水葬の湖 一
「コイツを使えばいいさ」
そういって少年はパチンと指を鳴らした。
すると目の前の水面が大きく盛り上がり、ざばあっと巨大な生き物が姿を現す。
あ! あの時の巨大魚龍だ!
確か名前らしきものを囁いて消えて……
「……ウアピ?」
魚龍の瞳が深い黄金色に輝く。笑っているの?
「そうだよ、彼女の名前はウアピ。でもなぜ知っていたんだい? 」
「えっと、灯台島の洞窟に助けに来てくれた時に、教えてもらって」
「彼女は喋れないはずなんだけど……まあいいや。君が『白夜』を使ったのが分かったタイミングで、何かあるかもしれないと思って彼女を待機させていたんだ。まさかあんな狂った男が君を殺そうとするなんて予想できなかったけど。君が【召喚魔法】を使ってくれてよかったよ。それで、ウアピは君を助ける時にコイツを呑みこんだんだろう?」
エル・クエロが「コイツ」といったタイミングで魚龍が口をぱっくり開けた。
「わっ、アイツが出てきた。うわぁ、これ生きてるんですか?」
なんと魚龍の舌の上には、あの変態魔術師ルーカスが血まみれで横たわっていた。
体がちょっと溶けてるけど、かろうじて死んではいないらしい。もちろん意識はない。
「彼女は舌の上で獲物を味わい尽くして、じっくり溶かして食べるのが好きなんだ。このまま放っておけば死ぬけれど、人魚の血を与えて【再生魔法】をかけることができるよ。その上で【支配魔法】をかければ好きに使えるようになる。君はハーフだから効果の程は分からないけど、コイツに王宮まで案内させて、シンマスの居場所を聞きださせたらいいんじゃない? 」
いやいや、変態再生して使うとか超展開なんだけど、それを差し置いても聞かずにはいられない疑問があります!!
「ちょ、ちょっと待ってください! さっき私が【召喚魔法】を使ったって言ってましたよね? あの咆哮がそうなんですか? 【再生と支配の魔法】っていうのも言っていましたけど……。ええと、【魔法】じゃなくて【魔術】の間違いですよね? 【魔術】だったとしても【召喚】【再生】【支配】ってメチャクチャ難易度が高いヤツで、世界にたったひとりの「大賢者さま」だって難しいって習いましたよ」
「いいや、僕ら人魚は【魔法】が使えるんだ。しかも本能的にね。【魔術】みたいに訓練や煩雑な術式は必要ない。心に描いたり、簡単な魔法陣で発動できる。もっとも使える【魔法】はそう多くはないけどね」
わー! ちょっと信じられない。
【魔法】なんて古代の伝説というか、架空のものだと思ってた。
人魚スゲー。
しかも私も無意識に【召喚魔法】を使っていただなんてびっくりだ。
これってチートってやつじゃない? 悪役王女ヴィオレッタにもとんだ能力があったもんだ。
なるほどー、だからゲームでもあんなに強かったのね。
主人公やその取り巻きが徒党を組んで攻撃しても、ヴィオレッタには敵わなかった。
取り巻きの中には国一番の魔術師もいたのに強すぎないか? とゲームをやっていた頃は不満だったな。
正攻法では絶対に勝てないし。
「ギュリギュリ」
ひっ、魚龍が喋った。
エル・クエロは私がこのモンスターを【召喚魔法】で呼び出したって言っていたけど、すごい相手を呼んでしまったものだ。
金色に輝く目が私を見てる。
何かいいたげなんだけど何だろう?
「ギュリギュリ!」
「ああ、そうだよね。ヴィオレッタ、ウアピはせっかく自分が捕えた獲物で、今味わって食べているところなのに吐き出すなんて嫌だって言っているよ。もっともだよね」
「そ、ソウデスカ」
「うーん、でもコイツは色々と使えそうだからなぁ。じゃあこうしたらどう? これから人間たちの水葬があるからさ、その死体がウアピの気に入りそうなのだったら交換するってことは?」
「ギュリギュリ」
「OKだって言っているよ。じゃあヴィオレッタ、水葬の行われる場所まで泳いでいこう」
「あ、ハイ」
とりあえず返事をして、少年魚人と巨大魚龍の後を泳いでいく。
なんかついていけない……。
吐き出すとか交換とか、人体をガムみたいに扱っていませんか?
私も魚人ハーフなんですが、その感覚はまだ身に付いていないというか、そのうちヒトを単なる食料品扱いする時が私にも来るんでしょうか?
これがもしママとか、そうじゃなくても一般のヒトだったら怒りとか抵抗を覚えるかもしれないけど、変態魔術師ルーカスには燃やされたしなぁ。
同情する気は一切起きない。
それにしても召喚はもとより、人魚の血で相手を支配できるってすごすぎる。
チートどころか一国支配も夢じゃないよね。
そう思ってエル・クエロに聞いたところ、支配の魔法は発動条件が限られるうえに、一度に一体しか使えないそう。
瀕死の状態の対象に血の再生魔法をかけた状態じゃないと、支配の魔法は発動しないみたい。
命を助ける代わりに支配するって感じかな。
そして、ルーカスが滅しない限りは他の個体にかけることは出来ないそうです。
魔法については後で色々と教えてくれるのだそうだ。
本能的に使えると言っても、どんな魔法があるのかさえ知らないので助かる。
それにしても、人魚は魔法を本能的に使えるって言っていたけれど、じゃあなぜ私はずっと魔法どころか魔術も使えなかったんだろう。
そして、そんな私が昨日突然に『白夜』を行使できてしまったのはなぜ?
あの青い宝石のせいなのだろうか。
でもあれは、私が赤ちゃんの頃から傍にあったとママは言ってた。
それならばなぜ『白夜』は昨日発動したのだろう?
そんなことをつらつら考えながらも、お魚と化した下半身のおかげでスイスイ泳げて、今度はエル・クエロに遅れをとることはなかった。
途中で魚龍のウアピがスイっと私の横に並んで、意味ありげに金色の瞳で見つめてくる。
あ、そうか。助けにきてくれたお礼をまだ言っていなかった。
さっきのエル・クエロとのやりとりを見ると、等価交換っていうかタダでは動かないぞって感じを受ける魚龍だし。
何かお礼の品を差し上げなければいけないでしょうか。
何も持ってないから困ったなー。
お読みいただきありがとうございます。、




