第一話 慰霊祭
第五章開始します。
夏編後半です。
みんなが夏休みに入って、家の中は騒がしくなってきた。
お盆前に花火大会、お盆、お盆明けには海への旅行が控えている。
女の子たちは各自の夏の予定をこなしつつ、これらへの準備に余念がないようだった。
「あ~!!宿題が終わらない~!カレンさん教えてくださいよぅ。」
「ダメ。まずは自分で解いてみて、わからない所を具体的にしていかないと何にもならないわ。」
「美里、頑張らないと遊びに行くはずが宿題漬けになってしまう。」
楓ちゃんは立花さんと夏休みの宿題に取り組んでいる。
日中にカレンの家庭教師も入れて頑張っている。
今回の海旅行もまた立花さんにお世話になっておるので、何としても宿題漬けだけは避けてもらいたい。
カレンのほうは、集中してリハビリを行いながら俺達とのビジネスの仕事を行ってくれている。
最近は打ち合わせで常見の事務所や修造さんの会社に行っていることが多い。
凡その内装が決まり、フィットネスのシステムとカフェのメニュー作成が最近の仕事だ。
また、合間に立花さんの家庭教師もしている。
彼女はこの間納車された車でお盆の間は島根の祖父母宅に里帰りをするので、それまでにタスクを片付けようと忙しい日々を送っている。
「はい、大木さん。冷やしあめだよ。」
「ああ、ありがとう綾瀬君。」
綾瀬君が冷やしあめを作ってくれてみんなに渡してくれる。
綾瀬君は夏休みに入ってからほぼ休みにしている日以外は啓介たちのレストラン、リストランテ ルイジのアルバイトだ。常に満員の人気店だけあって夏休み期間はお客さんがいつもより多く、いつも以上に手が回っていない。故に卒業後の就職が決まっている綾瀬君は最近は様々な業務も任されるようになり深夜に帰宅することも多い。
彼女もお盆期間は育った施設に里帰りをする予定のため、忙しく過ごしている。
「はい、和にい。おやつのスイカだよ。」
綾瀬君に少し遅れて、茉莉ちゃんがスイカを切って持って来てくれる。
茉莉ちゃんはお盆はここでゆっくりするって言っていた。
お盆前には認知症が進んだ祖母が入所する老人ホームに泊りがけで楓ちゃんと様子を見に行ってくるって言っていたっけ。
名目上は彼女たちの保護者になっているおばあちゃんだ。昔に俺も何回か会ったことがある。
その時には優しそうなしっかりとしている人だと思っていたが、認知症が進み最近では茉莉ちゃんを娘さん、茉莉ちゃんのお母さんに勘違いすることが多くなってきているらしい。
「ねえ、茉莉ちゃんは夏休みにしたいことってないのかい?」
「どうしたの和にい。急にそんなことを聞いてきて。」
「いや、ふと思ったんだよ。茉莉ちゃんに家事ばっかりしてもらっているし、なんだか悪いなってね。
何かやりたいことや、行きたいところがあれば、優先してほしいなって思って。」
「う~ん。私は別にやりたいことは特にないかな。せいぜいおばあちゃんに顔を見せてくるくらいで。
それにあれからの夏休みは基本お勉強漬けだったから、何をすればいいかわかんないよ。あはは。」
う~ん。これは困ったな。
俺達が離れ離れになった後の夏休みは俺と亜咲に憧れて勉強を必死に頑張って欧女に入学して、そこでトップの成績を維持し続けてきた茉莉ちゃんらしい回答だ。
これは何らかの形で報いてあげたいな。
夏休み中には何かしてあげよう。
そんなことを思いつつ俺は手元にあった一通の手紙に目を通す。毎年届いているが無視している手紙だった。内容は確認しなくてもわかっている。
今は俺は一人じゃない、もしかしたら大丈夫かもと俺は考え、そして一つのことを決断する。
「ねえ、茉莉ちゃん、しばらくしたら俺の手伝いをしてくれないかい?」
「いいけど。私に出来ることなの?」
「うん、楓ちゃんと一緒に来て欲しいところがあるんだ。どうしても二人に一緒に来て欲しいんだ。
ただ、嫌なら無理しなくていい。俺もそこまでしていきたいとは思わないから。」
「一体何?和にーちゃん。」
休憩中だった楓ちゃんがやって来る。
