私は誰? 二
本日二話投稿しております。
「生ける屍になるですって? じゃあ『白夜』を使った私もそうなるのですか?」
「ふむ、十数年で精神の荒廃が始まり記憶喪失になり、そして廃人化するだろうね」
ふむ、じゃねーし!! よく本人を目の前にしてサラッと言えるな。サイコパスかよ。
ピキピキと額に青筋を立てつつ質問というか詰問する。
「さっきクイエンとかいう藤色の人魚が『予定通り『白夜』はあの島で行使したのか』って言っていましたよね!? 私が『白夜』を使ったのはあなたたちの仕業なんですか?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言えるよ」
「は!? なんですかそれー、はっきりしてくださいよ。 『白夜』を発動したせいで変態が来たのに! 私もママも襲われるし、家も燃やされるし大変だったんですよ!!」
「うん……本当にごめんね。あんなことになるとは思わなかったんだ」
そう言いながら少年人魚は、本当に申し訳なさそうにまゆを下げた。
「ひとつ分かって欲しいのは、僕たちは君を守るためにそうしたってことさ……。君を殺そうとするものがいるなんて想定外だったんだ。君は王宮に丁重に迎えられると思っていたよ。だって王族の張る結界がなければヒトは生きていけないのだし、王国にとってかけがえのない存在のはずでしょう?」
変態が私を攻撃したのは想定外だったということか。でも……。
「だとしても! いったいどうして私に『白夜』を使わせたんです? 廃人になると分かっていて」
「それも君を守るためだよ。『白夜』は王族の魂――正確に言うと魂を包んでいる神精領域に刻まれた魔法なんだ。魔素を循環させる能力が十分に育つと、とある条件で発動する仕組みになっているのさ」
「とある条件っていうのは?」
「大量の魔素に近づくこと。もしも君が魂を持ったまま、王都の深部ーー王宮の近くに足を一歩でも踏み入れてしまえば、あっという間に『白夜』が発動して千年続く結界が作られてしまっただろう。その場合君の魂は酷使されつづけ、精神荒廃が始まるまで十数年どころか持って数年。その上摩耗して二度と生まれ変われなくなってしまう。」
ナニソレこわい!
「それを避けるために、魔素を大量に含んだ魔法石を君の産着に入れておいたのさ。純粋なヒトの王族であれば魔素を循環させる能力が開花するのは二十歳前後だけど、君の場合はタイミングが読めなかったからね」
「その魔法石ってあの青い宝石のことですか? ママが何度捨てても戻ってきたっていう」
「そうそう。何があっても君の元に戻るように回帰魔法をかけておいたんだ。近くにいる動物や風や波を利用して、何度でも君の元に還るのさ」
ママ、必死に捨てに行ってたのに無駄な努力だったんだね。泣ける。
「ええと……昨日の昼間、海馬が私にあの魔宝石を持ってきたんですが、それも回帰魔法のせいですか?」
「そうだよ。今回は海馬が魔宝石を運んでくれたんだね」
「そして宝石に含まれた魔素に私の神精領域? とやらに刻まれた術式が反応して『白夜』が発動したと言うこと?」
「その通り。君の魔素循環能力は十歳にして成熟していたんだね。けれど『白夜』はごく小規模なものだったしすぐに消えてしまっただろう? 魔宝石の魔素が尽きたからなんだ」
「えっとそれじゃあ、『白夜』は未完成に終わったっていうことですか?」
「『白夜』はね。ただし魂を隔てる『隔魂術』は無事完了したよ』
「へ? じゃあ私の魂って今どうなって……?」
「うん、君の魂は魔宝石の中にあるよ。今ごろ仲間の人魚たちが確保しているはずさ」
「は? いやいや返してくださいよっ! なんでそんなことを」
魂を握られているとかむっちゃ嫌なんですけど。返せー!
「君を守るためさ。王族である君を王宮はずっと探していたからね。シンマスだけでなく僕らも君を厳重に隠していたけれど、見つかるのは時間の問題だった。もしも君が王宮に連れ去られてしまったら、魔素循環能力が成熟した途端に『白夜』が発動して一巻の終わり。だからいち早く『隔魂術』を発動させて魂を魔宝石に移して、僕らが保管しておく必要があったんだ。そうすれば君が連れ去られても安全だからね」
な、なるほどー?
「だとしても、他人の手に自分の魂があるなんて気持ちが悪いですよ。返してもらえませんか?」
「君は王宮に入ってシンマスを探し出してくるんだろう? 魂は置いていかないと『白夜』が発動してしまうよ」
つまり、普通に魂を宿したまま王宮近くに行くと自動的に『白夜』を発動して廃人コース確定。魂を移した魔宝石を持って行くのもNG。だから魔宝石は人魚に預けて入国する。
わ、悪い話じゃないのかな? いや騙されないぞ、これじゃあ人質ならぬ魂質じゃないか。
人魚たちは私に何をやらせたいわけ? ただの親切心から協力してくれているわけではないだろうし。
そもそも、
私はふたたび目を背けそうになりながらも、踏ん張ってその疑問に焦点を合わせる。
そもそも、私が生まれたこと自体が、人魚たちの画策なんじゃないの?
お読みいただきありがとうございます。
1/9 ミスを修正しました。
文中の王都、アマティスタ→王都の深部、王宮




