか?」


 何じゃそりゃあ。門限かよ。3時って早すぎないか。しかも王女亡くなってるのに今更感。


 軽く絶望だ……。

 間に合わないってなると、王宮が開く明朝までどこかで時間を潰さなきゃなんない。

 でも私もルーカスも無一文だ。宿はおろかカフェで休むこともできない。

 マダム・シビラの家に戻る? いいや、扉のライオンにもう一本指を喰わせるなんてゴメンだ! だからと言ってルーカスにやらせるのも、更なる恨みを買いそうで却下。想像しただけで面倒臭い。

 エル・クエロの小屋に戻るのも無理。だってまぼろし市場の入り口がいつどこに開くのかは予想不可能だから。

 

 じゃあこの広場で一晩過ごすの? スラムと違ってここは平民街。ホームレスなんていない区域だし、そんなことしたら目立って王都警備隊にしょっ引かれちゃうよ。それで警備隊から王宮に、そちらの行方不明の姫様が街をうろついてるのを見つけましたよーとか言われるの。いやだーそんなのカッコ悪い。私はキラキラしく優雅な登場をしたいの! せっかくマダム・シビラが衣装を作ってくれたんだし。

 ……ああ、噴水広場の|翼蛇の彫刻、あれが本物なら乗せてもらうのに。そしたらひとっ飛びで王宮に行けるのにー!!


「ちょっと下僕! 王宮が何時に閉まるとか予め教えておいてよ!」


「そんなの常識ですから! ああ田舎者だから知らないのですか。どうりで悠長に寄り道しようなんて言うわけだ。は! この私の主人が計画性も金もない田舎者とはね」


「ちょっ、田舎者言いすぎ! アンタ大人なんだったらもっと……、あれ? なんだっけアレ?」


 唐突に何か思い出しそうになって、噴水広場の翼蛇の彫刻を指差した。


「あの翼蛇の彫像ですか? あれは建国当時からある相当古いもののはずですがね。はっ! まさかあれに乗って王宮までひとっ飛びとでも言うつもりですか?」


「……うん。そうだよ。アレに乗っていこう」


「は? 何をたわけたことを。田舎者は冗談もつまらないのですか。確かに生きているように素晴らしい彫刻ですがね」


 翼蛇は宙へ乗り出すような姿勢で翼を広げようとしていた。今にも天に向かって駆け上がって行きそうに躍動感に溢れている

 魔の森封印の時に、逃げ遅れた魔物たちの中には石にされたものもいたって聞いた。この蛇もそうじゃないかな。

 それにこの蛇、確かゲームにも出てきたのだ。終盤にさしかかると、魔物に国を売り渡そうとするヴィオレッタの企みで『白夜』が弱体化して、魔物たちが王都に出没するようになる。主人公たちは必死に王都を守ろうと戦うんだけど、ボス級に強い魔物がこの翼蛇で、ステータスが足りないと全滅させられちゃうんだよね。

 ヴィオレッタ王女はこの翼蛇を気に入って、王宮の厩に住まわせてたっけ。今考えると王女自由だな……。隣の馬とかめっちゃ怯えそう。


 私は黙って翼蛇の銅像に近づき、その冷たい腹に触れてみた。

 さて、これが本当に石化させられたら翼蛇なのだとしたら、私に解くことはできるだろうか?

 

「ご主人様? 」


 ルーカスが呆れたような視線を投げてきたけど無視だ。

 どうせコイツは、いつも怒ってるか呆れてるか、馬鹿にしてるかのどれかなんだし。


 魔法の使い方は未だによく分からない。

 『白夜』やルーカスへの支配魔法とか、使おうと思って使ったわけではないし。

 ましてや石化を解くなんて検討もつかない。


 翼蛇の腹に額をコツンとつけて考える。

 

 エル・クエロが言うには、私は前世持ちかつ亜人ハーフで、特殊な魔法を使える可能性があるらしい。

 ウアピの過去に入り込んだのはまさにその力で、人魚たちが使える魔法の範疇を超えたものなんだって。

 なんでも、前世に魂に刻みつけられた体験が魔法として発現するとか。

 

 うーん、でもどうやって使えばいいんだろう?

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