「ああ、俺たちの集落が崩壊したあの災害の慰霊祭に行かないか?」
手元にある手紙はそれの招待状だ。
二人とも目を開けてびっくりしている。
俺達にとって亜咲の事と並ぶタブーの一つだ。
すべての事象の原因になった災害の慰霊祭に行きたいと俺が告げたからだ。
俺はあの災害で目の前で家族を亡くし、亜咲だって重傷を負いそれが原因で亡くなった。
茉莉ちゃんたちも命は助かったけどすべての財産を失くしてしまった。
俺達にとって目を背けたいことだ。
だが、今の俺なら、茉莉ちゃんと楓ちゃんがいてくれるならこれに向き合えるような気がする。
昔は亜咲のことで精一杯で見向きもしなかった。だけど二人が来てくれて、みんながいてくれるお陰で前を向いて暗い過去に向き合えるようになったんだと思う。
「二人のお陰で向き合う勇気がもらえたんだと思う。だからお願いできないかな?」
そして二人は無言でうなずいてくれた。
俺の家族、亜咲のお母さん、崩壊で亡くなった多くの近所の人達の命日である慰霊祭当日を迎え、俺たちはかつて住んでいた集落跡の慰霊祭に出席した。
俺も茉莉ちゃんと楓ちゃんもあの後からは一度も訪れていなかったが、今では防災工事が為され昔の面影は何一つなかった。
慰霊碑がある広場には昔懐かしい人たちの顔もチラホラと見える。
「あ、和樹ちゃんじゃない!それに茉莉ちゃん、楓ちゃんも!!」
「おう、和坊じゃねえか。立派になってよぅ。茉莉ちゃんに、楓ちゃんも別嬪さんになって!」
近くに住んでいた人の何人かが俺たちに気が付いて声を掛けてくれる。
あの時集落にいた子供は俺と亜咲、茉莉ちゃんに楓ちゃんだけだったのでみんなにかわいがってもらっていた。
俺達は再会を喜び合いながら慰霊祭に出席した。
黙とうを捧げ、献花を行い、この慰霊祭を取りまとめている代表の人の挨拶がある。
内容の中には俺の祖父の話があった。
あの時、集落の代表を務めていた俺の祖父が崩落の危険性に気付き、周囲の人を避難させ最後に一家で避難したところ巻き込まれた。本当に尊い人たちを失くしてしまった。
そんな話だ。だが、周囲には美談だったとしても俺や茉莉ちゃん、楓ちゃんにとっては向き合いたくない過去、惨劇だった。
その話をされた時、俺はひどく顔から血の気が引いて震えていた。
目の前で土砂崩れが起きた時、祖父母と両親が俺を安全なところに無理矢理押し出してくれた瞬間がフラッシュバックしてくる。あの時のみんなは自分の命を放り出してまで俺を助けてくれた。最後まで俺を安心させようと励ましながら巻き込まれていった。
俺は悔しくて悲しくて今にも気が遠くなりそうだった。
だけど両隣にいてくれた茉莉ちゃん、楓ちゃんが俺の手を握りしめてくれていた。
二人とも俺とおんなじで辛いだろうに、顔は涙でグチャグチャになっているのに必死で俺を支えていてくれた。
こうして何とか慰霊祭が終わり、久しぶりに再会した人たちといろいろと話をした。
俺と亜咲のこと、亜咲のお父さんのこと、茉莉ちゃんと楓ちゃんの両親のことを。
みんな付き合いが深かったから我がことのように悲しんでくれた。
亜咲のことはみんな泣いて俺を励ましてくれた。
やっぱりみんな変わっていないんだな、俺は、俺たちはそんないい人たちに育ててもらっていたんだって感謝しかなかった。
来年もまた再会しようと話をして慰霊祭は終わりを告げた。
「今日は二人ともありがとう。辛い思いをさせてごめんね。」
「ううん。一番あそこで辛いのは和にいだよ。」
「うん、じーちゃん、ばーちゃん、おじちゃん、おばちゃん、亜咲ねーちゃんを失くした和にーちゃんが一番つらい。」
「かもしれないけど、二人だって辛かっただろうに。」
「でも、私達には和にいがいてくれたから、今も守られているから大丈夫だよ。」
「そう、ありがとう。」
「そっか、でもそれは俺も同じだよ。二人がいてくれたから傍で見守っていてくれたから向き合えたんだよ。これからもよろしく頼むよ。」
「「うん!!」」
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