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失楽園 四

巨大魚龍ウアピが体験した、千年前の物語。

「××○□@@!?」


 甲高いキンキン声に意識が戻る。

 俺を抱きしめていた少年が、はっと身を硬らせたのが分かった。


 ぼんやりとした頭で、滑らかな少年の肩越しに洞窟の入り口を眺める。そこには怒りの形相をした少女が仁王立ちになっていた。

 肩で切りそろえた亜麻色の髪に、怒りに燃えるオレンジの瞳。ちまちまと整った顔つきを歪める様は、まるで歯を剥き出す小動物だ。


「○○△▲……」


 少年が罰が悪そうな声をだす。

 これが噂の『修羅場』というものだろうか? 幼体期に番を変える人魚は偶にいる。まだ繁殖行為は行えないのでいちゃつく程度だが、もう片方の番がその場に乗り込んで大変なことになるとか。

 争いを好まない人魚とて、時にはビンタくらいする。

 番は生涯寄り添う大切な存在。それに手を出され、取り上げられたとなれば怒るのも当たり前だ。

 ふう。まさかこの俺が『修羅場』の当事者になるとはね。


 俺がこの少女の番を取り上げてしまったというのなら、ビンタくらい受けよう。

 そう思った俺は、ふらりと立ち上がって少女の前に進み出た。


「×××!???」


 少女が驚いた顔をして口元を手で覆う。さっきの少年の仕草と似ていて笑いそうになる。

 ああそうか、ヒトは裸に抵抗があるんだっけ。少年との交情で再び全裸になっていた俺は、おざなりにその辺に脱ぎ捨てられていた少年の上衣を羽織った。だってだるいんだもん。


「@@@***!」


 少女はさらに顔を真っ赤にして怒って、手を振り上げてきた。


『甘んじて受けよう』


 そう言った私を素通りして、少女は少年に走り寄るとそのままビンタした。

 おおう、しかも往復ビンタだ……強い。

 彼女はどうやら、元恋人に怒りが向くタイプらしい。


「アンタ、ナニモノ? コダイゴハナス、ワカル?」


「え? 君言葉が分かるの?」


「エエ。ベンキョシタ。ソレデ、アンタハ ナニナノ?」


「俺はこの辺りに住んでいる者だよ」


「……コノアタリ二 ヒト スンデイルノカ。ソレトモ アジンノ イキノコリ? 」


 少女が独り言のように呟く。アジンって、亜人のことだろうな。

 俺は自分が人魚であることはひとまず隠すことにした。警戒したのだ。

 この少女、見た目は可愛らしいけれど、何か邪な気配がするのだ……。最初は番に裏切られた怒りと思っていたんだけど、それとも違うもっと気味の悪い気配がする。僅かだけれども……隠そうとしてもどうしても滲み出てくる何か。


 こんな気配の相手とよく番になったな。俺は少年をちょっと呆れて見つめた。それともヒトって鈍いのか?


「恋人をとってしまってごめんなさい」


 嫌な気配の相手だが、引け目はあるのできちんと謝っておく。


「コイビト? チガウ! オコッタノハ ナカマ ホオッテ  コンナコトシテルカラ!」


 あ、そりゃあそうだよね。自分の身に起こったことに夢中だったけど、船から飛び降りたヒトは少年と少女以外にも数人いたハズ。

 それを放って知らん女と……なんて怒って当然だよね。


「お仲間はどうしたの? 俺、海馬に助けるように頼んでおいたんだけど」


「カイバ! ナカマ タスケテクレタ アリガトウ。デモ ワタシダケ タスケテ クレナカッタ……」


 釈然としない顔で少女はお礼を言った。

 そっかーヒッポ、この子だけ見捨てようとしたのか。わかる、邪悪だもんねー気配が。うんうん。


「ワタシダケ ジリキデ ガンバッタ……。アンタ ナマエナニ? ワタシ キルケー」


「俺はウアピだよ」


「ウアピ ナゼ オレ イウ? ジョセイ イチニンショウハ タシカ ワタシ デハ?」


「ああそうだね、もう私って言った方が良いだろうな」


「?」


 女性として性化したのだからね。

 俺……私にはもう性別に対する戸惑いは無くなっていた。あれから半日ほど少年と過ごして自分の性にすっかり馴染んだ。

 私の順応性が高いのか、成人の儀式の及ぼす影響がそれほど大きいと言うことなのか。

 ああ、儀式っていうのは交情のことなんだけどね。人魚の里では事前に長のお説教があったりしてもっと仰々しいんだけども、やることは一緒なわけで。


「ところで、キルケーたちはここに何をしにきたの? ここまでくるの大変だったんじゃない?」


「サガシニキタ。マノイズミ」


 そう言いながら、キルケーは私のことをじっと見た。邪悪な感じが一層強くなる。

 私は思わず嘘を吐いた。


「マノイズミ? 聞いたことがないな。……それってどういう場所なの」


「マノモリニアル マソ タクサン アフレル」


 キルケーのオレンジの瞳が眇められる。

 まるで『本当は知っているでしょう?』と言っているように。


 

お読みいただきありがとうございます。

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