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girls side  茉莉②

今は、茉莉視点での序章②までです。

これで完全に序章は終わりです。

次は綾瀬 いのりのお話を中心に移っていきます。

 私は飯田さんに連れられて歓楽街に近いオフィス街の新しい雑居ビルの中にある事務所に来ていた。

 ここは高健寺のご住職様の次男さんが経営する夜のお店を統括している事務所で、そこで面接を受けさせてもらえるように取り計らってもらっていた。


 事務所に入るとゆったりとした服をまとった(たお)やかな女性が応対してくれた。

 応接室に通された私たちにコーヒーを入れてくれた彼女は向かい側に座って話し始めた。


「私はこのポーラスターグループの統括事務所、所長の緒方 明美です。

 この度の事情は当グループ代表より、お話をお伺いしております。

 しかし、残念ですが当方では未成年者の雇用は行ってはおりません。

 従って結果から言うと、いかなる事情があれども雇用することはできません。

 確かに当グループのキャストの希望者には社員寮の手配、及びセカンドキャリア形成の補助を行っております。それがあってグループの健全な経営と、成長が齎されております。

 ですが、それは我々の眼鏡にかなった成人に対してのみ行っております。

 この取り決めは社長及び重役が創業当初よりの理念として掲げてきたことです。いかなる例外も認めることはできません。

 飯田さんにはこのことは常々お話しさせていただいておりますよね。

 こちらがいつもご迷惑をお掛けしている側なので、余り言いたくはありませんが、そのことをご理解されたうえでのお話でしょうか。」


 目の前の女性、緒方さんが冷たく言い放つ。

 飯田さんも額の汗を拭きながら応対してくれる。


「ええ、緒方さん。私もわかっているのよ。

 あなたたちがどれ程健全に、そして清廉にこのお仕事をしているか、それによってどれだけ苦労してきたかも長い付き合いだからわかっているわ。

 だけど、ご住職と私も彼女の熱意を叶えてあげたいの。

 だから、こうして範を曲げてもらえないかってお願いしに来たのよ。

 そこをなんとか!」


 飯田さんが頭を下げてくれる。

 私も必死で頭を下げる。


「あなた、確か深山さんでしたよね。社長からお話は聞いております。この仕事がどのような仕事か理解していますか?」

「大体は、イメージでしかないですけど・・・。」

「そう、なら諦めてください。

 この業界は入るの簡単ですけど、抜け出すのは相当の覚悟と努力が必要です。

 そうでなければ続けられないか底なし沼に引き摺りこまれていくようなものなの。」

「私、覚悟してきました!!努力も得意だと思います!!」

「そうね、欧女の学生さんですものね。お勉強の努力は得意でしょうけど、ここでの努力はそれ以上のものが求められるの。

 自身への投資、人への気遣いや周囲との関係、お金の管理に営業など様々なことをたった一人で最終的には責任をもって取り組まなければならないの。自分とお店、そしてお客さまとそのお客様に対して。

 だから私たちはその覚悟を持った人達を雇用しているし、見返りを最大限利益で還元できるようにしているの。それ故の成人のみ雇用なの。」


 私は頭をハンマーで叩き割られた気分だった。


 考えが甘すぎた。


 漫画やドラマ、雑誌やネットで見聞きする以上に大変なお仕事だ。

 勉強が出来る以前に、それに加えて様々なことが出来ないといけない。

 甘すぎた。どうしよう・・・。ここで雇ってもらわなければ、振り出しに戻ってしまう。


「あの・・・。後ろの作業でもいいのでお手伝いさせてもらえないでしょうか?」

「だめです。いかなる作業であれ、未成年の雇用はしていないの。

 私も気持ち的には同情しているし、出来るならば雇ってはあげたいのよ。

 あなたは勉強以外でもしっかりしているし、たぶんうまくやっていけると思うわ。

 でも、それだけ。

 多分抜け出せなくなる。」


 茉莉、しがみつくのよ。亜咲ねえのように頭が切れる人だ。

 私は敵わない。

 でも、何としてでも縋りつくの!


 そうして、このような問答を飯田さんを加えて長い時間繰り返した。

 夕方に差し掛かるころ、緒方さんが埒が明かないので社長達と連絡してみると言って席を外す。

 そのころには顔を上げる力もなくうなだれている私。

 飯田さんが声を掛けてくれる。


「茉莉ちゃん。もうあきらめて、また探しましょう。

 それまでは、ウチに泊めてあげるから。まぁ、すべてが望み通りとはいかなくても何とかなる方法を探しましょう。」

「嫌です。何としても楓ちゃんを欧女に通わせてあげるんです。」


 ここまで来たら、私も意地になっているところがあるんだろう。

 私でもわかっている。でも、ここを逃したらどうしようもなくなる。

 あの顔の広いご住職様がここしか紹介して下さらなったということは、この近辺に住み込みの働き口はないってことだろう。

 悔しくて涙が出る。顔を俯いたまま、唇を噛みしめ涙でスカートを濡らす。


 そうしているうちに、しばらく時間が経ち、事務所に誰かやってきたようだ。

 何やら緒方さんと話をしている。

 そうして、再び緒方さんが入室してくる。


「失礼します。飯田さん。私では判断いたしかねますので、これ以降は経営顧問の大木の方が対応させていただきます。」

「どうも、いつもお世話になっております。」

「あ、大木さん。すいません。ご迷惑をお掛けして・・・」

「いえ、いつもご迷惑をお掛けしているのはこちらの方ですので。」


 そんな話を何やらしているが、絶望に打ちひしがれた私は理解することを放棄して、俯いたままだ。

 だけど、何としても最後のチャンスにしがみつかなければ!

 意を決した私は、話の折を狙って訴える。


「事情は承りました。ですが、私たちは未成年を雇用する例外を作ることはできません。ですのでお力になりたくても・・・。」

「そこを何とかお願いします!!私、大学を辞めて働きますから。何でもします!!妹を高校に行かせてあげてください!!」


 立ち上がって、腰を精一杯折って、懇願する。今の私にできる精一杯だ。


「あー。落ち着いて。落ち着いて。

 俺だってここでの仕事をさせてあげるのは無理でも、君たちを助けたいって思ってるよ。

 そのあたりを含めて、住職や飯田さんがここに来ているんだから。」


 この人は、先ほどの緒方さんとは違う考えのようだ。光明が差し込んだ!!

 あれ・・・?なんだか懐かしいな。

 そんな気持ちになりながらも、顔を上げる。


「ほんとですかっ!!」


 顔を上げて目に入ってきた、男の人の顔は・・・。


「え?・・・茉莉ちゃん??」

「・・・和にい?」


 そこにいたのは災害以来、行方知れずだった和にいだった!!


(和にい!!和にい!!会いたかったよ!!和にいぃぃ!!)


 私は天にも昇る気分だった。

 夢にまで見た和にいが目の前で、私を見捨てずに助けてくれると言っている!!

 私は、明晰夢でも見ているような気分だ。

 それも醒めないでほしい方の。

 今、一番傍にいて欲しい、抱きしめてほしい最愛の人が目の前にいるんだから!!


 そうこうしているうちに話がまとまっていく。

 私は王子様に手を差し伸べられた気分で、和にいについて行くことにした。


 何があっても、もう大丈夫。

 和にいと亜咲ねえが何とかしてくれる。

 そんな希望と安心を抱いて。

 だけど、そんなことはない。

 世の中はやっぱり残酷だなんて、夢見心地の私はこの時に思いもよらなかった。



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