第一話 季節は移り往き
第七章開始です。
いのり君が両親と再会し十月の半ばに差し掛かる位になった。
季節は夏から秋の趣を強くし朝と昼の寒暖差が激しくなり、樹々は徐々に赤茶色に色付き始めてきた。
俺はカレンの店の準備やジャンさんの旅館開業の仕事を手伝うこととなり多忙な日々を送っていた。
他のみんなもかなり忙しく動いている。最近はみんな揃って団欒を過ごすことが取れない位だった。
茉莉ちゃんは学校が始まり、大学の時間以外はカレンの店の開店準備とルイジでの研修名目のバイトに追われている。
始めの方からカレンの手伝いをしているので店に関する事も凡そ把握しているので、さながら店の責任者のようになっており、最近は夕食も作れない位だ。帰ってくるのが深夜の時だってある。
楓ちゃんは、近々学園祭があるので、それの準備に掛かりっきりだ。
なんでも立花さんの発案でルイジというか、いのり君の用意したスイーツを出す喫茶店をクラスで出店するらしい。
欧女の学園祭は名門校だけあって各クラスに潤沢な予算が割り振られておりクオリティーが高いことで有名だった。もちろん、入れるのは父兄や招待客のみだけど。
そう言うわけで立花さんが計画をブチアゲて、楓ちゃんが各方面の折衝と予算の管理を行い、且つクラスメートの指導名目でルイジでアルバイトに勤しむという生活を送っている。
立花さんがお小遣い欲しさで修造さんを説得し、楓ちゃんもそれに乗っかったのだ。
もともと、ルイジは俺も役員としての登録があるので楓ちゃんは家業の手伝い、立花さんも家業の手伝いでルイジに行っているという体裁で親父さん、修造さん、俺に直談判してお墨付きを得ていたのだ。
楓ちゃんの成績は常に一位だし、カレンが家庭教師についてから立花さんの成績はうなぎ上りで最近は最上位層に簡単に食い込むくらいらしい。
ほんと、立花さんは経営者としての才覚があるような気がする。俺の知っている経営者がそんなのばかりだからな。
最近、常見が立花さんからお願いされて店のイベント用のメイド服を学園祭に貸し出すって言っていたし。たまに抜けているけど抜け目がない・・・。
いのり君は両親と再会してから、とても幸せそうな日々を送っている。
学校が終わればルイジのバイト、シフトがない日はジャンさんの店でジャンさんにくっついて修行して、帰りには本当の家で家族三人水入らずの時間を過ごしているので家にいない日が増えている。
ジャンさんも余程うれしいのか、常に付きっ切りで今まで以上に物凄く厳しく指導して、いのり君が泣きながら頑張って、帰って来たらみのりさんに泣きついてジャンさんがアタフタしているって遊びに来たみのりさんが言っていた。
でも、いのり君はそれが幸せだって言って、二人を赤面させているようだった。
そのため、休みの日は両親と過ごしたり、これまでお世話になった人にお礼参りに行ったりしているようだった。
最後にカレンだが、彼女が一番忙しいかもしれない。
俺達の計画が最終段階に入りほぼ働きづめと言っても過言ではなかった。
朝一に書類仕事をして、大学に行き、そのままリハビリを行う。それから店の開店準備を行い、山田さんやほかのトレーナーの人たちとレッスンの打ち合わせやトレーニング、カフェテリアスタッフにメニューの調理の仕方を教えて、俺や修造さん、常見に明美ちゃんとの打ち合わせをするといった日々だ。
たまに大学を休みながら日々を過ごしているが、毎日徹夜みたいだった。
最近はリハビリもかなりハードになってきているようで、かなりの負荷をかけて筋力を元に戻す、というか靭帯を傷めない筋肉づくりに勤しんでいるらしい。それが一から今まで使ってきていない筋肉を鍛え上げないといけないため合間合間にそれも行っている。
百合子君曰くだが、もうほとんど動けているけど細部のキレが戻らないから早く治したいと言ってかなり無茶しているらしい。
カレンらしいと言えばそれまでだが無茶が祟って、肝心な時にダウンしないか心配だった。
そんな感じでみんなそれぞれ充実した日々を送っていたが、なんだかみんなと一緒に過ごす時間が減って俺としては寂しさを覚える。
みんな頑張っているのはいいんだけど無茶しなければいいんだけど・・・。
まあ、そんなことを思っていると大体現実になったりするもんだよね。
「ゴホッゴホッ!」
「カレン、大丈夫か? というか大丈夫じゃないよな・・・。」
「大丈夫よ、というか今私が穴を開けるわけにはいかないわ。
もうオープンは数週間後なのよ・・・。」
「わかっているよ。だから今は休まなきゃ。本番に体壊して入院なんてシャレにならないだろ?
それに今日は俺が付いていてあげるから、みんなには連絡は取れるしゆっくり休むんだ。」
「・・・。そうね・・・。」
早朝、物音がしたので起きてみるとカレンがダイニングテーブルに突っ伏していた。
今日はいのり君が実家に泊っている日なので、そのいう日は朝ごはんを当番制にして今日はカレンが作る日だった。
取り敢えずは二階に抱きかかえて行く訳にもいかなかったので、俺の部屋のベッドまでお姫様抱っこで連れて行く。物凄く熱かった。
「・・・。温かい。」
「そりゃ、起きて早々だからな。」
「うん、和樹の温もりと匂いがするわ。」
「すまんな。男くさくて。」
「ううん。いい匂い・・・。落ち着くわ。」
「いま、氷枕と体温計を持ってくるからな。」
「うん。」
ダイニングに戻ると茉莉ちゃんが起きて来ていたので事情を説明して二人で手分けして朝ごはんとカレンの看病の準備をした。
「カレンさん大丈夫?」
「薬を飲んで休めば治るわ・・。ゴホッ!」
「病院が開くまでしばらくあるからな、それまではここでゆっくりしていてくれ。」
「和にい。私、今日はルイジのバイトとお店の準備で大学の後は夜まで帰ってこないし、楓ちゃんも学校の閉校時間までいると思うから、いのりちゃんが帰って来るまでカレンさんのことをお願いできるかな?
私は大学に行くまでにカレンさんのお昼の分のお粥を作って冷蔵庫にしまっておくから。」
「うん、わかった。茉莉ちゃんも最近働きづめなんだから、風邪を移されないように気を付けてね。」
「うん、手洗いうがいをしっかりするし休養はしっかりと取るようにするね。」
その後、起きてきた楓ちゃんと三人でごはんを食べ学校へ向かう二人を見送った後、カレンの隣で看病することにした。
「ゴホッ! いいのよ? 自由に過ごしていて。」
「いいんだよ、これが俺の自由さ。カレンが心配なんだよ。風邪だって拗らせたら大変なんだから。それはもう散々な目に遭ってきたからね。亜咲の時に。」
「そう・・・。ありがとう、気を付けるわ。」
亜咲は風邪一つ引いても大事になる体になってしまっていたので、当時の俺は物凄く毎回嫌な思いを、ハラハラする想いをしてきた。ちょっとしたことを取りこぼすと大変なことになってしまう。
風邪だと言っても甘く見ることはできなかった。
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