序章⑤ リストランテ ルイジにて
序章本編終了です。
ようやく三人目の子が出てきます。
二人が風呂に入っている間、俺は自室で明美ちゃんからもらった資料を読んでいた。
一応は、常見と啓介の会社の経営顧問なる役職を与えられ手伝っているのでこの手の資料などはことあるごとに明美ちゃんから送られてくる。
常見の店の売上はいつも通り上昇してきているが、最近開店したての店の損益はまだ赤字ってとこか。
啓介の店は常見の店へのケータリングに加え、本体の売り上げもメディア戦略が好調でうなぎ上りってところか。
顧問と名の付く俺だが現状軌道に乗った商売なので、新規開店などの相談、面倒ごとの相談がほとんどだ。
資料をファイリングして、明美ちゃんに数点気になった個所を教えてほしいとメールして、ダイニングに行くと楓ちゃんが牛乳を飲んでいた。
「和にーちゃん、お先。」
「ああ、気にしなくていいよ。これからは毎日なんだから。」
楓ちゃんは風呂上りの服装はショートパンツと半袖のシャツだった。線の細い茉莉ちゃんと比べ、肉付きがよく、メリハリがハッキリとしている。ただ、身長が低いが。
「? 和にーちゃん、良からぬことを考えてたでしょ。えっち。」
「ん? あぁ、大きくなったなってな。まだあっちにいたころはすっぽんぽんで川に入っていたりしたからね。」
顔を赤くする楓ちゃん。
「それは、あの時は子供だったから。その時は気にするなんて考えてなかった。」
「まあ、そういうところも含めて、大人になったってね。」
そんなことを話していると茉莉ちゃんが上がってきたようだ、長いロングヘアの水気をバスタオルで取りながらやってくる。
その姿はとても色っぽかった。
「和にい、ありがとう。さっぱりしたよ。」
「・・・ああ。それはよかった。それじゃあ俺も入ってくるよ。二人とも上がったら昼飯にしようか。」
そういって俺も風呂に入るのであった。
風呂を上がった二人にカルボナーラを作ったら喜んで食べてくれた。
昔、よく親がいない時にせがまれて作っていたのだが、今でも好きでいてくれてよかった。
「二人とも、昼から買い物に行くけど、必要なものは何かな?」
「私は特にないけど、できれば・・・姿見か、鏡台があったら。」
「同感、今は折り畳みの鏡しかないから、あると嬉しい。あと小物をしまえる棚かシェルフが必要。」
「わかった。
なら、行きつけの家具屋があるから、そこに行ってみよう。他にそこで気に入った物とかあったら買ってくれて構わない。何せ必要最低限の物しか置いてなかったからね。」
「何から何までありがとう、和にい。」
「気にするな、俺から二人への進学祝いだと思ってくれ。今は春休み期間だけど、新学期に向けて必要なものがあったら遠慮なくいってくれ。」
「わかった。」
そうして、行きつけの家具屋(それなりに高級)に行って二人の姿見や棚、その他もろもろを購入した。
二人とも値札を見て遠慮していたが、そこは家のデザインと合うものにすると相応なものじゃないと合わないと言って説き伏せた。
結局、あきらめた二人に各々必要だと思うものを吟味してもらったら、それなりの量になった。
そうこうしているうちに啓介の店で予約している時間に近づいてきたので、啓介の店に向かう。
「二人とも、今からもう一人の俺の悪友と亜咲の友人夫婦がやっている店に行く。
一応昨日話した亜咲の最期の事情は誰にも教えていないから秘密にしておいてくれ。」
「うん、わかったよ。」
「気を付ける。」
店に到着して、関係者用の駐車場に車を停めてから店に入る。
まだ少し開店時間に早かったが、里奈からは構わないと言われているので遠慮なく入らせてもらう。
すると、カウンターの奥から金髪のショートボブの女の子がやってくる。
