魔女火刑
「さようなら下賤の血を引く姫よ。あなたの遺骸がもし燃え残ったら、御父上と並べて吊るしてあげますよ」
ルーカスが放った青白い火球が、バチバチと音を立てて迫る。ママが魔術を展開するためにすっと手をかざしたその時、私は火球に向かってダッシュした。
「ヴィオレッタ!! なにを!?」
思い出したのだ。ゲームの中のヴィオレッタの生い立ちを。
血濡れのヴィオレッタは捨て子だった。偶然この島に流れ着いて、ママに拾われて育てられた。
私と同じように、ママの愛情をたくさん受けて子ども時代を過ごした。
そしてヴィオレッタは、今と同じように殺されそうになったけれど、ママの犠牲によって助かるのだ。
さっきママが構築していたのはシールドの魔術ではなく自爆的な攻撃魔術だ。ゲームの回想ではそれでルーカスを倒してママも死んでしまう。王国最強と言われる魔術師に打ち勝つためには、自爆しか方法が無かったのだと思う。けれど世界で唯一だったママを無くして、ルーカスの部下たちに王宮に連れて行かれたヴィオレッタは凍りついた目をしていた。
だからヴィオレッタは王家を、国を、人を憎んだのだろうか。
もしも私が彼女と同じようにママを失ったなら、世界を焼き尽くしても治まりはしない。
それくらいなら私が焼かれた方がまし。それに炎は怖くない。肉体が蒸発する感覚は悪くなかった……お風呂みたいなもの。リフレッシュしてまた生まれ変わったりして。
それもいいな。またママに出会えれば。
【ーーーーーーー!!】
火球に触れる直前、私の喉から凄まじい咆哮が噴出した。本能的に迫り上がってきた絶叫は、洞窟中をわんわんと震わせた。それはヒトには聞き取れない音域の海の生き物たちが放つ信号のようなものだった。
バヂィッ
火球が私に着火し視界が真っ赤になる。髪は燃え上がり、思わず閉じた瞼は焼け落ち、眼球が露出する。
その眼球が蒸発する刹那に私が見たのは、岩壁をものともせず突っ込んできた巨大な口だった。洞窟の入り口がおおきく抉れて空が見えた。
え……魚龍? にしても大きすぎないか。
魚龍はルーカスを一呑みにすると、輝く黄金の目で私を一瞥し『私はウアピ』と囁いて消えた。
「ヴィオレッタ、いやよ! なんてこと、ヴィオレッターー!!」
――ママ、ごめんね……。
燃やし尽くされながら涙する。皮膚がまくれあがり、血管や筋や内臓が、血色の煙となってぶわっと舞い上がり、明け染めた空に吸い込まれていくのを感じる。
そして一瞬だけ朝焼け色に染まった骨も、灰色の粉になって海風に飛ばされていった。




