序章④ もう一人の悪友
朝日が中庭の窓から入り込む。
俺はそれを受けて目を覚ます。
俺と抱き合って寝ていたはずの茉莉ちゃんがいない。
俺と、楓ちゃんには俺の寝室にあった毛布が掛かっている。
「・・・」
辺りを見回すと、ダイニングキッチンのアイランドキッチンで朝食の支度をする茉莉ちゃんがいた。
楓ちゃんを起こさないよう、そっとソファから抜け出し彼女の元へ向かう。
「おはよう。茉莉ちゃん。
俺がご飯くらいは作るのに・・・。」
「おはよう、和にい。
一応これでも私、住み込みの家政婦として雇われている身だから、これくらいはちゃんとしないと。」
ああ、そうか。事務所で話していた時、そんなことを建前で使っていたな。彼女はこれを真に受けているのか。
俺は全然そんなこと思ってなかったのに、妹、家族同然の彼女たちを嫁入りまで責任もって養わなければと思っていたくらいなのに。
茉莉ちゃんは手際良くありあわせの材料で和食の朝食、ごはんに味噌汁、目玉焼きにほうれん草のお浸しを作っていく。
「昔、和にいと亜咲ねえが作っていたから私もって、頑張っていたんだ。いつか、二人と再会したときに驚かせようって思って。」
「いやいや、俺と亜咲は父さんたちが、旅行に行ったり、仕事で忙しかったりした時のために仕込まれただけだから。」
「それでも、私には二人が目標だったんだよ。」
そんなことを言いながらダイニングテーブルに配膳を終える、茉莉ちゃん。
「和にい、ごめんだけど、楓ちゃんを起こしてもらえないかな?」
「ああ、お安い御用だ。」
俺は、ソファに寄りかかって眠っている楓ちゃんをゆすって起こす。
「楓ちゃん、朝だよ。起きて。」
「・・・和にーちゃんだ。これは夢だ。早く寝て、起きなきゃ・・・。」
そういって、楓ちゃんは、再び眠りに落ちようとするが・・・。
「うそ!!本当のことだ!!起きなきゃ!!」
がばっと目を見開き、顔を赤くして立ち上がる。
「あはは・・・。おはよう。楓ちゃん。」
「お、おはよう。和にーちゃん。あ、あの寝顔見た?」
「? ああ、見てるけど・・・」
「ーーーーー!!」
楓ちゃんは急に顔が赤くなって毛布をかぶり、丸まってしまった。
何がいけないことをした?俺。
しばらくして準備を終えた茉莉ちゃんが、楓ちゃんを引き摺りだして、朝食を摂る。
朝食を摂り終えて、コーヒーを飲んでいる時に俺は口を開く。
「取り敢えず、夕飯も風呂も入らずに寝てしまったから、風呂に入ろうと思うけど、入る?」
「うん、入る。」
「できれば・・・。」
二人とも年頃の乙女だもんな。そりゃ入りたいよね。
でも、初めての家で言いづらいと思って、敢えて聞いてみてよかった。
「じゃあ。風呂の場所と沸かし方を教えるよ。沸かしている間に二人の部屋の案内もしたいからね。」
そうして、風呂場と沸かし方を教えて、沸かしている間に彼女たちを二階の客間に案内する。
「二人とも、こちら側の部屋を一室ずつ使ってくれ。一応、ベッドとデスク、本棚にクローゼットしかない狭い部屋だけど。」
二人に客間として使っている部屋に案内する。
この部屋は、常見、啓介夫婦、明美ちゃんしか使ったことがないが、一応彼らが泊まることもあったので準備していた部屋だ。そのため最低限のものが揃っている。
「わぁ!」
「ほんとにいいの?和に―ちゃん。私たち二人一部屋でもいいんだよ?」
二人とも驚いている。
集落にいた時も二人一部屋だったが、その後の住まいも同じだったようだ。
「構わないよ、部屋はこれでもまだ余っているし。この部屋に荷物を広げて、お昼を食べたら足りないものを買いに行こう。
遠慮はしなくていいから必要なものを教えてくれ。あと、夕飯は外で食べるから、そのつもりで準備しておいてくれるかな?
お昼ごはんは二人が好きだった、カルボナーラを作るよ。」
「やったー!!和にいのカルボナーラなんていつ振りだろう。早く食べたい!!」
「お姉ちゃんでも、和にーちゃんの味を再現できなかった。楽しみ。」
二人は喜び合って、互いの部屋の片づけを始める。
そうして二人にお風呂が沸くまで片づけをしてもらいながら、俺はもう一人の悪友、滝川 啓介に連絡する。
啓介は、俺と常見の出資で最近イタリアンレストランを開店したばかりだ。
出店早々に全国メディアにも取り上げられる話題店だ。身内びいき抜きで見ても、センス、味は一級品だと思う。
「はい、和樹。どうした?」
「ああ、啓介。今日の夜、席は空いているか?」
「ああ、空いているけど。いつものカウンターでいいか?」
「いや、三人だ。テーブル席がいい。」
「お前が一席以外を予約なんて珍しいな。ちょっと待て、里奈に確認する。」
啓介は消音モードにし、嫁さんの里奈に確認しに行ったようだ。
俺と亜咲、常見に啓介と里奈は同じ大学で知り合った学友だ。
そんな流れで、今も付き合いが続いている。
「三人席なら、17時から空けれるぞ?」
「なら、それで頼む。俺と亜咲の妹分を連れて行くから。飛び切りのモン食わせてやってくれ。」
「まじか!?お前と亜咲の妹分ってことは、舌が肥えてるじゃん。」
「いやいや、お前はもう俺たちより腕は上だよ。」
「いいや、俺が認めるまでお前たちが目標だよ。
え!?何!?代われ!?
里奈が話したいってよ!」
「ああ」
「和樹?」
俺たちの学友で、啓介の妻である里奈が電話を取って代わる。
「話を聞いていたけど、もしかしてアンタのお隣の姉妹のこと?」
「よく知ってるな。」
「それくらい亜咲から聞いてるよ。かわいい妹たちだって。
時間は気にせず、用が済んだら連れてきて。
たくさん歓迎してあげるから。
お代もいらないし、早く連れてきてね。」
「すまない。恩に着る。」
「いいって。それに和樹が昔みたいに元気に話しているのも懐かしいよ。よっぽど嬉しかったんだね。」
「ああ、そりゃあ。本当に久しぶりだからな。」
「なら、猶更早く連れてきてね。待ってるから。」
そういって、里奈は電話を切る。
しばらくすると湯沸かし器のチャイムが鳴ったので、二階にいる二人を吹き抜けから呼び出す。
「二人ともーー!!お湯が沸いたから順番に入ってくれ!俺は奥の自分の部屋にいるから。終わったら教えてくれ!!」
「はーい」
二人の返事を確認し、俺は一番奥の自室に引っ込む。
そして、棚に飾ってある亜咲の写真に報告する。
「亜咲、茉莉ちゃんと、楓ちゃんが来てくれたよ・・・。逢わせてやれないのが本当につらいよ・・・。
でも、俺が二人をちゃんと見守るから。お前も天国で子供と一緒に見守っていてくれ。」