「あ、お客さん。まだ開店前なので、少々おまち・・・。ああ、大木さんですか。今、店長と料理長を呼んできますね。」
やってきた女の子、綾瀬 いのり君は、啓介の店が開店したときにアルバイトの一人として入った子で、一番シフトを入れてくれている。
啓介夫婦、特に里奈の信頼が厚い、調理学校に通う専門学生だ。
「ちょうどいいとこに来てくれてわ。準備が今終わったところだから。」
そういって奥から里奈が出てきた。里奈は茶髪のロングヘアをポニーテールにしてブラウスとパンツでエプロンに身を包んでいる。
「いろいろすまないな。で、こっちの二人が電話で話していた子たちだ。」
「この子たちのことは亜咲から聞いてるよ。私はこの店の店長の滝川 里奈。よろしくね、茉莉ちゃん、楓ちゃん。何か困ったことがあったら亜咲だと思って頼って。」
里奈は二人に向かうとそう挨拶する。
「はじめまして、深山 茉莉です。今日はごちそうになります。」
「深山 楓です。」
二人も俺と亜咲の友人ということで、安心した笑顔で挨拶を交わす。
「で、私がこの店のバイトリーダーの綾瀬 いのりだよ。よろしくっ!」
ひょっこりと奥から綾瀬君が出てきて挨拶する。
二人とも突然のことにびっくりしている。
彼女は本当に明るい子だ。俺にもよく絡んでくる。
「いやいや、関係ないでしょ。綾瀬君は。」
「そんなことないよー。里奈さんの妹分みたいな子なら、私も挨拶しておかなきゃ!」
里奈に対する信頼が最近は信奉に近いものとなっている。
「おーい、俺忘れてね?忘れてないかな?」
そういって隅から顔を出す、もう一人の悪友、滝川 啓介。
「いや、忘れてない。お前の存在が薄いだけだ。」
「ひどっ!!俺だって気にしてるのに!」
俺は二人にこいつを紹介する。
「こいつが俺の悪友の一人、滝川 啓介だ。大学時代に俺と亜咲の飯に感動して、何故か店を開いてしまった変な奴だ。」
そう、この啓介は学生時代に金欠になることが多く、俺や亜咲が飯を食べさせていたことがよくあった。
なぜかそれに感動して、料理の道に入った一風変わった奴だ。
だが、才能があったようで今では開店して早々に有名店に名を連ねる料理人の一人だ。
「私、テレビで見たことあります。
今一番センスのある料理人の一人、リストランテ ルイジの滝川 啓介さんって。」
茉莉ちゃんが目を輝かせて啓介を見ている。
「お姉ちゃん意外とミーハーなところがあるから。」
楓ちゃんが解説してくれるが、表情は茉莉ちゃんとおんなじだ。
二人そろって、目を輝かせている。
そういや、こいつTVデビューだーとか、以前、飯を食っている時に自慢してきたりしていたな。
「いや~それほどでも。」
パチーン
「鼻を伸ばす前に、最後の仕込みをしてきなさい!バイトちゃんたちをほったらかしにするんじゃないよ!」
里奈に頭を叩かれ、啓介が奥のキッチンに帰っていく。
「ま、取り敢えずウチの料理を楽しんでいってね。」
そう言って仕事に戻っていった。
「ほら、いのりも準備に戻って。今日はこの子たちの給仕を任せるから。最後の仕上げをして持ってきて。」
「了解です。里奈さん。ちょっくら仕上げて持ってきますね。」
里奈に綾瀬君も言われて仕事に戻る。
俺たち里奈にはテーブルに案内され、啓介の料理に舌鼓を打った。
時たま里奈や、啓介が来て、亜咲のことなどを二人と話してくれていた。
綾瀬君も給仕の合間などに二人に話しかけてくれ、茉莉ちゃんと楓ちゃんは三人とすぐに打ち解けてくれたようだ。
何から何まで気を使ってもらい三人にはしばらく頭が上がらないな。
こうして俺たちの生活が始まるのだった。
しかし、しばらくしてまさか綾瀬 いのり君もうちに転がり組んでくるとは、この時思いもよらなかった。
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