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マダム・シビラ 二

 キリキリキリ……


 人形の瞼がゆっくりと上がった。


 真っ赤なガラスの目が私を捉える。無機質なその瞳の奥に光が灯ったかと思うと、あっという間に爛々と輝きだした。

 形の良い小さな唇にも紅がさし、にいっと両端が持ち上がる。

 品よく整った小鼻が膨らみ、ふんすっと息を吐く。


 おお! 結構強めの反応じゃない? まだ幼くともさすがヴィオレッタの美貌! 伝説のマダム・シビラまで虜にしてしまうのね。

 

「キエエエエエエエエ!!」


「ひぇぇえええっ!」


 人形が奇声を上げた! 思わず叫びながら尻餅をついてしまう。


「ナンテ……アアナンテ……スバラシイ()()()ナノ?! アア、キリキザマナクッチャ、キリキザンデ、キリヒライテ、キリハナス!!」


 そう言う人形の両手から、シャキーンと大きなハサミが飛び出す。


「ちょっ、まっ、待ってー!」


 え? マダム・シビラってこんなヤバいやつだったっけ? 

 え? キリキザムって私を? ソザイって私のこと?

 ゲームではヒロインのセシリアちゃんに、目を輝かせてニコニコしながら普通にドレス作ってたけど。


 シャキーン、シャキーン!


 容赦なくハサミが突き立てられるのを、床に転がってかろうじて避ける。

 その時黒い影がさっと私の上に覆いかぶさった。見上げてみると何と下僕だ。苦み走った顔をしている。


「え? ルーカス!? アンタ私を庇ってくれんの?」


「体が勝手に動いただけだ! ふざけるな、なんでこの私がご主人様の為に身を挺するのだ! クソッ、おいこのガラクタ人形、私のローブから手を離せい!」


 なんだ支配魔法のせいか。下僕が急に忠義に目覚めたのかと感動したのに。

 血の支配には、主人の危機において身を挺して守るっていう効力もあるってことだね


「コノヌノハ パウアシェル! ウシナワレタ ギホウ! アア! スバラシイ」


「え? 布?」


 瞬く間にルーカスのローブに鋏が走る。プチプチプチと音がしたかと思うと、下僕を覆っていた服は一枚の布になってハラリと床に落ちた。


「なななにをするっ」


 下僕が慌てて布を拾い上げようとするのを、マダム・シビラはもの凄い形相で叫んだ。


「ワタシノ パウアシェル 二 サワルナ!」


「はぁ?」


 あまりの勢いに毒気を抜かれた下僕は、一糸纏わぬ姿で間抜けな声をあげた。


「モウヒトツ パウアシェル!」


 ギラリと目を輝かせながら振り返ったマダム・シビラは、再びハサミをジャキーンと取り出した。

 ひーっ、ちょっと待ってぇ?


「はいはいはいはい、脱ぎますから! 自分で脱ぎますから勘弁して! ほら、生地が傷ついたら良くないでしょう? ね?」


 私は慌てて物陰でローブを脱ぐと、ポイっとそれを投げてよこした。


「パウアシェル! コンナ ツマラナイ ローブ ナンカジャナクッテ モット ステキナ オヨウフクニ ナリマショウ?」


 ローブの縫い目をプチプチを切り離しながら、マダム・シビラは満面の笑みを浮かべている。

 えっと、どうすれば良いのかな? 完全に私のことなんて眼中にない感じだよね? ゲームでは絶世の美女って言う設定だったと思うんだけど、それよりも珍しい布の方に反応するのね。なんか自信無くしちゃう……ハハ。


「どうするんです? ご主人様。ドレスを作ってもらうどころか身ぐるみ剥がされたんですが」


「いや……どうしろって」


 マダム・シビラに声をかけようと、恐る恐る物陰から出る。あ、一応その辺に落ちている布キレを体に巻きつけたよ。いくら十歳でも裸でウロウロできないでしょ?、レディーとして。


「下僕、とりあえず君もさっさと何か着たまえ。ちょん切られてアレはないからって堂々と全裸でいるのはどうなわけ?」


「なっなっなっ何を言うんですか! 誰のせいでちょん……切られたと思っているんですか!?」


 顔を真っ赤にしてそう叫んだ下僕の頬を、ハサミがシャキーンと掠めていく。


「ひえっ」


「ウルサイ キガチル。コノ サイコウノヌノヲ ドンナ ドレス二スルカ カンガエチュウ」


 そういってマダム・シビラはしばらくブツブツ言っていたが、やがて膝をつき天を仰ぎながら、涙を流し始めた。


「オオ! ダレニ キセタイ? ダレモ コノヌノ二 タリナイ キコナセナイ」


(ご主人様、あの人形はモデルが欲しいみたいですよ? 声をかけては?)


(嫌だよ。ハサミ投げられたくないもん)


(裸で王宮にいくつもりですか?)


 むむう……。仕方ない。

 ルーカスの背中に隠れて(私を盾にしないでください!と言っていたけど無視)、ひょこっと顔だけ出してマダムに話しかける。


「あの〜、マダム・シビラ。その布で私にドレスを作って貰えませんか?」


 そう言った途端、マダム・シビラからどす黒いオーラがグワっと立ち昇った。え、ヤバいこと言った?

お読みいただきありがとうございます。

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