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平民街

「ご主人様、ここはどうやら平民が住む五番街のようですよ」


 ルーカスの声に目をあけてみる。まだ眩しいけどだんだん目が慣れてきた。


「わぁ……」


 思わず感嘆の声がでる。

 そこには前世ゲームで見たままの街並みが広がっていた。

 まぼろし市場に行く前にも見ているのだけど、水路の中で水中から見ただけだし、人目を避けるのに精一杯で、感動する余裕はなかったのだ。

 改めて見ると本当に素敵!

 パステル調に塗られた色とりどりの壁に三角屋根。

 まるで絵本に出て来るような可愛らしい建物が軒を連ねている。


 ふと気配がして後ろを振り向くと、まぼろし市場の出口が消えていくところだった。

 夜市の喧騒がまるで光に溶けるように消えていく。

 ルーカスが隣でふっと息を吐くのが分かった。

 私も少しほっとする。無事に出られてよかった。迷い込んだまま出られなくなるんじゃないかと、少し心配だったから。

 後から聞いた話だけど、実際にそういう人はいるらしい。物狂いや自暴自棄になった人の中には、まぼろし市場に入り込んで二度と戻らないケースもあるんだとか。

 ふと、薄暗い路地に座り込んでいる痩せこけた影たちは、そんな人たちの成れの果てなのかな……とか思ってしまう。


 周りを見回すと、左右を壁で挟まれた狭い空間にいた。どうやら建物と建物の間の路地に降りたようだ。目立たない場所で助かる。


 行き交う人々の服装もゲームの通りだ。女性の衣装はクリノリンでスカートを膨らませたロマンティックスタイルや、体の線を拾うナチュラルなドレスなど様々だ。男性はクラヴァットにベストや、もっと簡素なシャツとパンツ、作業着っぽい人もいてやはり色々だ。でも……。


「ねえルーカス。アマティスタって世界一裕福な都市なんじゃないの? かなり貧しそうな人たちもいるんだけど」


 平民街にも関わらず、多くの人は清潔でデザイン性のある衣服を着ていた。しかし二割ほどはスラム街ほどではないが、破れたり不潔だったりする貧しげな服装だ。

 街並みなんかは一見小綺麗でこの前のスラムとは雲泥の差なんだけど、よく見ると壊れた窓やひび割れたままの外壁が目立つ、


「そうですか? 平民街などこんなものじゃないですかね。まあ確かにここ十年で王国財政はかなり悪化したらしいですがね」


「ふーん、悪化した原因は?」


「さあ? 興味ないので。でも姫様を亡くして投げやりになった王に強欲貴族がつけ込んだってとこじゃないですか? 」


 興味ないんかい。貴族ってこんなもん? ノブリスなんとかはどうした。まあルーカスじゃしょうがないか。

 気を取り直して辺りを見回す。


 この場所からちょうど広場が見渡せる。ゲームで度々登場したのでよく覚えている場所だ。庶民が住む五番街と富裕な商家などが住む四番街にまたがる場所にあるそこは、確か噴水広場と呼ばれていたはずだ。

 ゲームと違うところは、中央に平民街に飾られるにはいささか見事すぎる翼蛇の像が鎮座していることだ。鎌首を高く持ち上げて翼を広げようとしているそれは、今にも天に向かって駆け上がって行きそうだ。

 ゲーム開始時点ではあんな石像はなかったはずだけどな。ま、それは置いておいて。


 私は素早く記憶をさらった。

 ラッキーなことに、目的の場所は目と鼻の先にある。


「ルーカス、広場に面した黄色い壁の花屋が見えるよね? その脇の路地に入ると、緑の扉の建物があるはずなんだ」


「そこにさっき言っていたドレスがあるんですか? はっ、こんな平民臭い場所にある店で誂えた衣装を王宮に着ていく気ですか? さすが田舎娘ですねぇ」


「いいから早く行くよ、下僕。あんたの憎まれ口ってワンパターンなんだよね」


 田舎娘とか、下賤とか貧乏臭いとかばっかり。まるでヒロインをいじめる性悪な悪役令嬢とかその取り巻きみたいだよ。


 人々の視線を避けるように素早く目的の路地に入る。質は悪くないけど、いかにも異国調のローブをすっぽり被った私たちは、ちょっと浮いてしまっている気がする。ここがスラムじゃなくて良かった……。あそこだったら絶対絡まれてると思う。

 建物に挟まれた狭い路地は庶民が住む五番街らしく、色とりどりの洗濯ものが干してあったり、猫が横切ったり、玄関ドアの前におばあさんたちが座っておしゃべりしていたりする。


「本当にこんなところに服飾店なんてあるんですか? 小石が入ったパンぐらいしか売ってなさそうですけどね」


 下僕の耳障りなおしゃべりを聞き流しつつ、記憶を辿って入り組んだ路地を進む。


「ほらそこの緑の扉だよ」


 鮮やかな緑に塗られたドアには、燻んだ金のドアノブが付いている。

 ゲームの通りだ。ヒロインのセシリアは偶然この建物にたどり着く。お金がなくて学園主催のダンスパーティーに着ていくドレスに悩んでいた彼女は、ここで最高のドレスを手に入れるのだ。

 ダンスパーティーはヒロインやヴィオレッタ王女が十六歳の時に開かれていたので、私の今の年齢(十歳)から考えると六年くらい早いのだけど、まあ問題はないだろう。


「鍵がかかってますよ?」


「ドアノッカーにライオンが彫られているでしょう? そいつにアンタの指の一本でも喰わせてやれば開くよ」

お読みいただきありがとうございます。

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